26 / 47
第四章 お隣さんと、おうちデート
第26話 一緒にホットケーキ
しおりを挟む
映画を見終わると、すっかりデザート気分になった。
劇中でアニメキャラたちが、うまそうにホットケーキを食っていたからだろう。
「ああ、軽い飯テロを食らったね」
寿々花さんも、お腹を押さえていた。
「そうですね。頭の中が、ホットケーキでいっぱいです」
「じゃあヒデくん、作ろうか」
雨の中、買い出しへ。
最初に、ホットケーキミックスと卵を買う。小麦粉でもいいが、それだとパンケーキになる。砂糖が入っていないのがパンケーキだそうだが、厳密には決まっていないらしい。
はちみつとバターも、忘れずに。
「チューブチョコレートも買おうか。おいしいよ」
「ああ。パーティ感があって最高ですね!」
ついでに、夕飯を買う。傘を持っているからそんなに荷物を運べないが、まあいい。
ミックスと卵、牛乳をボウル内に合わせてかき混ぜる。
「ヒデくん、ホットプレートってある?」
ホットケーキといえば、その場で焼くのが一番うまい。
「なかったら持ってくるけど」
「はい。大丈夫です」
家族が「人を家に呼んで焼肉するかもしれないから」と、持たせてくれたのだ。実のところ、新しいものを買おうとしていてお古をもらった感じだけど。
「キレイだね」
「全然使っていないので」
台所の隅でホコリを被っていたため、濡らしたキッチンペーパーで拭く。
「コードは、と。ありました」
配線をコンセントにつなぎ、準備はOKだ。ブレーカーには干渉しないだろう。
「じゃあ、焼いてくねー」
油を引いて、生地をプレートへ流した。ジュワッと、プレートから爽快な音が。
「泡立ってきましたね」
「この瞬間が、たまんないよねえ」
ほんのりいい香りになったら、ひっくり返す。
きつね色になった生地を見ると、俄然期待値が上がった。
「バターはちみつと、チョコのどっちがいい?」
「くうう、決めかねます!」
どっちも趣があって、うまそうだが。
「だよねえ。両方半分ずつ切って食べようか」
「そうしましょう!」
生地を半分に切って、片方はバターとはちみつ、もう片方はチョコをトッピングする。
「う、ま、い」
ロボットみたいな感想が出た。思考が止まるくらいうまい。
「生クリームって案もあるんだけど、時間が掛かるし。パンケーキだったら無条件でさいようだったんだけど」
また次の機会だな。次があるといいが。
「もうわたしたちくらいだと、甘いのダメかなって思ったけど、全然いける。童心に帰ったみたい」
「ですよね。満たされます」
こんな、特に代わり映えのしない食べ物が、泣けるくらいウマい。
「いいですね。うちでもよくやりましたよ」
妹が大のホットケーキ好きで、よく弟にせがんでいた。俺じゃない辺りが哀しいが。
「最後は生地のしずくを垂らして、カリカリになるまで焼くんです」
「おいしそう。やっておくね」
お玉に付いた生地のしずくを振って、寿々花さんはプレートに落としていく。
カリッカリに焼き上がった生地を皿に移し、はちみつを垂らす。
「いただきます。あっは!」
寿々花さんが、豪快に笑った。
「あー、これおいっしい! おいっしいわこれ!」
語彙力が消滅するくらい、うまかったらしい。
「これ、ボーロだよ。ボーロ! ボーロ好きだったの!」
お祖母様の家にあったボーロを、寿々花さんは思い出したらしい。
「今はもうなくなっちゃったんだけど、家族の中でおばあちゃんだけが味方だったなぁ」
「そうなんですか?」
「家族で食事なんて、したことなかったや。おばあちゃんとおやつを食べるときだけが、幸せだった」
「いつも一人だったんですか?」
「うん。だから自分で料理を覚えた。ご飯くらいは楽しみたかったの」
お祖母さまやお手伝いさんに教わりながら、料理の楽しさを学んだそうだ。
「雨、上がったね」
「そうですね」
腹が落ち着いて、ずっと窓の外を眺めている。
雨粒は、すっかり乾ききっていた。日も、落ちかけている。夕焼けが眩しいくらいだ。
「まだ、誰も帰ってこないね」
「ですね」
映画もあらかた見終えて、そんな他愛のない会話をずっと続けていた。
「……ヒデくん」
「寿々花さん」
「私、もうガマンできない」
うっとりした眼差しで、寿々花さんが訴えかける。
「はい。俺もです!」
俺は、寿々花さんに返事をした。
「ヒデくん! 外で焼肉しよう!」
「したいです!」
劇中でアニメキャラたちが、うまそうにホットケーキを食っていたからだろう。
「ああ、軽い飯テロを食らったね」
寿々花さんも、お腹を押さえていた。
「そうですね。頭の中が、ホットケーキでいっぱいです」
「じゃあヒデくん、作ろうか」
雨の中、買い出しへ。
最初に、ホットケーキミックスと卵を買う。小麦粉でもいいが、それだとパンケーキになる。砂糖が入っていないのがパンケーキだそうだが、厳密には決まっていないらしい。
はちみつとバターも、忘れずに。
「チューブチョコレートも買おうか。おいしいよ」
