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第七問 甘酒は、夏の季語である。○か×か? ~僕たちの行く末は、○×なんかでは決められない~

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 常に余裕の表情をしていた聖城先輩の顔が、少しこわばる。
 三巡目となり、番組研が残り二人となったにもかかわらず。

 先輩はおそらく、常に知識で勝ち進んでいる。運に頼らずに……。
 番組研が四人一組で戦っているのに対して、先輩は一人で挑んだ。
 しかも、先輩は一問も間違えられない。 
 この緊張感がミスを誘う。
 プレッシャーが、先輩の心から余裕を奪っているに違いない。

「さて、ここで勝負が決まってしまうのか。参りましょう。では名護湊選手、前へ!」

 続いては、湊の番だ。

「名護湊選手、あと二人になってしまいました。プレッシャーはありますか?」
「うーん、どうだろう。いつのも事をやるだけかなって」

 湊はあくまでもマイペースだ。

「津田選手の方は、緊張のほどは?」
「がんばります」

 うん。緊張してる。自分でも何を言ってるのか分かってないんじゃ?

「肩に力が入りすぎてませんか?」
「大丈夫です。リラックスできてます」
「これくらい平気だって」

 湊が嘉穂さんの肩に手を置く。

「余裕の発言のように取れますが、湊選手?」

 腰に手を当てて、湊は聖城先輩の方を向く。

「むしろさ、聖城先輩の方がプレッシャーが凄いんじゃない?」
 
 先輩は、顔こそ凛として緊張を隠そうとしているが、膝が笑っていた。

「聖城先輩、あと二人倒せば勝ちですが、今のお気持ちは?」
「一問一問を大事に解いていくだけです」

 もっともらしい意見である。しかし、自分に言い聞かせているようにも見えた。

 では、湊に問題を出す。

「またも選択問題です。気象予報士は、どこの省庁にあるでしょう? A・国土交通省。B・環境省」

 特に迷うことなく、湊がBへ向かう。

「どうしてそう思われましたか?」

 僕が尋ねる。

「お天気だもんね。やっぱり環境省じゃないかな?」

 青いレスラーに抱えられながら、湊が答える。

 しかし、自信満々だった湊は、Bのレスラーに放り投げられた。湊の身体が、泥の海へ沈む。
 正解は国土交通省だ。

「いやあ、こりゃわかんないや。ごめんね津田さん」

 ボケるつもりがなかった湊が、嘉穂さんに手を合わせる。

「いいんです。お疲れ様でした」

 顔がこわばっているが、嘉穂さんはどうにか笑顔を作った。
 
「さて、後がなくなったぞ、番組研! 津田選手、これが終わりになってしまうかも知れませんが」
「まだ、終わったわけではありません!」

 力強く、嘉穂さんが首を振る。

「言い切りました津田選手、強気の発言。闘志はまだ消えていない!」

 続いて、聖城先輩にマイクを振った。

「最終決着が近づいてますが、今の心境を、お聞かせ願いますか?」
「次の問題を下さい」

 先輩はそう催促する。まるで自分はクイズに答えるマシーンだとでも言うかのように。

 お望み通り、聖城先輩へ問題を提供する。

「安来節こと、ドジョウすくいは元々。『土壌』をすくって砂鉄を掘り起こす動作を踊りとして取り入れた物である。○か×か」

 先輩は○を選択した。
 正解なのか、ドジョウすくいのように泥の中へ沈んでしまうのか。

「正解です。安来鋼という鉄を採取していた時にどじょうが掬えたことが元となっています」

 聖城先輩が正解をして、いよいよ番組研には余裕がなくなっていく。

「さて、四人いた番組研の解答者は、残すところあと一人、もう後がない。果たして勝利の栄冠を掴むのは、津田選手率いる番組研か、はたまた、クイズ女王の貫禄勝利か? 勝負の行方は次の問題に!」

 三巡目ラストに来て、嘉穂さんと聖城先輩の一対一となった。
 僕も、どうなってしまうのか内心ドキドキしている。同時に、いつまでも二人の真剣勝負を見ていたいとさえ思った。
 
 大事な部の存続がかかっているというのに、不謹慎だろうか。
 けれど、これこそ僕たちの追い求めたリアルとエンジョイの同居、その集大成と言えるだろう。

「では、問題……の前に、少々お待ち下さい」

 僕は、レスラー達が待機する砂浜へと足を進める。

「お前ら誰だ!?」

 そこには、白いマスクを被ったレスラー二名が、砂浜に寝転がっていた。

 手に持ったピコピコハンマーで、彼女たちを叩き起こす。
 レスラーはビクッとなって立ち上がった。
 臨戦態勢を取ってはいるが、線が細く、とてもレスラーとは思えない体格である。
 
 僕はレスラーたちのマスクを剥ぎ取った。

「やっぱりお前か、のん、湊っ!」

 緊迫したムードをぶち壊した二人には、おしおきが必要である。

「赤と青のレスラーさん、お願いします」

 赤いレスラーがのんを、青いレスラーが湊を担ぐ。向かった先は波打ち際だ。腰まで水に浸かる。

「では、放り投げちゃってください!」

 裏投げの容量で、のんと湊はレスラーの手で海へと投げ捨てられた。

「のわーっ!」
「アッー!」

 水しぶきを上げて、二名の偽レスラーが海水に飲まれる

 観客席から、リラックスした笑いが漏れた。
 
「ほんと、ボケ命だな、お前らは」
「面白かったじゃんよ。嘉穂たんだって喜んでるしさぁ」

 湊が嘉穂さんを指差す。

 腹を抱えながら、嘉穂さんが大受けしている。

 なるほど、湊なりに嘉穂さんの緊張をほぐしてあげていたのか。

「とでも言うと思ったか! 嘘つけこのボケ狂信者! お前のそれ私物だろうが!」
「あ、バレたか」
 
 確かに、嘉穂さんをリラックスさせる効果は生み出している。だが、初めから準備しているなんて用意周到すぎる。

 第一、泥かマットへマスクマンに落としてもらうというルールは、湊の発案だ。
 つまり、元々セッティングしていてもおかしくない。
 
「それでも、今回ばかりはお前の機転に感謝かな」

 嘉穂さんがこれでプレッシャーを振り払ってくれれば良いけど。 

 これが決め手となるのか。
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