上 下
45 / 48
第七問 甘酒は、夏の季語である。○か×か? ~僕たちの行く末は、○×なんかでは決められない~

問題 甘酒は、夏の季語?

しおりを挟む
 ルール上、番組研は相談してもいいことにしていた。

「○じゃないのか?」
「わたしも○かな、って」

 のん、嘉穂さんの意見を、湊は腕を組みながら聞く。

「うーん。○率が高かったから、そろそろ×っぽいんだよね」

 湊の推理も有り得る。これが○×の怖いところなのだ。
 確率でも当てられてしまうだけに、迷いが生じる問題となると、思考が麻痺してしまう。
 ここでいかに知識に裏付けされた解答を出せるか。
 それも、クイズ解答者としての資質が問われる。
 
「ワタシも、×だと思います」

 やなせ姉が、青いゼッケンのレスラーを選び、運んでもらう。

 見た目よりも軽いのか、レスラーは軽々とやなせ姉を運ぶ。
 やなせ姉が、ギャラリーに手を振る。

「さて、来住選手は×を選択しました。果たして正解かどうか? あーっと!」

「きゃああ!」

 やなせ姉に待っていたのは、泥のプールだった。
 茶色くなったやなせ姉が泥から這い出る。

 正解は○だ。拳銃の所持は一九四八年、つまり昭和二三年まで適用されていた。残念。

「うーんごめーん」

 ビキニを泥まみれにして、やなせ姉が帰ってくる。なのに、美しさは全く損なわれていない。泥が滴ってもいい女とはこのことだ。

 ここに来て、番組研が始めて土を付けた。聖城先輩が一歩リードである。

「どんまい、先輩。ウチらも間違ってたんだから」
「気にするな、やなせ姉。間違いは誰にでもあるものなのだ」
「先輩、落ち込まないで下さい」

 一人失格したとはいえ、番組研の様子は明るいものだ。
 
「早く海へ行きましょう。泥を落とさないと」

 嘉穂さんが、やなせ姉を海へ連れて行く。

「ありがとーねー」

 浅瀬から海へとダイブし、やなせ姉は身体を洗う。

「さて、これでまず一人が脱落しました。聖城先輩、今の心境はいかがなものでしょう?」

 先輩は首を振る。

「特に、気にしていません」

 そういう割には、妙にソワソワしている。
 緊張しているだけか? はたまた余裕が生まれて早く終わらせようとしている?

 僕には、聖城先輩の心理は分かりかねた。
 だが、容赦なく問題は出題される。

「お見事。扇子は昔、メモ帳として使われていました。正解は○」

 先輩は次の問題で難なく正解を出し、マットに身体を預けた。
 
 番組研は未だ、先輩というクイズの巨獣との対決を余儀なくされる。
 またも、のんの出番となる。

「問題。『鳩が豆鉄砲を食ったような』ということわざは、鉄砲が伝来する以前からあった」

 ○ゼッケンのレスラーへ向けて、のんが走って行く。

「さあ○へ行った。しかし、赤いレスラーは真っ先に泥の中へ!」

 運ばれていった先は泥プールだ。のんの軽い身体が、泥のプールへと投げ飛ばされた。勢いが強すぎたのか、レスラーまで泥の中へ落ちてしまう。

「のわーっ!」

 レスラーの下敷きになり、のんが泥の中でもがく。だが、起き上がれない。

「そんなわけねーだろ! 当然、正解は×です!」

 レスラーに手を引かれ、ようやくのんが泥から這い上がる。
 全身泥まみれで、のんは退場していく。やなせ姉と並んで、バシャバシャと海水を浴びた。まるで犬の水浴びだ。レスラーと一緒に、陸へと上がっていく。

