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第二章 おひとりさま男子、婚約者と同居を始めます。

第11話 お背中流しドッキリ

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 夢希ムギがバスタオル一枚の姿になって、浴室に入ってきた。

 撮影係として、星梨セイナおばさんもスマホ片手に突撃してくる。

「何をしに現れた!?」

「なにって、カイカイのお背中を流しに」

「なにごと!?」

「だって、わたしたち夫婦じゃん」

「待て待て待て! バスタオル一枚って攻めすぎじゃね!?」

 この状況はマズイ。非常にマズイだろ。思春期の男子相手にバスタオル一枚でエンカウントとか、事故にしかならない。

 ただでさえ、なにもしていないのにオス度がハッスル状態だ。タコやニンニクの精力アップ効果のせいで。

「大丈夫。ちゃんと危なかったらモザイクかけるし!」

「それでも削除申請が来るぞ!」

 動画サイトは最近、肌色規制が激しくなっているらしい。着物にプリントした「顔」が「肌色」と認識されてアウトになったVチューバーもいるという。顔のアップだと言っているのに、通らなかったのだ。肌色は肌色と、AIが認識してしまうらしい。

「オレの肌色だってヤバない?」

「男性ならOKでしょ?」

「ダメダメ。男の乳首でもアウトなんだから今は!」

 某有名お笑い芸人が乳首にバンソウコウを貼る必要があるくらい、男性の乳首もアウトなのだ。

「ポリコレ!」「センシティブ!」NOエロNOライフ!」と批判の声は止まないが、ルールはルールだ。厳しすぎるぜ動画サイトは。

「まあまあ。泡でごまかすしOKOK。じゃあ、逃げずにお背中を流させて」

 問答無用で、夢希はオレの背後に立つ。

 圧が強すぎる。しかたなく、オレは健康タオルを夢希に渡す。

「じゃあムゥ、ミッションお願いします」

「はい」

 背中に、夢希の力が入ってきた。

 健康タオルなのに、柔らかい。

 オレは普段、全身を健康タオルの摩擦でゴシゴシと洗うタイプだ。

 しかし、これはこれで気持ちがいい。きつく洗うのではなく、泡で汚れを浮かせて落とすのか。これはいいことを学んだ。

「ご気分はいかが?」

「なんか、洗濯物になった気分だ」

「……ちょっと何言っているかわかんない」

「どういえばいいのか。汚れの落とし方にも、様々あるんだなって思ってさ。オレはいっつもゴシゴシタイプでな」

「あー。わたしはそれをやると、皮膚が傷んじゃうから、優しく洗うタイプ」

 なるほどな。女子は肌などに気を使うからな。

「じゃあ、顔とかも同じように洗う感じか?」

「そうそう。時間をかけて」

 夢希の夜のルーティンを知れて、女子のちょっとした秘密を知った気になった。得した感じ?

 いかん、ちょっと興奮気味になってきた。

「!?」

 さらに興奮を誘うできごとが。夢希が、バスタオルを取ったのだ。

「次は、わたしを洗って」

 おいおいおいおい! 冗談も大概にしろっての!

「待てムゥ! いくらなんでもうお!?」

 問答無用で、オレは前を向かされた。

 そこには、スクール水着姿の夢希が。

「ドッキリ大成功~」

 えへへぇ、と笑いながら、夢希がオレのリアクションを楽しんでいる。

 一番笑っているのは、カメラを撮影している星梨おばさんだ。

 だが、オレはすっかり硬直してしまっていた。

「どうしたの、怒っちゃった」

 心配になって、夢希がオレに語りかける。湯気で、メガネがくもっていた。

 赤面している顔を見られたくなかったので、ちょうどよかったかもしれない。

「全然、怒ってない」

 落ち着いてきたところで、オレは夢希のくもりを指で落とす。

「じゃあ、どうしたの?」

 腕を掴んで、夢希がずいずいっとオレを引き寄せてきた。

「いや。その姿はその姿で、めちゃ興奮する」

 風呂の中で水着とかが、いかに背徳的なものか。

 恋人がいる皆さん、一度試してみるといい。

 めっちゃいいぞ。

「せせ、背中流しイベント終了! 今日はお開き!」

 恥ずかしくなった夢希が、バスタオルを巻き直して風呂場から出ていく。

「あ、そうだカイカイ。後で入るから、お湯抜かないでね。社長、ご一緒に」

「いいよ~ムゥちゃん」

 その後、オレがリビングでくつろいでいる間、二人はずっとキャッキャとハシャイでいた。
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