10 / 11
ASMR好き委員長、苦悩する
しおりを挟む
二月の日曜日、サライの家は朝から甘い香りに包まれる。
サライは、製菓用のチョコを刻んでいた。
市販の板チョコは、そのままおいしく食べられるように加工してある。
手作りに使うのは「製菓用」がいいという。
「はあ……」
サライは、ため息をつく。
いつものサライなら、チョコを刻むザックリ音は大好物だ。今回は、癒やされない。チョコをステンレスのボウルに入れてムダにゴロゴロと転がしても、同じだった。
リビングでは、母が掃除をしている。
父は新聞を読みつつ、サライの様子をチラ見していた。
お弁当以外では、お菓子もよく作る。クリスマスは家族にケーキを振る舞い、生徒会にはクッキーなどもよく作ってきた。
ただ、今日のサライは覚悟を決めている。自分の感情と、向き合おうとしていた。いつも副会長気感じていたこの気持ちは何なのか。その答えを出そうというのだ。
心臓が痛い。別に、病気でもないのに。
普段、お菓子作りの時はワクワクしていた。
手作り用チョコを包丁でザクッザクッと切る音は、ASMRでも大人気の音声である。
なのに、今日は必要以上に失敗を恐れていた。
ボウルに刻んだチョコを入れて、湯煎を行う。
「ねえ母さん、やっぱりサライの様子が変だよ? あのチョコは誰のだい?」
ソファで新聞を読みながら、父がサライの顔色を伺っている。
「心配しなくても、サライちゃんは私たちのタメにもチョコを作ってくれますよ」
家族分のコーヒーを淹れながら、母はリラックスしていた。
「気を回さなくていいんだよ。サライのくれたものなら、店売りだって喜ぶさ。でも、あの思い詰めた顔を見ていると」
「お父さんはサライの一挙手一投足に過剰反応しすぎです。そんな調子だから無視されるんですよ?」
「誰に渡すのか、聞きに行ってもいいかい?」
父が新聞を畳む。
「およしなさいよ、みっともない。どれだけ心配性なんですか」
母は、父の袖を掴んだ。
チョコをかき混ぜながら、サライはため息をつく。
「だって母さん! キミは娘が心配じゃないのかい? ああ、またサライがため息をついた!」
「あなたに呆れているんですって……」
サライは、お湯と氷水を用意した。
ステンレスボウルの底ををお湯に一瞬当てて、放す。
チョコを混ぜながら溶かしていく。
五〇度になったら、ボウルの底を今度は氷水に一瞬付けた。
二八度になるまで、混ぜ続ける。
この作業で注意するのは、水をチョコに入れないこと。
砂糖が水と反応してチョコが白くなり、味も悪くなるからだ。
冷蔵庫に入れていた板チョコの底が、白くなる現象と同じである。
「見てみて母さん、サライがテンパリングを始めたよテンパリング!」
「あなたがテンパってどうするんですか……」
よし、色艶よし。冷やして固めてできあがり。
「うん、おいしいよサライ!」
「お茶請けにぴったりの甘さね。口当たりもいいわ」
両親には申し訳ないが、味見役になってもらった。
ラッピングして、生徒会に配る用とタケルに渡す用と分ける。
後は渡すだけ。渡すだけだが……。
サライは、製菓用のチョコを刻んでいた。
市販の板チョコは、そのままおいしく食べられるように加工してある。
手作りに使うのは「製菓用」がいいという。
「はあ……」
サライは、ため息をつく。
いつものサライなら、チョコを刻むザックリ音は大好物だ。今回は、癒やされない。チョコをステンレスのボウルに入れてムダにゴロゴロと転がしても、同じだった。
リビングでは、母が掃除をしている。
父は新聞を読みつつ、サライの様子をチラ見していた。
お弁当以外では、お菓子もよく作る。クリスマスは家族にケーキを振る舞い、生徒会にはクッキーなどもよく作ってきた。
ただ、今日のサライは覚悟を決めている。自分の感情と、向き合おうとしていた。いつも副会長気感じていたこの気持ちは何なのか。その答えを出そうというのだ。
心臓が痛い。別に、病気でもないのに。
普段、お菓子作りの時はワクワクしていた。
手作り用チョコを包丁でザクッザクッと切る音は、ASMRでも大人気の音声である。
なのに、今日は必要以上に失敗を恐れていた。
ボウルに刻んだチョコを入れて、湯煎を行う。
「ねえ母さん、やっぱりサライの様子が変だよ? あのチョコは誰のだい?」
ソファで新聞を読みながら、父がサライの顔色を伺っている。
「心配しなくても、サライちゃんは私たちのタメにもチョコを作ってくれますよ」
家族分のコーヒーを淹れながら、母はリラックスしていた。
「気を回さなくていいんだよ。サライのくれたものなら、店売りだって喜ぶさ。でも、あの思い詰めた顔を見ていると」
「お父さんはサライの一挙手一投足に過剰反応しすぎです。そんな調子だから無視されるんですよ?」
「誰に渡すのか、聞きに行ってもいいかい?」
父が新聞を畳む。
「およしなさいよ、みっともない。どれだけ心配性なんですか」
母は、父の袖を掴んだ。
チョコをかき混ぜながら、サライはため息をつく。
「だって母さん! キミは娘が心配じゃないのかい? ああ、またサライがため息をついた!」
「あなたに呆れているんですって……」
サライは、お湯と氷水を用意した。
ステンレスボウルの底ををお湯に一瞬当てて、放す。
チョコを混ぜながら溶かしていく。
五〇度になったら、ボウルの底を今度は氷水に一瞬付けた。
二八度になるまで、混ぜ続ける。
この作業で注意するのは、水をチョコに入れないこと。
砂糖が水と反応してチョコが白くなり、味も悪くなるからだ。
冷蔵庫に入れていた板チョコの底が、白くなる現象と同じである。
「見てみて母さん、サライがテンパリングを始めたよテンパリング!」
「あなたがテンパってどうするんですか……」
よし、色艶よし。冷やして固めてできあがり。
「うん、おいしいよサライ!」
「お茶請けにぴったりの甘さね。口当たりもいいわ」
両親には申し訳ないが、味見役になってもらった。
ラッピングして、生徒会に配る用とタケルに渡す用と分ける。
後は渡すだけ。渡すだけだが……。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
JC💋フェラ
山葵あいす
恋愛
森野 稚菜(もりの わかな)は、中学2年生になる14歳の女の子だ。家では姉夫婦が一緒に暮らしており、稚菜に甘い義兄の真雄(まさお)は、いつも彼女におねだりされるままお小遣いを渡していたのだが……
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる