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36、対決

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その時が来るまで、アニエスはひたすら耐えていた。

途中で女性を連れて行く際に、アダム王の顔も確認出来た。

女性かと見まごう様な痩せ型で瓜実顔の色白な男だった。背丈はさほど高く無い。服の上から見た感じだとそう筋肉質でも無さそうだ。

ただ、何となく真っ赤な唇がやたらと目に付いた。なぜだろう?

アダム王が女性を連れて入る部屋は決まっているみたいだ。ちらっと見えただけだが、なかなか豪華な造りの部屋だ。

あまりキョロキョロすると暗示が解けていると勘繰られるので眼の動かし方は最小限に。

後、あの大男はアニエスが今まで見た男の中で恐らく1番強い。

チラリとアルフォンス達と闘っているのを見たが衝撃波が使えるみたいだ。

強さだけならたぶんうちのウィリアム総団長並みかそれ以上。ただ衝撃波が使えるとなったら倒すのは相当厳しそう。

師匠が神殿には近寄るな。と言っていたのはあの男を暗示してたのか?


・・・・あの射程距離に入らずに倒すには?





◇◇◇◇◇




「アダム王、恐らくこれが最後になるでしょう。こうして拉致も失敗していますし、もう、オーロラ王女はしばらく表には出て来ないと思われます。」と牢の前でアダム王とリネカー神官長が話している。

気配を消してはいるが、部屋のどこかにあの大男もいるはずだ。

「くそぅ、忌々しい。レンブラントめ。」と顔を歪めて親指の爪を噛み出した。

「まぁ良い。今宵はあのレンブラントの小娘で楽しむとしよう。?」

リネカーは牢を開けると、目ざとくアニエスを引っ張り出した。この男、華奢な体の割には結構な力だ。

そのままアダム王に引き渡され、例の部屋に連れ込まれ鍵を掛けられた。

「レンブラントの小娘、さぁ、思い知らせてやる。」と下品な笑いを浮かべながらアニエスに近寄りそのドレスの胸元に手をかけた瞬間

「グエッ。」とアダム王が吹っ飛んだ。
アニエス渾身の右ストレートだ。

すかさず駆け寄り胸ぐらを掴み上げ、右頬に連続3発お見舞いした。最後にアッパーカットを打ち込んだら既に失神していた。
あっ、歯が2~3本折れてるかも。


誰も部屋に入って来ようとしない。


「ふふ、だって普段からこんな物音がしてたものね。」

伸びたアダム王を引きずりながら、ドアを開けて部屋を出た。


「なっ何だ。おっ、お前!」とリネカーが叫ぶと同時に唸るような衝撃波が襲って来た。

さっと避けると、アダム王に剣を突きつけ「この人どうなってもいい?」と首を傾げ可愛く2人に聞いてみた。

「まずリネカーさん、部屋の扉を開けて頂戴な?」とリネカーに?した。渋々部屋の扉を開けるリネカー。それと同時にオスカーとアルフォンス達が雪崩れ込んできた。

「そちらの大男さん、武器を捨てて床に臥せて下さいね。早くお願いしますね。」とにっこり笑いながら指示を出すアニエス。

・・・・その言葉をオーロラ王女の顔で話しているのだ。

「ったく、恐ろしいお嬢さんだ。ノイリのギフトが効かなかったなんて初めてだ。恐れ入るよ。」と大男が腰の刀を外しながらのたまった。

「お兄さん、ギフト能力の過信は禁物なのよ。よく覚えておくのよ。ふふふ。」すでにアニエスの人格では無いような?一体だれ?

そう、実はアニエスなりに気を使っている。

自分が今オーロラ王女の顔をしているので上品に行くべきだと。オーロラ王女の品位を崩す訳には行かない!と。

ただそのベクトルが残念な方向へ向いている事に気がついてない。

アダム王、リネカー、大男が次々と縛り上げられている。

「さぁ、ショータイムを始めましょう。アルフォンス団長、連れて来てますか?」

「ああ、ばっちりだ。マリィここへおいで」と優しくアルフォンスが呼ぶと、頬を赤らめたマリィがとことこやって来た。


アニエスは「こんにちは。マリィちゃん、お母さんに会いたい?」とマリィに聞いた。


「えっ、お母さんに会えるの?うん、うん、早くお母さんに会いたいよ。」と涙声で話した。

「じゃあ、このおじさんが知ってるからマリィちゃんのギフトで聞いてみて。」

「やっ、やめろ!その子供を近づけるな!」と縛られた体を捩りマリィの手を避けようとする。

反抗虚しくリネカーの頬にマリィの手が触れると、呆気なくベラベラ喋り出した。どうやら別の場所に囚われているらしい。

オスカー団長が周りの人間に向かって、「お聞きになられました?ハノイ騎士団の皆さん。」
と声を掛けるとリネカーの顔色が変わった。

「ちっ、違う、違うんだ。私はアダム王に言われて仕方なく。」

「その割には富がここからたくさん得られるって得意そうに話されてましたよね?」と突っ込んでやった。

その時、部屋の片隅に縛られて転がされていたアダム王が意識を取り戻した。自分が縛られている状況と周りを見た様だ。なかなか賢い所もあるのね。

下を向いて俯きじっとしている。

「後はハノイ騎士団にお任せします。このマリィちゃんの事も宜しくお願いします。」と、オスカーがハノイ騎士団の団長に話していた。

ハノイ騎士団の団長も「アトランティス騎士団の皆様、お世話になりました。」と礼をしている。良かった。騎士団の方は腐ってなかった様だ。

「さぁ、帰ろうか?アニエス。」と手を差し伸べるオスカー。

パシッとその手を振り払い、ツカツカとアダム王の所へ戻った。しゃがみ込んで目線を合わせると「ひっ」とアダム王が言ったが、胸元からナイフを出し、一気に奴の股間を刺した。

「ぎゃあー!!」と叫ぶアダム王。

「お前にこれから子孫を残す資格など無い。」と言い渡し、引き攣っている男性陣を尻目に部屋を出た。

品位どこ行った?



我々が王宮から出る時に、ちょっとした騒ぎが起こっていた。


何とあの大男が縄を解き、警備を突破して逃げたのだ。もう知らん。


アニエス達が帰りの馬車に乗り込む時に、急に近づいてくる一頭の馬があった。
乗っているのはあの大男だ。

何やら大声で叫んでいる。

「アニエス殿~!!わしの名前はセガールだ。
アダムの野郎のイチモツをブッ刺した時にはゾクゾクしたぞ!!また会うのを楽しみにしてる。次に会ったら一戦交えようぜ!」と叫んで去って行った。

走り去って行く後姿を見送りながら「何だあれ?」

「変わった奴だなぁ。強いけど。」とアルフォンスが呟いていた。

「セガールか。くっ!またライバルが。」とオスカーも呟いていた。











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