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第四章 男の娘ニンジャ、邪竜と激突!

幕間 エルネスティーヌ王女

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 単身、ルティアは海の近くにある洞窟に入った。

『地図によると、きっとここなのです』
「まさか牢獄が、敵の本拠地の真上とはな」

 この崖の真下には、邪神の地下宮殿がある。かつて勇者たちに攻め込まれて、壊滅したと思われたが、アナンターシャの力でまだ機能しているようだ。

 おそらく敵も、こちら潜入に気がついている。サヴが敵をひきつけてくれているが、ルティアの行動がバレるのも時間の問題だろう。迅速に対処せねば。

「ぐっ! どっちだ?」

 二股に分かれた道が、行く手を阻む。

『あっちに、大勢の人の気配がするです』

 シュータが光を放ち、左の道を示す。

 奥へ進むと、村人たちを発見する。ろくに食事もさせてもらっていないのか、みんな衰弱しきっていた。

 魔物型の海賊見張りが、牢屋の前に立っている。

「げ、てめえはルティア!」

 半魚人が、ルティアに襲いかかった。
 槍をかわし、騎銃で半魚人を突き刺す。

「大丈夫か?」

 ルティアは牢屋をこじ開ける。

「早く逃げるんだ!」

 背後を警戒しつつ、村人を逃す。

「外だ。行け! 早く!」

 入り口である崖まで戻って、

「エルネスティーヌ姫様も、急いで!」

 ドレイクの一人が、ルティアを促した。
 まだ、自分をそう呼んでくれる人がいるとは。

「アタシはいいんだ。やり残したことがあるからな」

 自分が撒いた種だ。自身で決着をつけなけらばならない。
 単身、崖の洞窟へと戻っていく。足音が響く中、宮殿の奥へ進んだ。
 やがて、大広間に出る。
 闇を擬人化したような女性が、ルティアの前に現れた。

「一人でよく来たね、エルネスティーヌ王女」

 美しくも怪しい黒髪に、人を獲物かどうかでしか判断していない目を持つ。口はヘビのように割れており、笑みを絶やさない。一枚の黒い布でくるんだアンシンメトリーのドレスを、身に着けている。

「アナンターシャ!」

 力に溺れ、邪神と手を組み、あまつさえ魔王に取り入る卑しい女狐だ。 
 しかし、邪竜アナンターシャは黒竜を裏切って邪神の残存パワーを手に入れてしまう。

「サマター海域から出ていきやがれ、アナンターシャ!」
「ああ、出て行くさ。わらわは、こんなチンケな村で終わるような女じゃないからね」

 邪竜の思惑を、見抜けなかった自分が悔しい。

 ルティアをかばって、シュータはこんな姿になった。アナンターシャの考えに気がついていれば、自分は愛するシュータを、白竜の王子ギュスターヴ・グエンを失わなかったはずなのに。

「てめえはどこまで、アタシたち竜族を殺せば気が済むんだ!」
「全滅するまでさ。この世界の生命すべてが、わらわの手の内さ! そのために、邪神を殺させたんだからね!」
「お前が、邪神を?」
「そうさ」

 自分が世界を支配するために、アナンターシャは邪神を復活させただけではなく、わざと勇者に邪神を倒させた。サマター海域は一時的に回復したが、それすら自身が侵略を開始する罠だったのである。

「実に滑稽だったよ! 一度救われた世界が、わらわの手で再び暗雲に飲まれる様はね!」

 そのためにエチスン卿と手を組んで、周到に国を疲弊させていったのだ。

「テメエ……絶対に許さねえ!」

 足を真横に伸ばして、ルティアは騎銃を構えた。竜がシッポを支えにしてブレスを吐くことを想定したポーズである。

「わらわに歯向かってもいいのかい? 邪神に頼んで、あんたの肉体を再生させることだって可能なのにさ?」

 確かに、一度はその約束を飲んだ。邪神なら、可能だろうと。

 しかし、ルティアは悟ったのである。
 一度死んだものは生き返らない。
 シュータは自分の肉体が消滅したことを、とっくに受け入れていた。

 ワガママを言っていたのは、ルティアだけなのだと。

「アタシは、もう迷わない!」
「ふうん、そうかい! だったら」

 アナンターシャが、両手を組みながら天井へと掲げる。絡みついた両腕から、黒い炎が巻き上がった。

「恋人同士で仲良く死になよ。村人も巻き添えにしてさあ!」

 漆黒の業火が、逃げた村人の方角へ放たれる。

「させるか、バスター・ストーム!」

 ルティアも、バスター・ストームを放つ。アナンターシャの業火の起動を捻じ曲げた。

 天井に穴が開く。裂け目から、陽の光がアナンターシャを照らした。

 アナンターシャが、日を避けつつブレスを吐き続ける。

「ギャハハハハ! ドレイクの力を大半失ったアンタに、邪神と融合したわらわのブレスが止められるものか!」

 まだ、アナンターシャは半分の力も出していない。対するルティアは、全力以上を出し切っている。しかし、押されていた。

 ここまで、差があるのか。

「さすがに全部抑え込むのはムリか。ならば!」

 アナンターシャが、首の軌道を変えた。

 業火は天井を、さらに突き破る。このままでは、村人に当たってしまう。

「ちくしょお!」

 ルティアのブレスが、弾かれてしまった。
 黒い業火は一直線に、村人の逃げた方角へ。


 しかし、アナンターシャのブレスは跳ね返ってくる。


「なにい!?」

 業火は逆に、アナンターシャの全身を焼く。

「ケガはない、ルティア!?」

 ルティアを絶望から救ったのは、メイドの格好をしたニンジャと、頑強なバリアで天井を塞いだエルフの騎士だった。
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