上 下
20 / 46
第四章 ディレッタント、ヤンキーちゃんをプロデュース!?

第20話 遠足の班分け

しおりを挟む
 なんと萌々果モモカさんが、オレたちに声をかけてくるとは。

 普段から、オレは萌々果さんとしゃべっている。だから、ある程度は免疫があるけど。

 ケン莉子リコの二人は、ほぼ初会話だ。

 オレも予想外だったので、呆然としている。

 萌々果さんのことだから、なにか狙いが合ってのことだとは思わない。オレをおちょくろうとも、考えていないだろう。

「おっけー。黄塚コウヅカさん、一緒に回りましょ」

 なんの疑問も持たず、莉子リコは萌々果さんの同行を承諾した。さすが、オタク系の陽キャである。

「ありがとうございます榎本エノモトさん」

 萌々果さんも、同性の友人ができて楽しそうだ。
 
「よ、よろしく」

 ケンはまだ緊張しているのか、ちょっと萎縮気味だ。まあ、生まれ育った商店街の再生計画は、萌々果さんの父親にかかっているんだからな。畏れ多いのかも。

「こちらこそ、よろしくおねがいします。斎藤サイトウくん」

「そこで、あと一人なわけだが」

 オレは、教室の隅にいる、ちょっとヤンキーめの女子に視線を移した。

 実はこのクラス、萌々果さんの他に孤高の存在が、もうひとりいる。
 倉田クラタ 浅葱アサギさんという、女子だ。倉田は教室でも、誰とも打ち解けようとしない。コミュニケーション下手な萌々果さんと違い、倉田は自分から人との接触を避けている。そんな感じがした。オレたちと倉田の間には、なんか見えない壁がある。

 ヤンキーと言っても、ギャルのようにはなしかけやすいわけじゃない。見た目が昭和ヤンキーなのだ。「スケバン」っぽいと、いえばいいか。

 見た目がちょっと怖いので、誰も

八代ヤシロくん。わたし、倉田さんともお話してきます」

 萌々果さんは、倉田との接触を試みようとしている。

「おう。そうか。一緒に勧誘してみるか?」

「お願いできますか?」

「わかった。ついていく」

 オレも、倉田を誘うのに同行した。

「あの、倉田さん」

「ん?」

 窓を見つめていた倉田が、顔だけをこちらに向ける。目を細めているが、刺々しさはない。夕焼けが眩しくて、目が痛いのだろう。すぐに、表情が柔らかくなる。

「洋館めぐりなんですが、一緒に回りませんか?」

「いいよ」

 そっけない。だが、同行自体に嫌な印象はない様子だ。

「ありがとうございます。では、ご一緒しましょう」

「うん」

 莉子が、「前日に、みんなでお菓子買いに行く?」と話し合う。

 倉田も渋っている様子はなく、一緒に買いに行くと言った。

「ウチの近所が駄菓子屋だから、回ろうぜ」

「やった。あそこの百円クレープ好き」

 莉子がバンザイする。

「ノブ……八代くん。クレープって百円で食べられるんですか?」

 驚きのあまり、萌々果さんは素が出てしまいそうになったようだ。

「行ってみれば、わかるよ。オレもマジかよって思ったから」



 数日後、オレたち五人はクレープが食える駄菓子屋へ。

 お菓子の品揃えが、もはや懐かしいを通り越して新しい。見たことがないものばかりだ。

 オレたちは、一口サイズのガムやラムネなど、予算範囲内で買う。

「ノブローさんノブローさん」

 小声でさりげなく、萌々果さんがオレの袖を引っ張る。
 
「ノブローさん、迷ってしまいます」

 何を買おうか、萌々果さんはひたすら凝視していた。

「一通り買ってみて、予算の範囲だけで持っていけばいい」

「チョコレートなどはカバンの中で溶けるから避けろ」とだけ、アドバイスをする。 
 
 倉田はカットするめやカルパス、砕いた袋麺などを買い込んでいる。晩酌かな?
 
 で、百円クレープを買う。

「まあ。生クリーム、カスタード、チョコだけではありません。ツナやタマゴなどのおかず系もありますよ」

 メニューを見て、萌々果さんが興奮した。

 莉子が率先してオーダーし、バナナクレープを焼いてもらう。
 萌々果さんに、選ぶ時間をあげているのだ。

 焼けるのを待っている間、萌々果さんがクレープを選ぶ。

 莉子のクレープが焼けた。春巻きのように、折って包むタイプである。

「本格的ですね。百円とは思えません」
 
 
「オーソドックスな生クリームと、おかず系のツナを両方いただきますっ」

「二つ、食べられるか?」

「このサイズなら、なんとか」

 オレと賢はカスタードを。
 倉田はあんこにした。

「おかずクレープ、初挑戦です」

 萌々果さんはまず、ツナのクレープを口にする。ああ、これは絶対にうまい顔だ。

「おいしいです。これで百円とか、採算が取れるんでしょうか」

 うっとりしながら、萌々果さんはクレープを頬張る。

「おっ、黄塚さん、ちょっと」

 オレは、ポケットティッシュを用意した。

「動くなよ」

 萌々果さんの口についた生クリームをとってやる。

「ありがとうございます、八代くんも、動かないで」

 今度は萌々果さんが、ハンカチを出した。オレの口についていたカスタードを拭く。

「ありがとう、黄塚さん」

「どういたしいましてぇ」
 
 今でこそ、お互い名字で呼び合っている。が、二人だけだとまた下の名前で呼び合うんだろうな。
 
「ちょっといいか?」

 倉田さんが、口を開く。

「二人は、交際しているのか」

 おお。やっぱ、そう思われてしまったか!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?

キミノ
恋愛
 職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、 帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。  二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。  彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。  無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。 このまま、私は彼と生きていくんだ。 そう思っていた。 彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。 「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」  報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?  代わりでもいい。  それでも一緒にいられるなら。  そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。  Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。 ――――――――――――――― ページを捲ってみてください。 貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。 【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~ その後

菱沼あゆ
恋愛
その後のみんなの日記です。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?

石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。 ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。 ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。 「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。 扉絵は汐の音さまに描いていただきました。

処理中です...