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第三章 隣のお姉さんと、キャンプデート

第17話 バーベキューで、ハプニング!

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 ウマい、それしか言葉が出ない。いつまでも堪能していたくなる味だ。
 あっという間に、カレー鍋は空になった。

「ごちそうさまでした」

 寿々花すずかさんと二人、手を合わせる。

「ヒデくん、いっぱい食べてくれるからうれしい」
「ありがとうございます」

 また散歩に行くので、一旦焚き火を消す。火に当たりながらまったり過ごす案もあったが、これだけ広いと歩きたい衝動に駆られる。

 回っていない動物園のコースを、二人で歩く。

「それにしても、涼しいね今日は。五月だから、もうちょっと風が強いと思っていたんだけど」

 太陽も曇って、気温がちょうどいい。

「今日は予定がないけど、温泉施設とかもあるんだって。コテージには、内湯もあるよ」

 山道をハイキングしながら、寿々花さんが語りかけてくる。

「やばいですね。入り浸っちゃいますよ」
「さっき確認したら、ひと部屋だけ開いてるんだって」
「へえ」
「ま、利用することはないけど」

 今日は、日帰りだ。「疲れているだろう」と俺に配慮して、翌日以降は何も予定を入れていない。寿々花さんの優しさが、ここでもにじみ出ている。俺は寿々花さんとデートできるなら、疲労なんて吹っ飛ぶ。だが、体のほうが悲鳴をあげるだろう。幸せすぎて。

 帰ると、ちょうど腹が減ってきた。

「じゃあ、バーベキューをやろうか。火おこしお願いします」
「はい!」

 慣れた手付きで、俺は炭に火をつける。

 チリチリと音を鳴らし、炭が燃え始めた。

「すごい大きいお肉だね!」

 寿々花さんが、トングでポークステーキを掴む。お盆ぐらいある。

「屋台で焼いてるのを見て、俺もやってみたくなったんですよ」
「わたしも! じゃあ焼いちゃうね」

 ステーキは網に乗った瞬間、ジュワッといい音を鳴らした。

「半分こしましょう」
「わーい」

 その後、肉や野菜を串に刺す作業を手伝う。

「焼いていきます」
「どうぞー」

 焼鳥のように、網でバーベキューを焼いていく。

 普通の焼肉のように焼いてもいいが、せっかくだし。

「では、いただきます」

 肉にかぶりつく。

 ハラミ肉が、しっとりしてる! ただ焼いただけなのに、他の野菜のうま味と融合してやがった。バーベキューってこういう意味があったのか。

「おいふいい」

 寿々花さんなんて、もう日本語になっていない。そういう鳴き声の動物なのか、と思った。ここ、一応動物園だしな。

「ホントお酒がなくて大丈夫? 飲みたいんじゃ」
「大丈夫です。飲むと作業ができなくなるんで」

 泊まりなら、一杯やっていたはずだ。しかし、俺が運転しないとも限らない。車を使って急な買い出しが必要かも。そんな可能性がある以上、飲む訳にはいかない。

 あったらいいが、なくても十分楽しい。

 お茶を飲んでいるだけなのに、寿々花さんと話しているだけで幸せすぎる。

「なんか、俺って飲むけど酒が好きってわけではないんだな、って痛感しましたよ」

 酒好きなら、もっとこだわった飲み方や選び方をすると思う。でも俺の場合、「あるから飲む」ってスタイルだ。それでは、水とたいして変わらない。

 うまい飲み物なら、なんでもイケる口のようだ。

 ストレスを発散するための飲酒から、俺は逃れられた。その分、自分に合ったスタイルに最適化されていっている。

「では、ポークステーキを……おお」

 語彙が死んだ。コショウで焼いただけの豚肉が、ごちそうになった。なんというポテンシャルだろう。ワイルドな見た目もすばらしい。

 寿々花さんも、ただ瞳を閉じながら味わっている。

「今日一番の当たりかも」

 俺も、まさしくそう思う。外で食うなら、シンプルに肉なんだなと思い知らされた気分だ。

「ごちそうさ……ん?」

 水滴が、俺の額に当たった。額や服が、だんだんと濡れてくる。

「ゲリラ豪雨だ!」
「わあーん」

 急いで焚き火道具を片付け、車に積む。

 だが、出ようとしたときに警備員さんに止められた。

 寿々花さんが、何かを確認している。

 苦笑いをしながら、寿々花さんは俺に向き直った。

「帰れなくなっちゃった」
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