上 下
1 / 1

百合を見つめる男

しおりを挟む
 オレは、今日もケーキ屋に来ている。
 目当てはスイーツ……ではない!


「いらっしゃいませえ」

 この店頭に立つお姉さん……でもなし!

 たしかに、このお姉さんはカワイイとは思う。
  小動物系で、こんなちっこいこが一生懸命ケーキをデコレーションしているのかと想像するだけでエモさ爆発である。 
 
 だがオレは、彼女を「交際したい」という視線で見てはいない。
 性的な目なんてもってのほか!
 
「ああ、どうも。いつもの。それとカフェオレを」

「かしこまりましたぁ。カフェオレは、お席にお持ちしますねぇ」

「ど、どうも」
 
 店員さんの方も、オレなんて視界にすら入っていないだろう。

 チョコレートケーキを手に、オレはイートインへ。

 今日も来るかな?
 いつもなら、この時間だろう。

……来た!

 たっぱのある、通勤帰りのOLさんが、マフラーを直しながら店に入ってきた。

「ゴメン。残業してた」
「もー。ミルクレープ売り切れるところだったよぉ」

 レジで、足をパタパタさせる店員さん。
 OLさんは、カウンターで何度も頭を下げる。

「あと五分で上がるから待っててね。いつものやつでいいよね?」
「うん。それと、抹茶ラテちょうだい」
「はーい」
 
 そう。オレは、この二人の百合百合を見に来ているのだ。

 ああ、チョコケーキがはかどる!

 たしかに、ここのケーキは普通にウマい。
 甘すぎず、かといって過度な冒険もしていない、口当たりの良さである。
  フォークをなめているだけでも、幸せだ!
 
  バースデーケーキに二人が乗っていたら、オレは冷凍保存したまま手を付けないだろう!

 一生一緒にいろ! くっつけ! とわに!

 ああ、カフェオレで酔っ払いそうだ。
 オレは酒が飲めない。だが、酔うってこんな状態なんだろうなと思う。

 二人の百合百合に、オレはいつまでも酔いしれていたい。

 いかんいかん。チョコケーキとカフェオレだけで粘ってしまっても邪魔だな。
 もうすぐ閉店だし。

 いやあ、思えばあの二人を追いかけて、もう二年になる。
 ミルクレープのように、二人は時間を積み重ねてきたのだろう。
 オレは見ていたぞ。チョコケーキを食いながら。

「あの!」

 店員さんが、いつの間にかオレの側にいた。
 
 しまった、さすがにうっとうしかったか。

 まあいい。引き際も肝心だ。

「すまなかったね。いつも、素敵な味をありがとう。ボクは去るとするよ。もう店には現れないだろう」

「それは困ります」

「はい?」

「だって、わたし今日でお店を辞めるんですから」

「なんですと!?」

 なら、オレがいてもいなくても、この味は出ないのか。
 それは、寂しくなるな。

「でね、今度この子とお店を開くことになったんです。駅前に」

 オレが常連なので、ぜひ食べに来てほしいと報告に来たのだった。

 なんだ、そういうことか。

「でも、迷惑だろ? オレなんかが来ても」

「全然! ぜひいらしてください! またイートインの席を開けてお待ちしていますよ」

「あ、ああ。ありがとう」

「いえいえ。だって……」

 店員さんが、オレにだけ聞こえるように耳打ちしてきた。

「わたしたちのことも、まだ見ていたいでしょ?」
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

お漏らし・おしがま短編小説集 ~私立朝原女学園の日常~

赤髪命
大衆娯楽
小学校から高校までの一貫校、私立朝原女学園。この学校に集う女の子たちの中にはいろいろな個性を持った女の子がいます。そして、そんな中にはトイレの悩みを持った子たちも多いのです。そんな女の子たちの学校生活を覗いてみましょう。

好きになっちゃったね。

青宮あんず
大衆娯楽
ドラッグストアで働く女の子と、よくおむつを買いに来るオシャレなお姉さんの百合小説。 一ノ瀬水葉 おねしょ癖がある。 おむつを買うのが恥ずかしかったが、京華の対応が優しくて買いやすかったので京華がレジにいる時にしか買わなくなった。 ピアスがたくさんついていたり、目付きが悪く近寄りがたそうだが実際は優しく小心者。かなりネガティブ。 羽月京華 おむつが好き。特に履いてる可愛い人を見るのが。 おむつを買う人が眺めたくてドラッグストアで働き始めた。 見た目は優しげで純粋そうだが中身は変態。 私が百合を書くのはこれで最初で最後になります。 自分のpixivから少しですが加筆して再掲。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

雌犬、女子高生になる

フルーツパフェ
大衆娯楽
最近は犬が人間になるアニメが流行りの様子。 流行に乗って元は犬だった女子高生美少女達の日常を描く

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

処理中です...