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最終章 カップルYouTuber、決意の……

第68話 恋人たちの岬

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 夢希ムギが留学を決めたと聞き、周りがどよめいた。

「いつから行くの?」

「来年の春から、半年間の予定」

 すでに夢希は、両親にも話を通しているという。

「で、ゆくゆくは、アメリカの大学に通う」

「いつの間に決めたん?」

「台風が来たとき、あったでしょ? その前後で、快斗カイトにだけ話したの」

 だからオレは、星梨セイナおばさんの経営する会社の方針に、難色を示したのだ。

「本当は、今年の秋くらいには考えていたんだよ」

「そうなんや」

 でも、夢希からしても早すぎると、「二年の頭から」に決まった。一応オンラインで勉強もできるから、今はそっちでがんばっている。

「もう、ムギの夢は始まってるんだね」

「モミジ、ムギの夢ってなんなん?」

「洋画の吹き替え台本を、作るんだって」

 夢希の目標を、モミジが癒乃ユノに教えた。

「すごいやん! ウチも映画好きやから、吹き替えは助かるわー」

 仲間たちは、夢希の夢に好意的だ。

「でもカイトは、ひとりぼっちになるよね?」

「ああ。でも、おひとりさまに戻るだけだ。オンラインでいつでも連絡は取れるからな」

 すぐに日本を発つわけじゃない。まだ来年の春までは、こっちにいる。

 それまで、二人の時間を大切にしようと決めた。

「チャンネルは、どうするの?」

「動画をやめるか続けるかは、最後まで話し合った。結果、オレがチャンネルをもたせることになった」

 へたをすると、動画チャンネルの管理者はオレだけになる。そうなって、今のポテンシャルを維持できるかどうか、謎だったのだ。

「夢希の帰る場所は、オレが守り続ける」
 

 食後、オレたちは「恋人たちの岬」というデートスポットへ向かう。

 岩山を切り取った階段を、ズンズンと上がっていく。ちょっと横を見ると、すぐに海だ。オレたちがいるスポットは、まさに崖そのものである。アップダウンの激しい石段を、暑い中で踏みしめた。

 この崖を上った先で、願い事を言うと叶うらしい。が、そこまで辿り着く前に、ほとんどのカップルが挫折するという。休憩所にあるロープウェイで、下に降りてしまうとか。

「薄着で来たのに、暑いね」

「日光の照り返しが、ヤバい」

 石段から、熱が跳ね返ってくる。これが、余計に体力を奪うのだ。

 錆びたプレハブ小屋が、見えてきた。

「ちょっと水分を補給しよう」

 休憩所に置かれているベンチに、腰掛ける。自販機のスポドリが、ありがたい。

「たこ焼き売ってたから、買ってきた」

「いただきます……ああ、うま」

 作り置きの冷めたたこ焼きなのに、高級料理並みの味だ。疲労がそう感じさせるのか。

 誰もいない、二人だけでのデートだ。なのに、ほとんど会話もなし。たこ焼きをつつきながら、ただ二人で頂上を見上げる。

「遠い」

「でもゴールは、見えてるぜ」

 休憩を終えて、体力を使い、気力も振り絞った。
 ようやく、頂上にたどり着く。
 
 そこでオレたちは、最初で最後になるかも知れない、生配信を開始することにした。
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