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62、始まりの神官

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「あっ!!!あの時の!!」
「思い出して頂けた様ですね。あの時のコインはまだ有りますか?」と微笑みながら聞いて来た。

「どう言う事なんだアニエス?」とアルフォンスが聞いて来た。

「前に一度、破落戸ごろつきに絡まれた事が有ってその時に出会ったの。私が1人で破落戸は倒したんだけど、この方、物陰に隠れて見てたの。だから女性が困っているのに助けないのかって言ったと思う。」

「そうですね。見物料のコイン。お渡ししましたねぇ。」と優雅に微笑んでいる。

「私は神の使いなんですよ。ギフト能力は神が人間に与えた能力。だから私はギフト能力者はほぼ網羅していますよ。もちろんアニエス、貴女の事も知っていました。」

「貴女は貴重なですからねぇ。いつも動向はチェックしていました。先日もエミリアの所へお邪魔しましたよ。」

「それは何ですか?時渡りの乙女って。。。」

「その前に少し昔話をしましょう。この大陸を神が作られた時に、神は自分の分身として2本の剣をこの地に与えられた。1本目は開闢かいびゃくの剣、もう1本は貴女の持つ豊穣ほうじょうの剣です。」

「時は流れそれぞれの剣は離れ離れになった。そして何百年かに1度、剣は人を使いこの地へ里帰りする様になった。」

「もう、開闢の剣は帰ってきて居ます。そして豊穣の剣はアニエス、貴女が今日ここへ運んでくれました。」

「この剣達は人を選びます。この世界に自分を持つにふさわしい者がいなければ時を越えてまでも人を探します。この時代の豊穣の剣が選んだのはアニエス貴女だったのです。豊穣の剣は見た目の通り大きな剣では有りません。だから大きな剣を持つ者に負けない様に、選んだ者に力のギフトを与えます。」

「そしてもう一つ、既に貴女は知っているはずですね?魅了のギフトです。豊穣の剣が自分が選んだ者を守らせる為に強い男を魅了するのです。なのでそこにいる貴方。貴方もまたこの剣に選ばれて居るのです。」とアルフォンスの方を眺め頷いた。

「剣の所有者であるアニエスが無意識にでも選んでいるのですからね。恐らく貴方がこの世で1番強い男ですよ。これは男として誇って良いですよ。」と穏やかに笑っていた。

思わずアルフォンスと見つめあった。話の規模が大きすぎて何とも言えない。

「あっ、これについて教えて下さい。」とポケットからギフト能力を向上させるドリンクを渡した。

そのビンを手にしながら
「あぁ、これは私が作っています。年に一度の特別な満月の夜にだけ作る事が出来ます。なので流通は殆どしないはず。これは諸刃の剣で使用者の寿命を縮めてギフト能力を高めるのです。昔の名残ですね。能力者達が神殿などを作る際にこれを飲んで労働をして貰っていました。」

「私が作っていると言っても年々作れる数が減って来ているので、あと何年か後には作れなくなるでしょうね。」と少し寂しそうに話した。

「最後に開闢の剣について教えて下さい。開闢の剣は男性が持つ剣ですか?」


「そうですよ。かつてオスカーが持っていました。ですが彼は早い段階で返しに来ました。
時を超えて呼び寄せたのに、あまり開闢の剣が彼を気に入らなかったのかも知れませんね。」

「元々開闢とは天と地を開くと言う意味です。本人にあまりにその気がなく、それを察した開闢の剣は大したギフトは与え無かったようですし。」

「その辺りは割と神の分身でもある剣達はドライで気まぐれなのです。なのでアニエスのギフトも今後どちらも残るかも知れませんし、どちらも残らないかも知れません。また片方だけになるかも知れませんね。」

「他に聞きたい事は有りませんか?」と優しく諭す様に話して来る。

「いえ、ここまで来たかいが有りました。ありがとうございました。そろそろ失礼します。」と伝えると

「豊穣の剣をここまで運んで下さりありがとうございます。もうすぐここは人が入れなくなります。早くこの島を出て下さい。どうかお2人ともお幸せに。私は心から祝福しますよ。」と微笑みながら消えて行った。

「急ぐぞアニエス。」とアルフォンスが声をかけた。その瞬間ゴゴゴーッと大気が裂ける様な大きな音がした。地面が揺れている。

教会の裏の方を見ると裏山が真っ赤に染まっている。今にも噴火しそうだ。待っているはずの馬車はもうその場には無かった。

足を取られながらもアルフォンスと必死で走った。こんなに走るのは、大学のサークルの練習の時以来だわ。

港に着くとすでに島民が次々と船に乗り込んでいる。

アルフォンスが私の手を取ると一緒に船に乗り込んだ。

それから間も無くセント・ホーリィ島が噴火を始めた。教会があったと思われる場所はもう跡形も無く火の海になっていた。
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