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第四章 部長とバトルかよ!

第43話 後輩の成長を見守る

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衣笠きぬがさ先輩に、会いたいのか?」
「そうっす」

 実代みよからの話は、意外な内容だった。

 正直、実代は先輩を嫌っていると思っていたから。

「あたし、どうも先輩のことを誤解していたみたいっす。一度、ちゃんとお話する必要があるかなって」
「急すぎねえか?」
「思い立ったときが、絶好の機会かなって」

 実代の決意は固い。

紺太こんたセンパイは、衣笠先輩のおうち、知ってるんすよね? 案内してほしいっす」
「いいけど、いきなりお邪魔は悪いぜ。一度連絡しておこう」
「はいっす」

 オレはスマホを出して、衣笠先輩に連絡を入れる。

「ああ、衣笠部長ですか? 城浦しろうらです」

 事情を説明すると、「今は来客中」だとか。

「すいません、急に。日を改めます」

 断りを入れると、「大丈夫だ」と返事が。

『夕方までには用事が済みますので、それまでどこかでお時間を潰してくださいませんか?』
「わかりました。ありがとうございます」
『お礼をいうのは、こちらです。私も、相川あいかわさんとお話できる機会がほしいと思っていましたので』
「ご丁寧に。では」
『おまちしております』

 お互いにあいさつを済ませ、スマホを切る。

「今日の午後三時に、喫茶店で会おうってさ」

 衣笠先輩宅の近所に、落ち着いた雰囲気のカフェがあるという。そこで話を聞くそうだ。

 親戚が来ていて、家には上げられないという。

「ありがとうっす。センパイ。お手間を取らせてごめんなさいっす」
「いや。オレが間に入ったほうがスムーズだろうってさ。オレの方こそ、余計なことをしたみたいだな」
「とんでもないっす。じゃあ、今日はお礼として、腕によりをかけるっすよ」

 実代が、クローゼットからエプロンを出す。

 そういえば、もう昼前だな。腹の虫が鳴き始めた。

「喫茶店で待ち合わせってことは、洋食っすよね? 和食で攻めるっす」

 根野菜はあるが、煮物は時間がかかる。
 豚肉はあるが、ごぼうがない。なので、豚汁もムリだ。
 
 というわけで、豚肉のショウガ焼きを作ることに。

「オレは何をすれば?」
「センパイは、ショウガをすってほしいっす」
「よしきた」

 オレはショウガをすり始めた。

 その間に、実代は味噌汁用の湯に火を入れる。

 和風の食事が、テーブルに並ぶ。

「いただきます。う、うまいっ」

 やはり、実代の料理は最高だ。
 豚肉にショウガじょうゆの味がしみまくっている。
 卵焼きにはしらすが入っていて、塩気がちょうどいい。

「喫茶店でなにか食べるっすから、少々ボリュームに難はあるっすけど」
「十分だ。いつもありがとうな」
「えへへぇ」

 照れ笑いを浮かべながら、実代の箸が進む。

「なんかさ。お前、成長したよな」
「ふえ!?」

 なぜか、実代は自分の身体を抱きしめて身体をそらす。

「どうしたんだよ?」
「急にシモネタが来たので」

 どこだどうシモネタに聞こえたんだよ?

「いやな、衣笠先輩に歩み寄ろうっていうんだからな」
「そりゃあ、いつまでもわだかまりを持ったままってわけにもいかないっす。センパイは今度の夏に引退っすけど、それまでは関係が続くっす。嫌われたままってわけにもいかないんすよ」

 合理的な理由と言えば、合理的だろう。

「仲直りできるといいな」
「うっす」

 食事と後片付けが終わり、約束の時間までゲームで遊ぶ。

「だから衣笠先輩のモノマネやめろ。似てねえし」
「予行練習でしてよ!」

 ホントに仲直りする気あんのかよ?

「二時っすね。行くっす」
「おう」

 約束の時間が迫ったので、オレたちは外出した。



 喫茶店にたどり着く。

 土曜日のおやつ時なのに、人が少ない。
 ビジネス街の近くにある純喫茶だからだろう。
 近くにパチンコ屋などの娯楽施設もない。落ち着いた場所である。

 席で待っていると、衣笠先輩がやってきた。
 春らしい、落ち着いたファッションである。

 しかも、車で送ってもらって。
 
 あれ、たしかあの車は……?
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