上 下
30 / 48
第五問 ガウチョは何語? ~クイズ番組研究部の休日~

問題「ガウチョとは、何語?」

しおりを挟む
 食事を終えて、二度目の取材を行うことに。

「どこに行きましょうか?」
「適当にブラブラしよう。考え込んでても、ロクなアイデアしか湧かないよ」

 洋服売り場まで辿り着く。
 高級な物から、手が届きやすい価格の物まで、様々なタイプの衣装を着たマネキンが、ショーウィンドウに並ぶ。
 
「うっふうん」とか言いながらポーズを変えるマネキンまで立っていて。

……って、マネキンって喋ったっけ?

「何やってんの、お前ら」

 格安洋服売り場の試着コーナーの前で、湊とのんがファッションショーをしていた。セクシーポーズのつもりなのか、艶っぽい声を出してはしゃぐ。

「おや、珍しいね。こんな所で会うなんて」
「おお、しょーたじゃん。これ似合う?」

 二人が穿いているのは、お揃いのダボッとした七分丈のパンツだ。

「そのパンツ、何て言うんだっけ?」
「しょーたも知らないのかー」

 あいにくファッションの知識は苦手なんだ。今後の課題かな。
 
「これはなぁ、しょーた……ガチョウパンツだ!」

 思わず、ガチョウが七分丈のパンツを穿いて走り回る映像が浮かんだ。

「ガウチョパンツだよ」

 間違えたのんの代わりに、湊が正解を教えてくれた。
 湊は肩の出たシャツに、キャメルカラーのガウチョを穿いている。
 大胆にもヘソ出しという服装だ。
 帽子のツバの上には、デカイサングラスが鎮座している。
 
 のんはラグビーの選手みたいな柄のTシャツに、真っ白のガウチョだ。
 例の日本一有名な選手のポーズで決める。

 一歩間違えると一気にダサくなるファッションなのに、二人が着ると絵になるから不思議だ。

「二人とも可愛いです!」
「うん。正直、何も言葉が出ないと」

 事実、とてもよく似合っていた。文句の付けようがない。
 湊の私服姿は初めて見たが、こんなにセンスが良かったのか。
 のんの方も、子供っぽさを残しつつ健康美を醸し出している。
 湊のコーディネート力の賜だろう。

「見とれちゃダメだよ、福原」
「そうだぞー蹴るぞー」
 なんで蹴られないといけないのか?
 
「問題。ガウチョとは、ズバリ何語でしょう?」

 お返しとばかりに、僕は即興で問題を出す。

「ラテン語だぞ!」
「アメリカ語!」

 どっちも不正解!
 なんだよアメリカ語って。
 
「ポルトガル語だ!」

 僕が答えを言うと、「そっちかー。惜しかった」と二人とも悔しがる。
 いやいや、一ミリも惜しくなかったからな!
 
「嘉穂たんも着ていかないかい? 買わなくてもいいから」
「そうですね。せっかくですし」

 ガウチョが置かれているコーナーへと、嘉穂さんが向かう。アップリケが施された、ベージュのガウチョをチョイスした。

 鏡の前で、嘉穂さんがガウチョを腰に当てて考え込む。

「おお、似合うかも」
「ナイスな選択なのだ」

 二人の反応もいい。

「これ、可愛いです。これにします」

 実際、僕もこれは嘉穂さんにはピッタリだと思う。

「ちょっと着替えますね」と、更衣室へ。

 その間、僕は湊とのんに包囲される。

「ところで、お二人は何をしていたのかな?」

 大袈裟に湊が問いかけてきた。

「取材だよ。言っとくけど、やましい事なんてしてないからな」
「誰も聞いてないんだよなあ」

 湊がニヤけ顔をする。
 これは、墓穴を掘ってしまったか。

「昼飯は済んだのかー? オイラ達は先に食ったぞー」
「オシャレなバルで食事したんだ。前菜のバーニャカウダが最高だったな」

 あれって、ニンニクが入ってたよな。女二人だから平気か。
 
「バーニャカウダは何語だ?」

 再度、即興で問題を作り上げる。

「イタリア語!」
「ピエモンテ語!」

 くやしい! どっちも合ってるなんて!

「正解だよ。なんだよピエモンテ語を知ってるとか……」

 バーニャカウダは、イタリアを代表する料理だ。ピエモンテ語で「熱いカウダソースバーニャ」という意味である。


 ああもう! 二人のドヤ顔が、なおさら敗北感を煽る!
 
「ああ、僕らも済ませたよ」
「ここのご飯は全部おいしいからなー」

 のんは至って普通の問いかけをしてきた。
 コイツにとっては僕たちは普通に遊んでる風に見えたのだろうな。

「楽しんでるならいいけどな。オイラたち、邪魔しちゃったかー?」
「そんな事ない。二人だと会話が続かなくってさ。何を話していいか分からない」
「クイズの話でいいじゃん」

 のんの言葉も、もっともなのだが。

「まあ、取材中だからね。でも、コツを教えるとそのまま答えになってしまうから、僕からは話しづらいんだよ」
「難しいな。もう告白はしたのかい?」
「すすす、するわけないだろ!」
「何だぁ。つまんない男だな、キミは」

 ほっとけ! 僕はそういうんじゃないから!

「でも、腹減ってるならちゃんと『腹減ったぞ』って告白しておいた方がいいぞー」

 実に平和的なアドバイスが、のんから飛ぶ。こいつの脳では、色恋ネタはまだ処理しきれないのだろう。

「あのー、お待たせしましたぁ」

 嘉穂さんが、着替えを終えて僕たちに近づく。
 なるほど、こうなるのか。

 アップリケ満載で子供っぽい服でも、童顔の嘉穂さんが着ると実にフィットする。
 ちょっと出ている足首もポイントが高い。
 かわいい。思わず声が漏れそうになった。

「ホラ、ウチの睨んだ通りじゃないか」
「ホントですね。ありがとうございます、湊さん」
「さて、どうする? ウチら、着て帰るけど」
「値札見たら、セール中みたいでめっちゃ安いんですよ。買ってきますね」

 語尾に音符でも出てきそうなトーンで、嘉穂さんがレジに向かう。

「わたしも、着て帰ることにしました」

 ガウチョパンツのまま嘉穂さんが店から出てきた。

「あ、そうだ。あやせ先輩もいるんですよね!」

 突然、嘉穂さんがスマホを出して、やなせ姉を呼び出す。

「あのですね、今からちょっと余興をしようかと思うんですけど、いかがですか? OKですか? はい。ではお待ちしています。西畑くんも是非ご一緒に」

 笑顔で、嘉穂さんがスマホを切る。

「何をやる気だー?」

 のんが聞くと、嘉穂さんがガッツポーズを取った。

「特別部活動です! 晶太くん」

 嘉穂さんが、僕達に自分の考えたことを説明する。
 楽しそうなアイデアに、僕も手応えを感じた。
 
「それ、面白いかも知れない」

 実に面白い企画を、嘉穂さんはやろうとしている。

「でしょ? 課外授業で開放的になりますし」
「嘉穂たん、やるね。実に面白そうだよ」
「楽しみなのだ!」

 今日の成果も兼ねて、ひとつクイズ番組をやってやろうじゃないか。
 僕は、慶介に連絡を入れる。

「あ、慶介? スマホでいいから、撮影係を頼めるか? よかったOKか。じゃあ、合流しよう。場所は……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

恋するハンマーフリューゲル

山本しお梨
ライト文芸
高校三年の講習会で聴いた、ピアノの演奏と、ピアノの伴奏。そこに知らず居合わせたふたりは音大に入学後、同じ門下で勉強をしている。山岡みそらは声楽専攻、三谷夕季はピアノ専攻として。 同じ演奏に魅入られた二人の目の前にあるのは、それぞれの練習や伴奏合わせといった学校生活だけではない。その先にある就職、そして、その中にあってどう生きるか。音楽と天秤にかけれるのか。 けれど、もし、一人ではないのなら。音楽とともに、誰かと生きていけるのなら―― ---------- ■山岡みそら 声楽専攻(木村門下)、ソプラノ。 副科ピアノは羽田門下。 ■三谷夕季 ピアノ専攻(羽田門下)。みそらと同学年。 先輩である江藤颯太、林香織の伴奏を担当。 ■江藤颯太 管楽器専攻(トロンボーン、山本門下)。 副科ピアノは羽田門下。 みそら、三谷より一学年先輩。 ■羽田葉子 ピアノ専攻の非常勤講師。 三谷夕季の担当講師。講義では伴奏法も担当。 ■林香織 声楽専攻(木村門下)、ソプラノ。 みそら、三谷より二学年先輩。 ■木村利光 声楽専攻の非常勤講師。 みそら、香織の担当講師で現役バリトン歌手。 ■諸田加奈子 ピアノ専攻。みそらの伴奏を担当。 みそら、三谷と同学年。 ---------- 第4回ライト文芸大賞に参加中です。 応援、また感想などいただけるとうれしいです。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。 そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。 そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

処理中です...