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第六問 ウイスキーの専門家のことを、なんと呼ぶ? ~最強のライバル襲来~

本格的 早押しクイズ

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 体育館を借り切って、いよいよ番組が始まろうとしていた。
 長テーブルには、番組研のメンバーがズラリと全員並ぶ。
 テーブルの上には早押しボタンが設置されている。

 全員、思っていたよりはリラックスしている様子だ。
 どんな結果になったとしても、番組を楽しもうという意気込みを感じる。
 
 一方、隣の机には一人だけ、聖城先輩が座っていた。険しい表情で出番を待つ。

 まるで対照的な二チームだ。

 本番の時間を迎え、僕は会場に向かって拍手を送る。
 会場から、盛大な拍手がわき起こった。
 
『さあ、始まりました、クイズ番組研究会。期末試験が終わって、皆のテンションも上がっております。そうですよね!』

 僕は会場を煽る。
 ドドドッと、いい反応が返ってきた。また、拍手がわき上がる。
 今日はギャラリーも大勢いるのだ。

 本来なら、この体育館は運動部で賑わっている。
 今日はバレー部やバスケ部など、体育館を使う部活は、全て他校へ練習試合に向かった。
 わざわざ、この日のためにと予定を入れてくれたのだ。
 それだけこの番組を楽しみにしてくれている、ということである。

 期待されているのならば、下手なことはできない。絶対に成功させなくては。

 今回の試合は、クイズ番組研究部が一つの席に座って、聖城先輩と戦う。

『なお、今回はハンデキャップということで、いつも問題を読み上げている、来住やなせ先輩が解答者として参加して下さっています!』
 
 ワッと歓声が上がる。

 やなせ姉はクイズ研としてより、気遣いのできる後輩、頼れる先輩、気のいいクラスメイトとして、学校でも人気が高い。

「よろしくお願いしまぁす」

 やなせ姉が手を振ると、男子からガッツポーズが上がった。
 いやいや、婚約者いるから。すぐ側で婚約者のマッチョが控えてるからね。

 番組研の紹介を終え、聖城先輩に話を振る。
 
『では、今回初ゲストとなる、生徒会長の聖城頼子先輩です。今の心境は?』
 
「暇つぶしには丁度いい余興かと」

 いきなり毒を飛ばしてきた。ハイボルテージだ。
 確実に番組研を潰しに来ている。いや潰した気になっているように思えた。

『緊張はしていないということで、張り切っていきましょう。司会と問題の読み上げは僕が担当します』

 お手つき・誤答に関しては、特にペナルティはない。バンバン答えてもらうためだ。
 僕は、問題の書かれた用紙に目を通す。

 ここで、聖城先輩がいきなり腕組みを始めた。

 番組研サイドもギャラリーも、何事かと聖城先輩に視線が釘付けになった。

『では参ります。問題。日本初の小惑星探査機は――』
 
 のんがボタンを押し、「はやぶさ!」と答える。元気がいいのは素晴らしい。

「で・す・が!」
 ダメ。不正解。

『問題は最後まで聞きましょうね。火星探索機は「のぞみ」。では、人工衛星――』

 ここで湊が勝負に出た。が、自信がなさそうだ。

「ああ……じゃあ『ひてん』じゃないよね。月面探索機だもんね」
『はい。その通り。不正解です』

 嘉穂さんがボタンを押す。

「ここでリードをまた広げるか、お答えをどうぞ」
「『おおすみ』ですね」

 正解だ。この番組は、一点先取で終了する。あと四点が入れば、番組研の勝ちだ。

 腕を組んだまま、聖城先輩に動きはない。
 何を考えてる? ハンデのつもり? それとも作戦があるのだろうか?
 このままリードを許すはずがない。いつ仕掛けてくるのか。

『では次に参りましょう。問題。魚介類を乾燥させたものは干物、では植物を――』

 ボタンが押された。湊だ。

「えーっとね。枯れ専!」
『お前が枯れろ!』

 立て続けにボタンが押される。押したのは嘉穂さんだ。顔がニヤけている。笑いを必死に堪えているのだろう。

「では、津田選手どうぞ」
「か、乾物です」

 続けて嘉穂さんが正解して二ポイント目を獲得。

 ここでも、沈黙を守り続けている聖城先輩が不気味だ。ボタンに触ろうともしない。

『日本のライトノベルで初めて、ハリウッドで映画化された作品のタイトルは何でしょう?』

「小宮山のんさんが早かった。これでリードを縮められるか? どうぞ!」
「えっとね、オール・イズ・ユー……」

 五秒後、ブーッと、不正解のブザーが鳴る。

「まだ何も言ってないのにーっ!」

「わかった」
「はい、名護湊さん」
「オール・ユー・ニード・イズ・ラブ」

 それはビートルズだ。不正解。

「はい。オール・ユー・ニード・イズ・キルですぅ」

 嘉穂さんが三問目を正解した。

 聖城先輩は何もしない。ただ黙って様子を窺っている。嘉穂さんが健闘して、圧倒的なリードを広げていく。その後、一気に七点差まで広がった。

『問題、金塊――』
 
 たった二文字を言っただけで、ボタンが押された。聖城先輩が押したのだ。

「え、ここにきて、聖城選手が来た。お答えをどうぞ!」
「……ナゲット」

 ボソリ、と答えを言う。

 正解のチャイムが鳴り、会場がどよめいた。

「いつわかったんだよ?」とか、ひそひそ話が飛び交っている。

『せ、正解です。金塊という意味を持つ料理は、ナゲットです』

『問題。オペラ歌手やバレエダンサーに音楽――』

 考えている間に、ボタンを押されてしまった。

「コレペティートル」
「はい。音楽稽古をつけるピアニストは何という。答えはコレペティートル」

 嘉穂さん達に考える隙を与えず、瞬時に聖城先輩が答える。
 これでまた差が付いた。
 
 聖城先輩の勢いは、ここだけに留まらない。
 問題を数文字言っただけでボタンが押されて、解答される。
 こちらに問題を言わせる暇も与えない。
 まるで、こちらの吐息すら先読みして解答しているようだ。

『問題。一九八四年ロス――』
 
 もうボタンが押された。
 ただ、聖城先輩は首を曲げ、眉間に皺を寄せる。お手つきかと思われたが、おもむろに先輩は口を開いた。

「……ガブリエラ・アンデルセン」

 口の中が乾く。
 まだ、大して問題を読み上げているワケでもないのに。

『はい。『ロス五輪で、脱水症状になりながらもゴールした、元スイスの女子マラソン選手は』という問題でした。正解はガブリエラ・アンデルセンです。その通り』
 
 ロス五輪女子マラソンで、フラフラの状態でゴールした選手がいたのは印象的でも、選手の名前まではわからないだろうと思っていた。
 こんなテレビでも大々的に取り上げられていたら、名前くらい調べられる。これは僕の落ち度だ。
 
 番組研にも冷や汗が流れる。
 先輩に対抗してなるべく早くボタンを押す。
 しかし、誤答してしまう。これでは、何のプレッシャーも与えられない。

 盛り上がっていた会場も、ヤバイという空気を感じ取ったのか、無言になる。
 そうこうしている間に、八点まで持って行かれてしまった。

 このまま負けてしまうのか?

 そうなったら嘉穂さんは、番組研から去らなければならない。
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