「ああ。パーティ感があって最高ですね!」
ついでに、夕飯を買う。傘を持っているからそんなに荷物を運べないが、まあいい。
ミックスと卵、牛乳をボウル内に合わせてかき混ぜる。
「ヒデくん、ホットプレートってある?」
ホットケーキといえば、その場で焼くのが一番うまい。
「なかったら持ってくるけど」
「はい。大丈夫です」
家族が「人を家に呼んで焼肉するかもしれないから」と、持たせてくれたのだ。実のところ、新しいものを買おうとしていてお古をもらった感じだけど。
「キレイだね」
「全然使っていないので」
台所の隅でホコリを被っていたため、濡らしたキッチンペーパーで拭く。
「コードは、と。ありました」
配線をコンセントにつなぎ、準備はOKだ。ブレーカーには干渉しないだろう。
「じゃあ、焼いてくねー」
油を引いて、生地をプレートへ流した。ジュワッと、プレートから爽快な音が。
「泡立ってきましたね」
「この瞬間が、たまんないよねえ」
ほんのりいい香りになったら、ひっくり返す。
きつね色になった生地を見ると、俄然期待値が上がった。
「バターはちみつと、チョコのどっちがいい?」
「くうう、決めかねます!」
どっちも趣があって、うまそうだが。
「だよねえ。両方半分ずつ切って食べようか」
「そうしましょう!」
生地を半分に切って、片方はバターとはちみつ、もう片方はチョコをトッピングする。
「う、ま、い」
ロボットみたいな感想が出た。思考が止まるくらいうまい。
「生クリームって案もあるんだけど、時間が掛かるし。パンケーキだったら無条件でさいようだったんだけど」
また次の機会だな。次があるといいが。
「もうわたしたちくらいだと、甘いのダメかなって思ったけど、全然いける。童心に帰ったみたい」
「ですよね。満たされます」
こんな、特に代わり映えのしない食べ物が、泣けるくらいウマい。
「いいですね。うちでもよくやりましたよ」
妹が大のホットケーキ好きで、よく弟にせがんでいた。俺じゃない辺りが哀しいが。
「最後は生地のしずくを垂らして、カリカリになるまで焼くんです」
「おいしそう。やっておくね」
お玉に付いた生地のしずくを振って、寿々花さんはプレートに落としていく。
カリッカリに焼き上がった生地を皿に移し、はちみつを垂らす。
「いただきます。あっは!」
寿々花さんが、豪快に笑った。
「あー、これおいっしい! おいっしいわこれ!」
語彙力が消滅するくらい、うまかったらしい。
「これ、ボーロだよ。ボーロ! ボーロ好きだったの!」
お祖母様の家にあったボーロを、寿々花さんは思い出したらしい。
「今はもうなくなっちゃったんだけど、家族の中でおばあちゃんだけが味方だったなぁ」
「そうなんですか?」
「家族で食事なんて、したことなかったや。おばあちゃんとおやつを食べるときだけが、幸せだった」
「いつも一人だったんですか?」
「うん。だから自分で料理を覚えた。ご飯くらいは楽しみたかったの」
お祖母さまやお手伝いさんに教わりながら、料理の楽しさを学んだそうだ。
「雨、上がったね」
「そうですね」
腹が落ち着いて、ずっと窓の外を眺めている。
雨粒は、すっかり乾ききっていた。日も、落ちかけている。夕焼けが眩しいくらいだ。
「まだ、誰も帰ってこないね」
「ですね」
映画もあらかた見終えて、そんな他愛のない会話をずっと続けていた。
「……ヒデくん」
「寿々花さん」
「私、もうガマンできない」
うっとりした眼差しで、寿々花さんが訴えかける。
「はい。俺もです!」
俺は、寿々花さんに返事をした。
「ヒデくん! 外で焼肉しよう!」
「したいです!」
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
異世界召喚されたのは、『元』勇者です
ユモア
ファンタジー
突如異世界『ルーファス』に召喚された一ノ瀬凍夜ーは、5年と言う年月を経て異世界を救った。そして、平和まで後一歩かと思ったその時、信頼していた仲間たちに裏切られ、深手を負いながらも異世界から強制的に送還された。
それから3年後、凍夜はクラスメイトから虐めを受けていた。しかし、そんな時、再度異世界に召喚された世界は、凍夜が送還されてから10年が経過した異世界『ルーファス』だった。自分を裏切った世界、裏切った仲間たちがいる世界で凍夜はどのように生きて行くのか、それは誰にも分からない。
クラス転移したひきこもり、僕だけシステムがゲームと同じなんですが・・・ログアウトしたら地球に帰れるみたいです
こたろう文庫
ファンタジー
学校をズル休みしてオンラインゲームをプレイするクオンこと斉藤悠人は、登校していなかったのにも関わらずクラス転移させられた。
異世界に来たはずなのに、ステータス画面はさっきやっていたゲームそのもので…。
【非18禁】馬なみ侍 ~異物亦(また)奇遇あること~
糺ノ杜 胡瓜堂
歴史・時代
【pixivより転載】
色々あって、約1年ぶりにこちらに戻ってきました!