 ここで、一気に二人が脱落した。とはいえ、番組研の面々に悲壮感はない。

「問題、禁酒法時代を描いた映画『アンタッチャブル』に登場する、実在の捜査官エリオット・ネスは……アルコール中毒だった。○か×か?」

 先輩は、これも悩む。腰に手を当てて、意を決したかのように駆け出した。駆け足で○のレスラーの元へ。
 
 その通り。正解は○だ。
 先輩が、白いマットの上でホッとした表情を見せた。

「聖城先輩、今の心境は?」

 安堵した顔が、一瞬にして緊張した面持ちへと戻る。

「いやぁ、難しいです」

 思わずといった感じで、苦笑いが浮かぶ。コメントにまで頭が働かないらしい。

 今のは運で正解を勝ち取ったのか。はたまた知識を絞り出して正解を得たのか。
 僕には分からない。しかし、先輩の首が繋がったのは確かである。
 
「正解です。たしかに、任天堂の人気キャラ、マリオの本名は、『マリオ・マリオ』です」

 湊が正解し、番組研の望みを繋いだ。

「問題 モナコの街並みを再現した超豪華客船、ストリート・オブ・モナコに設置されている施設はどれ? A、ゴルフ場。B、レース場。さあどっち?」

 時間いっぱいまで思案した結果、聖城先輩はBを選ぶ。
 放り投げられた身体は、マットの上へ。

「正解しました。ゴーカートができる会場があります」

 限られた面積でレースなんてできるのかに、悩んでいた模様である。
 
 嘉穂さんの手番となった。

「問題。甘酒は、夏の季語である。○か×か?」

 これには、聖城先輩も立ち尽くす。本当に分からないらしい。一歩一歩考え込みながら、○のゼッケンを付けたレスラーの前に。
 レスラーが嘉穂さんを乱暴に担ぐ。まるで不正解一直線かのように。

「あっとこれは、勝負あったか?」
 
 皆が、不正解なのか? と固唾を飲んで見守る。

 悲鳴を上げながら、嘉穂さんが涙目になった。
 しかし、無事マットへ。正解ということだ。

「甘酒は江戸時代、夏に飲まれていました。夏バテ防止の効果があるとされています。よって正解は○です。いよいよ、三巡目に突入致します。勝負はまだ分かりません!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々

饕餮
ライト文芸
ここは東京郊外松平市にある商店街。 国会議員の重光幸太郎先生の地元である。 そんな商店街にある、『居酒屋とうてつ』やその周辺で繰り広げられる、一話完結型の面白おかしな商店街住人たちのひとこまです。 ★このお話は、鏡野ゆう様のお話 『政治家の嫁は秘書様』https://www.alphapolis.co.jp/novel/210140744/354151981 に出てくる重光先生の地元の商店街のお話です。当然の事ながら、鏡野ゆう様には許可をいただいております。他の住人に関してもそれぞれ許可をいただいてから書いています。 ★他にコラボしている作品 ・『桃と料理人』http://ncode.syosetu.com/n9554cb/ ・『青いヤツと特別国家公務員 - 希望が丘駅前商店街 -』http://ncode.syosetu.com/n5361cb/ ・『希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~』https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271 ・『希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―』https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376 ・『日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ(にいらっしゃいませ)』https://www.alphapolis.co.jp/novel/177101198/505152232 ・『希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~』https://ncode.syosetu.com/n7423cb/ ・『Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街』https://ncode.syosetu.com/n2519cc/

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

恋するハンマーフリューゲル

山本しお梨
ライト文芸
高校三年の講習会で聴いた、ピアノの演奏と、ピアノの伴奏。そこに知らず居合わせたふたりは音大に入学後、同じ門下で勉強をしている。山岡みそらは声楽専攻、三谷夕季はピアノ専攻として。 同じ演奏に魅入られた二人の目の前にあるのは、それぞれの練習や伴奏合わせといった学校生活だけではない。その先にある就職、そして、その中にあってどう生きるか。音楽と天秤にかけれるのか。 けれど、もし、一人ではないのなら。音楽とともに、誰かと生きていけるのなら―― ---------- ■山岡みそら 声楽専攻(木村門下)、ソプラノ。 副科ピアノは羽田門下。 ■三谷夕季 ピアノ専攻(羽田門下)。みそらと同学年。 先輩である江藤颯太、林香織の伴奏を担当。 ■江藤颯太 管楽器専攻(トロンボーン、山本門下)。 副科ピアノは羽田門下。 みそら、三谷より一学年先輩。 ■羽田葉子 ピアノ専攻の非常勤講師。 三谷夕季の担当講師。講義では伴奏法も担当。 ■林香織 声楽専攻(木村門下)、ソプラノ。 みそら、三谷より二学年先輩。 ■木村利光 声楽専攻の非常勤講師。 みそら、香織の担当講師で現役バリトン歌手。 ■諸田加奈子 ピアノ専攻。みそらの伴奏を担当。 みそら、三谷と同学年。 ---------- 第4回ライト文芸大賞に参加中です。 応援、また感想などいただけるとうれしいです。

日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。 そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。 そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

処理中です...