47 / 49
第六章 うちのコが、やっぱり最強で最愛
第47話 最後のバグ
しおりを挟む
ビビが、ゲームの中で言葉を話せなくなる。
ボクは、ちょっと打ちのめされた。
ゲームの中で会話をしていることが、デフォルトになっていたんだなと思う。
ボクの中で、ビビとのお話は、かなりウェイトを占めていたんだな。
「ヴォルフさんたち他のギルド構成員も、お話ができるペットなんですよね?」
「そうなんだが、他のペットたちとも、今後は『P・R・F』内で会話ができなくなる。ビビが、特殊なパターンすぎるんでな」
「どの辺りが、しょうか?」
「会話内容の構成パターンは、模擬人格が管理しているって話は、したな?」
ボクは、「はい」とうなずく。
冒険者ギルドのスタッフには、ペットもいる。とはいえ、ペットと直接話しているのではない。模擬人格によって、構築された文章を読んでいるに過ぎないのだ。
だから、言われたとおりにしか反応できない個体も、多くいる。
「しかし、ビビはイレギュラーなんだよ」
「まさか」
「そのまさかだよ、ケント。ビビのヤツは、自分で意思を持って話している」
ビビは自分の言葉を、自分の意思で語りかけていたのだ。
たしかにビビは、ボクが熱を出した時も、自分でベルさんの中の人である「鈴音」さんに連絡をメッセージアプリで入力している。
人間の言葉をビビが理解しているのは、明白だ。
どこかで言葉を覚えたのか。
あるいは、ボクとの生活で言語を学んだんだろう。
「こんな現象は、相当に訓練されたスタッフにしか起こり得ないはずだった。オレのような、な。しかし、ビビは違った。バグの除去作業によって生じた、一種のトラブルの可能性が出てきたんだ」
「ビビと会話できる現象は、バグであると?」
ヴォルフさんは、うなずいた。
「その危険性がある以上、こちらも対処せざるを得なくなったんだ」
「ボクがもし、断ったらどうするんです?」
「……ビビを調査する必要がある。それも、かなりの年月をかけて」
ビビが、実験体にされてしまうのか。
「コンピュータのバグでペットに人格が芽生えるなんて現象、オレたちスタッフにだって初めてのことなんだ。我々も、対処に困っている。ただのバグではなかった可能性が高い」
「放置すると、どうなるんですか?」
「他のペットたちにも、同じ現象が起きるかもしれない。そうなると」
「パニックに、なりますね」
「だな」
ボクだったから、まだ反応が薄くてよかったのだ。ビビが言葉を話そうがなんだろうが、愛情は変わらないから。
普通の人なら、大騒ぎになる。とてもじゃないが、冷静ではいられない。
ネットにアップしてしまうか、ずっとお話ししたくてゲーム内にひきこもってしまうか。
そんな事態に陥ってしまうだろう。
「よって、『ビビを長い年月をかけて調査する』か、ゲーム自体を一部クローズドにして、バグの除去に専念するかの二択となった」
で、ボクたちへの配慮として、ゲーム側は後者を選んだと。
「お前さんたちに、迷惑をかけるわけにはいかん。こちらで対処することで、手を打った」
そうせざるを得なかったんだろうな。
「ありがとうございます。ビビを守ってくれて」
ボクもビビも、ヴォルフさんにお礼を言う。
「いいんだよ。こちらの不手際だった。申し訳ない。ただこちらにとっても、ビビを調査したがっている研究者も多くてな。なだめるのがやっとだったよ」
『ニャアは、そういう人気ものには、なりたくないニャー』
正直な感想を、ビビが述べる。
「というわけで、ゲーム内容の大幅な見直しがなされる。ただ、二人の意見を聞いておきたい。もちろん、すぐにとは――」
「大丈夫です」
間髪入れず、ボクはヴォルフさんに返答をした。
「いいのか? せっかく会話ができるようになったのに、むざむざ手放すことになるんだぞ?」
「構いません。言葉を話すからとか話さないとか、そんな理由でビビへの愛情が薄れちゃうなんて、ありえないし」
そう。すごく単純なことである。
ベルさんだって、会話ができないからと言って、ナインくんを手放したりはしない。
愛情はそのままだ。
ビビとお話できなくなるのは、たしかに悲しい。
でも、ビビがいなくなるわけじゃないんだ。
「わかった。あんたの気持ちは理解した。ただ、すぐにしゃべれなくなるわけじゃない。時期が来たら、必ずアナウンスを送る。そのときまで、ずっと会話してあげなよ」
「ありがとうございます。失礼します」
ボクたちは、ギルドを出た。
「さあ、残された時間をどう過ごそうか?」
ビビにしてあげられることって、なんだろう?
ボクの手持ちのアイテムから、なにかできるかな?
せいぜい、ヴァンパイアを打倒したときに手に入れた【メイド服】と、【貴族のティーセット】くらいなんだよね。
どれも、ほぼフレーバーアイテムである。
メイド服は【きぐるみ】などのように、外見を変えるアイテムだ。
ティーセットは、安全な結界を張って体力を完全回復する【テント】と、同じ役割を持っている。ただ、範囲が以上に小さい。入れるのが、二人だけだ。
『明日、やりたいことがあるニャー』
ビビから、さっそくリクエストが。
「やりたいことだって?」
『秘密ニャー』
翌日ログインすると、ボクのセーフハウスにメイドさんがいた。
『ご主人、おかえりニャー』
メイド服を来たビビが。
ボクは、ちょっと打ちのめされた。
ゲームの中で会話をしていることが、デフォルトになっていたんだなと思う。
ボクの中で、ビビとのお話は、かなりウェイトを占めていたんだな。
「ヴォルフさんたち他のギルド構成員も、お話ができるペットなんですよね?」
「そうなんだが、他のペットたちとも、今後は『P・R・F』内で会話ができなくなる。ビビが、特殊なパターンすぎるんでな」
「どの辺りが、しょうか?」
「会話内容の構成パターンは、模擬人格が管理しているって話は、したな?」
ボクは、「はい」とうなずく。
冒険者ギルドのスタッフには、ペットもいる。とはいえ、ペットと直接話しているのではない。模擬人格によって、構築された文章を読んでいるに過ぎないのだ。
だから、言われたとおりにしか反応できない個体も、多くいる。
「しかし、ビビはイレギュラーなんだよ」
「まさか」
「そのまさかだよ、ケント。ビビのヤツは、自分で意思を持って話している」
ビビは自分の言葉を、自分の意思で語りかけていたのだ。
たしかにビビは、ボクが熱を出した時も、自分でベルさんの中の人である「鈴音」さんに連絡をメッセージアプリで入力している。
人間の言葉をビビが理解しているのは、明白だ。
どこかで言葉を覚えたのか。
あるいは、ボクとの生活で言語を学んだんだろう。
「こんな現象は、相当に訓練されたスタッフにしか起こり得ないはずだった。オレのような、な。しかし、ビビは違った。バグの除去作業によって生じた、一種のトラブルの可能性が出てきたんだ」
「ビビと会話できる現象は、バグであると?」
ヴォルフさんは、うなずいた。
「その危険性がある以上、こちらも対処せざるを得なくなったんだ」
「ボクがもし、断ったらどうするんです?」
「……ビビを調査する必要がある。それも、かなりの年月をかけて」
ビビが、実験体にされてしまうのか。
「コンピュータのバグでペットに人格が芽生えるなんて現象、オレたちスタッフにだって初めてのことなんだ。我々も、対処に困っている。ただのバグではなかった可能性が高い」
「放置すると、どうなるんですか?」
「他のペットたちにも、同じ現象が起きるかもしれない。そうなると」
「パニックに、なりますね」
「だな」
ボクだったから、まだ反応が薄くてよかったのだ。ビビが言葉を話そうがなんだろうが、愛情は変わらないから。
普通の人なら、大騒ぎになる。とてもじゃないが、冷静ではいられない。
ネットにアップしてしまうか、ずっとお話ししたくてゲーム内にひきこもってしまうか。
そんな事態に陥ってしまうだろう。
「よって、『ビビを長い年月をかけて調査する』か、ゲーム自体を一部クローズドにして、バグの除去に専念するかの二択となった」
で、ボクたちへの配慮として、ゲーム側は後者を選んだと。
「お前さんたちに、迷惑をかけるわけにはいかん。こちらで対処することで、手を打った」
そうせざるを得なかったんだろうな。
「ありがとうございます。ビビを守ってくれて」
ボクもビビも、ヴォルフさんにお礼を言う。
「いいんだよ。こちらの不手際だった。申し訳ない。ただこちらにとっても、ビビを調査したがっている研究者も多くてな。なだめるのがやっとだったよ」
『ニャアは、そういう人気ものには、なりたくないニャー』
正直な感想を、ビビが述べる。
「というわけで、ゲーム内容の大幅な見直しがなされる。ただ、二人の意見を聞いておきたい。もちろん、すぐにとは――」
「大丈夫です」
間髪入れず、ボクはヴォルフさんに返答をした。
「いいのか? せっかく会話ができるようになったのに、むざむざ手放すことになるんだぞ?」
「構いません。言葉を話すからとか話さないとか、そんな理由でビビへの愛情が薄れちゃうなんて、ありえないし」
そう。すごく単純なことである。
ベルさんだって、会話ができないからと言って、ナインくんを手放したりはしない。
愛情はそのままだ。
ビビとお話できなくなるのは、たしかに悲しい。
でも、ビビがいなくなるわけじゃないんだ。
「わかった。あんたの気持ちは理解した。ただ、すぐにしゃべれなくなるわけじゃない。時期が来たら、必ずアナウンスを送る。そのときまで、ずっと会話してあげなよ」
「ありがとうございます。失礼します」
ボクたちは、ギルドを出た。
「さあ、残された時間をどう過ごそうか?」
ビビにしてあげられることって、なんだろう?
ボクの手持ちのアイテムから、なにかできるかな?
せいぜい、ヴァンパイアを打倒したときに手に入れた【メイド服】と、【貴族のティーセット】くらいなんだよね。
どれも、ほぼフレーバーアイテムである。
メイド服は【きぐるみ】などのように、外見を変えるアイテムだ。
ティーセットは、安全な結界を張って体力を完全回復する【テント】と、同じ役割を持っている。ただ、範囲が以上に小さい。入れるのが、二人だけだ。
『明日、やりたいことがあるニャー』
ビビから、さっそくリクエストが。
「やりたいことだって?」
『秘密ニャー』
翌日ログインすると、ボクのセーフハウスにメイドさんがいた。
『ご主人、おかえりニャー』
メイド服を来たビビが。
10
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました
鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。
だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。
チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。
2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。
そこから怒涛の快進撃で最強になりました。
鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。
※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。
その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。



【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる