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試験最終日 「食欲に勝てないとか、魔王として恥ずかしくないの?」「よわよわ胃袋❤」
魔王VSドラゴン肉
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「なにをふざけたことを! 神の酒を無残に用いた肉の塊ごときで、我の心を動かすなど!」
シチサブローは、魔王の発言にニヤリとした。
やはりだ。こいつはやはり、ナニもわかっていなかった。
「誰が、てめえなんて相手にしていると言った?」
「なんだと……ぐおっ!?」
魔王がうめき出す。
正確には、魔王を構成している召喚獣たちが、魔王の呪縛から逃れようとしていた。今すぐにでも肉に飛びつこうと、必死でもがく。
「貴様の狙いは、まさか!?」
シチサブローの目的は、魔王のご想像のとおりだ。
「さてさて、魔王サマよぉ……うまく飼い犬共を『待て』しろよ?」
魔王アバドンが、大きく海老反りになる。魔王の腹からゴーレムが手を伸ばしてきたのだ。
「ぐぬう!」
自分の腹を殴って、魔王はゴーレムをおとなしくさせた。
今度は殴った方の腕から、複数のモンスターが溢れ出す。魔王の身体から抜け出そうと。
「おのれ、『待て』!」
身体に向かって指示を出した。しかし、興奮した魔物たちは暴走をやめない。
とうとう、魔物の一体が魔王の身体を突き破る。自由になった召喚獣たちが、ドラゴンの肉へと殺到した。
『おっとぉ、暴食の魔王アバドンから、召喚獣たちが勝手に抜け出しているぞ! これが、シチサブロー審査員の作戦か!』
かつて世界を破滅させたことがあり、すべてのモンスターの頂点に立つ存在、それが魔王だ。その魔王が、魔物をコントロールできないでいる。自身の分身とも言える配下を、魔王はまったく制御下に置けていない。
「こしゃくな……うごお!?」
魔王がひるんだ拍子に、またも一部の魔物たちがこれ幸いと逃げ出してしまった。
「しまった!」
こうなったら、もう止まらない。召喚獣たちが、ドラゴン肉に殺到した。決壊したダムから水が溢れ出るかのように。
焼き上がったドラゴン肉を、シチサブローはブロック状に切り分けた。解放された召喚獣たちに振る舞う。
肉にありついた召喚獣らがは、次々と正気を取り戻していった。
「待て待て。おかわりもあるぞ!」
空になったシールドの上に、シチサブローはもう一枚肉を焼き始める。
「ぬうう、力が!」
魔王アバドンが、縮んでいく。
「どうだ魔王アバドン、エサに裏切られた気分はよぉ? ギャハハハハ」
シチサブローが、さらに魔王を罵る。
魔王アバドンの能力は、「食べた対象の力を、自分のものにする」ことだ。そのためすぐには吸収せず、体内で生かし続ける。魔力が果てるまで、魔物たちは使い潰されるのだ。
では、「食った魔物たちが反逆」すればどうなるか。
モンスターたちは魔王の支配より、食欲を満たすことを選んだのだ。目の前に焼かれたドラゴン肉にありつきたい。絶対的飢餓感に襲われ、召喚獣の群れは我を忘れている。
「おのれぇ、我が命令に答えよ! 『待て』!」
魔王が、肉体を構成しているモンスターに強制命令を出す。それでも一度火がついた空腹感を抑え込むことなど、容易ではない。
「ギャハハハ! 焦ってやがる。大魔王様があたふたしてやがるぜ!」
シチサブローが笑う中、魔王アバドンは手をかざした。
「おのれ貴様あーぁ!」
魔王の手から、暗黒の炎が放たれる。ドラゴンステーキ肉に向かって、漆黒の火球が迫ってきた。
「その肉さえなくなればぁ!」
「やべえ!」
シチサブローは今、手が離せない。
「ぶほー」
テルルが火球のブレスを吐いて、黒い炎を弾き飛ばす。
「シチサブロー、料理に集中して」
「助かる。ちょうど腕がしびれてきたところだ」
魔力を限界まで注ぎ込んだ料理も、もう三皿目になっていた。
絶対的強者と思い込んでいた敵を翻弄するのは、愉快でたまらない。そのために、この仕事を選んだようなものだ。しかし、こうまでハードだとは。
シチサブローは、料理人と魔術師を兼ねている。食材を調理しつつ、魅了魔法を使っているのだ。当然、消耗も激しい。
「どんだけ溜め込んだんだ、このヤロウは。節操ねえな……あん?」
シチサブローが苦笑いしていると、隣にケットシーがやってきた。
「なにをやってる? 早く逃げやがれ!」
ケットシーは、シチサブローの声にも耳を貸さない。
なにかの匂いを嗅いでいる。
「どしたい?」
「なんだか、両親の匂いがするって」
相棒の少年探偵が、いきさつを話す。ケットシーは幼い頃、両親と離れ離れになっていたらしい。
「実はこの子、親が行方不明なんです。ニールセン様の助手になったのも、親を探すためで」
だから、必死になっていたのか。結果的に、よきパートナーと出会えてよかった。
「パパ、ママ!」
どうやらケットシーは、魔王の体内で両親を見つけたらしい。
シチサブローは、よく目を凝らす。
たしかに、二匹の巨大ネコが魔王の大本を形作っていた。
「ふむ。あれは【仙狸】という化け猫じゃのう。ケットシーの最上位種じゃ」
協会長が、魔王の体内を分析する。
センリといえば、妖狐に匹敵する魔力を誇る魔物だ。センリほどの魔物なら、魔王の原動力にされるのもうなずける。
「テルル、お前さんの力でなんとかならねえのか?」
「無理。わたしの爪だと傷つけてしまう」
テルルの腕ではパワーがありすぎて、内部の仙狸にまでダメージを与えてしまうという。
シチサブローは、魔王の発言にニヤリとした。
やはりだ。こいつはやはり、ナニもわかっていなかった。
「誰が、てめえなんて相手にしていると言った?」
「なんだと……ぐおっ!?」
魔王がうめき出す。
正確には、魔王を構成している召喚獣たちが、魔王の呪縛から逃れようとしていた。今すぐにでも肉に飛びつこうと、必死でもがく。
「貴様の狙いは、まさか!?」
シチサブローの目的は、魔王のご想像のとおりだ。
「さてさて、魔王サマよぉ……うまく飼い犬共を『待て』しろよ?」
魔王アバドンが、大きく海老反りになる。魔王の腹からゴーレムが手を伸ばしてきたのだ。
「ぐぬう!」
自分の腹を殴って、魔王はゴーレムをおとなしくさせた。
今度は殴った方の腕から、複数のモンスターが溢れ出す。魔王の身体から抜け出そうと。
「おのれ、『待て』!」
身体に向かって指示を出した。しかし、興奮した魔物たちは暴走をやめない。
とうとう、魔物の一体が魔王の身体を突き破る。自由になった召喚獣たちが、ドラゴンの肉へと殺到した。
『おっとぉ、暴食の魔王アバドンから、召喚獣たちが勝手に抜け出しているぞ! これが、シチサブロー審査員の作戦か!』
かつて世界を破滅させたことがあり、すべてのモンスターの頂点に立つ存在、それが魔王だ。その魔王が、魔物をコントロールできないでいる。自身の分身とも言える配下を、魔王はまったく制御下に置けていない。
「こしゃくな……うごお!?」
魔王がひるんだ拍子に、またも一部の魔物たちがこれ幸いと逃げ出してしまった。
「しまった!」
こうなったら、もう止まらない。召喚獣たちが、ドラゴン肉に殺到した。決壊したダムから水が溢れ出るかのように。
焼き上がったドラゴン肉を、シチサブローはブロック状に切り分けた。解放された召喚獣たちに振る舞う。
肉にありついた召喚獣らがは、次々と正気を取り戻していった。
「待て待て。おかわりもあるぞ!」
空になったシールドの上に、シチサブローはもう一枚肉を焼き始める。
「ぬうう、力が!」
魔王アバドンが、縮んでいく。
「どうだ魔王アバドン、エサに裏切られた気分はよぉ? ギャハハハハ」
シチサブローが、さらに魔王を罵る。
魔王アバドンの能力は、「食べた対象の力を、自分のものにする」ことだ。そのためすぐには吸収せず、体内で生かし続ける。魔力が果てるまで、魔物たちは使い潰されるのだ。
では、「食った魔物たちが反逆」すればどうなるか。
モンスターたちは魔王の支配より、食欲を満たすことを選んだのだ。目の前に焼かれたドラゴン肉にありつきたい。絶対的飢餓感に襲われ、召喚獣の群れは我を忘れている。
「おのれぇ、我が命令に答えよ! 『待て』!」
魔王が、肉体を構成しているモンスターに強制命令を出す。それでも一度火がついた空腹感を抑え込むことなど、容易ではない。
「ギャハハハ! 焦ってやがる。大魔王様があたふたしてやがるぜ!」
シチサブローが笑う中、魔王アバドンは手をかざした。
「おのれ貴様あーぁ!」
魔王の手から、暗黒の炎が放たれる。ドラゴンステーキ肉に向かって、漆黒の火球が迫ってきた。
「その肉さえなくなればぁ!」
「やべえ!」
シチサブローは今、手が離せない。
「ぶほー」
テルルが火球のブレスを吐いて、黒い炎を弾き飛ばす。
「シチサブロー、料理に集中して」
「助かる。ちょうど腕がしびれてきたところだ」
魔力を限界まで注ぎ込んだ料理も、もう三皿目になっていた。
絶対的強者と思い込んでいた敵を翻弄するのは、愉快でたまらない。そのために、この仕事を選んだようなものだ。しかし、こうまでハードだとは。
シチサブローは、料理人と魔術師を兼ねている。食材を調理しつつ、魅了魔法を使っているのだ。当然、消耗も激しい。
「どんだけ溜め込んだんだ、このヤロウは。節操ねえな……あん?」
シチサブローが苦笑いしていると、隣にケットシーがやってきた。
「なにをやってる? 早く逃げやがれ!」
ケットシーは、シチサブローの声にも耳を貸さない。
なにかの匂いを嗅いでいる。
「どしたい?」
「なんだか、両親の匂いがするって」
相棒の少年探偵が、いきさつを話す。ケットシーは幼い頃、両親と離れ離れになっていたらしい。
「実はこの子、親が行方不明なんです。ニールセン様の助手になったのも、親を探すためで」
だから、必死になっていたのか。結果的に、よきパートナーと出会えてよかった。
「パパ、ママ!」
どうやらケットシーは、魔王の体内で両親を見つけたらしい。
シチサブローは、よく目を凝らす。
たしかに、二匹の巨大ネコが魔王の大本を形作っていた。
「ふむ。あれは【仙狸】という化け猫じゃのう。ケットシーの最上位種じゃ」
協会長が、魔王の体内を分析する。
センリといえば、妖狐に匹敵する魔力を誇る魔物だ。センリほどの魔物なら、魔王の原動力にされるのもうなずける。
「テルル、お前さんの力でなんとかならねえのか?」
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