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43、驚くべき話

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「・・・・ほお。貴女がテスタメンタあって人ですか?」と寝ていた体勢から使用人に背中を起こしてもらい、今回の依頼人であるゲーリーはそう言いながら目の前に佇むブルックリンを繁々と眺めた。

「っ!けほっ、けほ。随分と若いお嬢さんだ。君は今幾つなんだい?」と苦しそうに咳き込みながらも突然目の前に現れた人物を自分の見識で見極めようとする。

「私は今年21歳になりました」とブルックリンが答えると「21歳か。ちょうど孫のリカエルと同じかい?」と側にいる使用人に話しかけた。

「ええ、旦那様。リカエルぼっちゃまと同じです」とその使用人はゲーリーの目を見て微笑み答える。この使用人さんはだいたい40歳過ぎぐらいの男性かしら?髪の毛もやや長いし体の線も細い。何よりちょっと雰囲気が中性っぽい。

「リカエルと同じか。最後にリカエルを見たのはいつだったか・・・・」と悲しそうに目を伏せた。

このゲーリーの孫であるリカエルは事前の依頼書に書いてあった事だが、息子夫婦は王都にいて、孫のリカエルは今は騎士団の上の方へ昇進していて、こちらのカルザス地方へは中々帰って来られ無いらしい。

それでもリカエルが幼い頃はこの屋敷にもしょっちゅう訪れ、祖父のゲーリーと時間が経つのも忘れて野山で遊び回った事もあったと言う。

「ゲーリーさん、これをご存知ですか?」と筆談で書いた後、ブルックリンはカバンから魔道具の補聴器を取り出した。

「ん?もしかして補聴器かね?」

「ええ、そうなんです。この補聴器はつけた本人のレベルに合わせて聴き取りやすいように調整してくれるんです。ゲーリーさんに私がつけて見て良いですか?」と紙に書くとゲーリーさんはブルックリンの申し出に驚きながらも「もちろんじゃよ。お嬢さんよろしく頼むよ」と言いながら付けやすいように頭をブルックリンの方へ傾けてくれた。

ゲーリーさんが痛くないようにゆっくりと補聴器を耳に差し込むブルックリン。両耳の穴に差し込めたのが確認できると紙に「耳が痛くなると困るので、これ以上はゲーリーさんの方で付けて見て下さい。私の言葉は聞こえていますか?」と話しながらすらすらと同様に紙に書き込む。

ゲーリーさんは自分の手でゆっくりと補聴器を両耳へ差し直すと「ああ、本当だ。とてもよく聞こえる。久しぶりに人の声をこんな近くで聞いたよ。ブルックリンさんだった?本当にありがとう」と笑って言った。


ーーーーさあ、ここからいよいよ私の仕事開始ね。


「ではゲーリーさん、今からここに魔法で大きな画面を出しますね。画面が現れたら画面に向かって息子さんやお孫さんに伝えたい事をお話し下さい。途中で苦しくなったりしたらすぐに中断出来ますので遠慮なくおっしゃって下さい。それでは始めます」そう話すと杖を取り出した。

ここから先はブルックリン達が考えだした魔法だ。

「マジェスッティックスクリーン」と言いながら杖を振るとゲーリーさんのベッドの足元に大きなスクリーンが現れた。驚くゲーリーさんと使用人。そして同時に外の騒音を遮断する魔法と外敵の侵入を阻む魔法陣も展開させる。

そう、こんな器用な芸当が出来るのが魔法塔の中でもアーチャーが率いるテスタメンターの面々だけなのだ。

・・・・ブルックリンの魔力の放出でキラキラと輝き出すブルックリンの大地の杖。



「さあゲーリーさん、ゆっくりで良いんです。どうぞ家族の皆さんへのお話を始めて下さい」と腰を屈めスクリーンを指差しにっこり笑って言葉をかける。その言葉を受け言葉を紡ぎながらポツリポツリと話し出すゲーリー。そんなゲーリーの様子を見ながら涙ぐむ使用人。

ゲーリーの言葉は15分ほどで終わった。ゲーリーの体力的にもこの時間が限界だったのだ。

ゲーリーの話と同時にそのゲーリー本人の目の前の机で、今の話の内容が自動書記で特別な装飾が施された用紙にスラスラと書かれていく。

これにはゲーリーも使用人も目を大きく見開きじっと見入っていた。

「これは凄いものを冥土の土産に見せて貰った気がするよ。これなら確かに君達による改ざんは無いね」

「ええ、この用紙のこの装飾が肝なんです。この装飾は一種の呪文で一度書かれた文字は何があっても消えないんです。そして最後に・・」と言いながら書き終わった遺言の紙を手に取り、ブルックリンが身に付けている真実の指輪をこの遺言が書かれた用紙の上にかざすと、アーチャーによる魔法師団長の烙印が用紙一面に刷り込まれうっすらと現れた。

「この烙印はこの国トップの実力を持つ魔法師団長の直々の烙印です。こればかりはどんな優れた魔法使いでも模倣出来ません。この烙印が押された事によりこの書類が正式な遺言状と認められます。そしてお手数ですがもう一度先ほどの映像をお出しします。どうかご確認ください」と言うと、もう一度スクリーンを出し先程の映像を映し出した。そしてその映像の最後にも大きくアーチャーの烙印が現れていた。

それを見て感動している2人。

ここで使用人さんが「ここでキリもいい所でしょうからお茶でも入れますね。それにブルックリンさん疲れたでしょう?」と笑いながら席を立った。

ゲーリーさんはよほど疲れたのかベッドで横になりウトウトしている。その間に音を遮断するの方の魔法陣を解いておいた。

何があるか分からないので用心して外敵の侵入を阻む魔法陣はそのままにしておいた。そうしていると使用人さんがお茶を乗せたトレーを運んで来た。

「あらあら、旦那様はお疲れなんですね。まあ良いでしょう、ブルックリンさんお茶をどうぞ」と良い香りのするお茶を入れてくれた。この辺りで採れる木の実を使ったクッキーも添えられていて、こちらは香ばしくてサクサクと本当に美味しかった。

「ところでブルックリンさん、私はマイケルと言うんですが今からちょっと違う話をしても良いですか?」とお茶のカップを両手で挟み込むようにして持ち、ブルックリンの方へ向いてマイケルさんが話し始めた。

「何ですか?マイケルさん。私で良かったらお聞きしますよ?」と話を促した。でもその後に続いた話はブルックリンの度肝を抜く今まで聞いた事がない驚くべき内容だった。
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