現在は「pixiv」「ノクターンノベルズ」「ノベルピア」で18禁小説をメインに投稿しております。
舞台は江戸時代です。
タイトルどおり、アソコが「馬並み」(!)のお侍さんが主人公なので、モロに性的なストーリーではありますが、直接的な官能描写や官能表現は「一切」ありません。
このお話は江戸時代の南町奉行、根岸 鎮衛(1737-1815)が書き記した「耳嚢」(みみぶくろ)の巻之一に収録されている「異物亦(また)奇遇あること」という短い記述をベースにしています。
個人的に江戸時代が好きで、よく当時書かれたものを読んでいるのですが、ダントツに面白いのが、下級旗本(町人という説も!)から驚異的な出世を遂げ、勘定奉行から南町奉行までを歴任した根岸 鎮衛(ねぎし やすもり)が江戸の事件、噂話、珍談、奇談、猥談から怪談にいたるまでを、30年以上に渡って書き溜めた「耳嚢」でしょう。
岩波文庫から全三巻で注釈付きの良書が出ているので江戸時代の入門書としても最適です。
耳嚢の中には、今回ベースにした並外れた巨根の男性のエピソードの類話が数話あったように記憶しています。
約七千文字のハッピーエンドの短編、お気軽にお読みください。
異世界を【創造】【召喚】【付与】で無双します。
FREE
ファンタジー
ブラック企業へ就職して5年…今日も疲れ果て眠りにつく。
目が醒めるとそこは見慣れた部屋ではなかった。
ふと頭に直接聞こえる声。それに俺は火事で死んだことを伝えられ、異世界に転生できると言われる。
異世界、それは剣と魔法が存在するファンタジーな世界。
これは主人公、タイムが神様から選んだスキルで異世界を自由に生きる物語。
*リメイク作品です。
夢中にさせてあげるから
友崎沙咲
恋愛
ベリーズカフェ様にて特集《糖度100%ラブコメ》に選んでいただきました。https://www.berryscafe.jp/spn/book/n1248707/
隣人同士の恋のおはなし。
*******
※こちらの作品は改稿前のものです。
******
「お前、ダサいわりに下着は派手なんだな」
「何だよ、不気味な女だな」
「マジかよ、ただあつかましいだけなのか、欲情してんのかどっちだよ」
「お前もしかして……俺とヤりたいわけ?」
*********
殺す!
私の好みはお前じゃない!
*****
イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)
こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位!
死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。
閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話
2作目になります。
まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。
「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」
子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!
八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。
『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。
魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。
しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も…
そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。
…はたして主人公の運命やいかに…
好きな子が毎日下着の状態を報告してくるのですが正直脈ありでしょうか?〜はいてないとは言われると思いませんでした〜
ざんまい
恋愛
今日の彼女の下着は、ピンク色でした。
ちょっぴり変態で素直になれない卯月蓮華と、
活発で前向き過ぎる水無月紫陽花の鈍感な二人が織りなす全力空回りラブコメディ。
「小説家になろう」にて先行投稿しております。
続きがきになる方は、是非見にきてくれるとありがたいです!
下にURLもありますのでよろしくお願いします!
https://ncode.syosetu.com/n8452gp/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる