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第三章 魔法科学校の秋は、イベント盛りだくさん 魔法体育祭と、スティックチーズケーキ

第31話 ドナシアン・カファロ

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「で、私に意見を聞きに来たのですね?」

 長い髪をお下げにした初老の男性が、モノクルをクイッと上げた。彼こそこの『金曜日の恋人』の店主、ドナシアン・カファロである。

「そうだ。ドナシアン。また、よろしく頼むぜ」

 オレは金貨を持って、ドナシアンのカフェ『金曜日の恋人』に頼み込んだ。

 彼のメニューはナポリタンやハンバーグなど、まさに洋食店さながらである。まさに古き良き純喫茶と言っていい。金曜日のモーニングを担当する。「金曜日の人」とあだ名もついていた。

「いやあ、イクタさん。ほんとにあなたの周りは、女子生徒に囲まれて、うらやましい限り」

「あんた結婚してるじゃん」

「大昔の話ですよ」

 彼はオレと違って、既婚者だ。男女二人の子どもがいて、三人の孫がいる。その一人は、リックワード魔法科の女子幼稚舎に通っているのだ。

「人気はあんたがトップじゃねえか」

「モーニングは、ですね。定番のお昼なら、あなたがぶっちぎりではありませんか」

「いや、女子は洋食が好きだぜ」

 ドナシアンの店でもっとも特徴的なのは、プリンやショートケーキ、メロンソーダなどがあること。本質はカフェなので、三時以降の放課後にこそ本領を発揮する。

 よって、放課後も過ぎた遅い時間に頼みに来た。これなら、邪魔は入らない。

「私も、地球のグルメに魅了された者。この文明を広めることは、私にとってもうれしい限りです」

 モノクルをクイッと上げて、ドナシアンは微笑む。

「とはいえ、我がレストランの秘伝を、お教えするわけには参りません」

「だよなあ」

 レシピをくれって、言っているようなもんだし。

「お店では出せませんが、我が孫に提供しているデザートなら、聞かせてもよろしいかと」

「本当か?」

「ええ。ありあわせのものを使いますので、材料費なんて安いものです。なのに絶品という最強コスパスイーツですよ」

 ドナシアンが、透明な保存袋と型を用意した。

「どこでそんなレシピを学ぶんだ?」

「これですよ」

 スマホを、ドナシアンが取り出す。料理サイトかよ。

「ああ、その手があったな」

「でもあなたでは、アイデアまでは出てこないでしょう?」

 違いねえ。料理ってのは、相手が何を求めているかまで把握していないと、うまいものは作れない。

「私が実技でお教えしますから、ついてきてください」

 ドナシアンも、これから同じものを作るという。

「まずは、これを」

 市販のビスケットを、ドナシアンは用意した。オレでも知っている、メーカー品だ。

「それ、ウチのばあちゃんの家にずっとあったやつだ」

「馴染みがあるなら、尚更いいでしょう。これを透明な包みに入れて、砕きます」

 ビスケットを保存袋に入れて、麺棒で砕く。レンジで溶かしたバターも、一緒に投下。

「地球の文化はすばらしい。魔法が発達しなかった代わりに、このような文化が日々進歩している。魔法科の教員なら嘆くところでしょうけど、それは宗教上の理由から。私は無神論者ですから」

 地球の技術をたたえながら、ドナシアンがトントンとビスケットを砕き続けた。

「まったくだ」

「では、作業を続けましょう」

 クッキングシートを敷いた型に平たく押し込んで、冷蔵庫で冷ます。

「続いて、柔らかくしたクリームチーズの中に、砂糖、卵、生クリーム、レモン汁、ふるった小麦粉の順で加えます」

 さっきビスケットを入れた型に、混ぜたチーズを流し込んだ。ラッピングをして、しばらく空気を抜く。

「一七〇度のオーブンで、四〇分ほどで結構です」

「わかった、待ってろ」

 時間操作魔法で、ドナシアンのケーキと一緒に短縮しようとした。

「いえ、結構。まだ工程が残っていますので、そのときで十分です」

 焼き上がりを待つ間、コーヒーを淹れてくれる。

「妻直伝のコーヒーです」

「ありがとう。うまい」

 ドナシアンのドリップコーヒーは、香りもいい。

「昔のあんたとは、大違いだ」

 今でこそ好々爺であるが、当時のドナシアンは近づきがたいカタブツだった。

「頭でっかちだった私を目覚めさせてくれたのは、地球生まれの妻です。彼女のコーヒーと出会って、私は雪解けを迎えたのです」

「奥さん、元々洋食屋だったんだよな」

 本来、『金曜日の恋人』は、奥さんの方である。

「ウェディングケーキを生徒のために作ってやれ」という提案も、ドナシアンの奥さんからいただいたアイデアだ。

 今は腰を痛めて、食材の管理に回っている。夫が、代わりに厨房に立つことに。

「彼女と出会って、私は有能な魔法学者ではなくなった。しかし、それ以上に得るものがあるのです」

 料理を作るドナシアンは、実にうれしそうだ。

「ツヤ出しに、アプリコットのジャムを塗ります」

 これを冷蔵庫で、冷やせば完成だ。一日半ほど、寝かせるといいらしい。

 こちらはさすがに、時間を操作して工程を短縮した。

「あとは棒状に切り分けて、できあがりです」

 早速、試食してみる。

「うまい!」

 ザクッという食感と、チーズケーキのしっとりした舌触りが絶妙だ。

 ビスケットで下地を付けているため、持ちやすいのもいい。

「ありがとう。残りは、奥さんとお子さんに」

 なんのお返しもしていないからな。

「すばらしい。イクタさんのそういうところが、女性のハートを射止めるのでしょうな」

 よせよ。
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