上 下
29 / 31
試験最終日 「食欲に勝てないとか、魔王として恥ずかしくないの?」「よわよわ胃袋❤」

魔王VSドラゴン肉

しおりを挟む
「なにをふざけたことを! 神の酒を無残に用いた肉の塊ごときで、我の心を動かすなど!」

 シチサブローは、魔王の発言にニヤリとした。
 やはりだ。こいつはやはり、ナニもわかっていなかった。

「誰が、てめえなんて相手にしていると言った?」
「なんだと……ぐおっ!?」

 魔王がうめき出す。

 正確には、魔王を構成している召喚獣たちが、魔王の呪縛から逃れようとしていた。今すぐにでも肉に飛びつこうと、必死でもがく。

「貴様の狙いは、まさか!?」

 シチサブローの目的は、魔王のご想像のとおりだ。

「さてさて、魔王サマよぉ……うまく飼い犬共を『待て』しろよ?」

 魔王アバドンが、大きく海老反りになる。魔王の腹からゴーレムが手を伸ばしてきたのだ。

「ぐぬう!」

 自分の腹を殴って、魔王はゴーレムをおとなしくさせた。

 今度は殴った方の腕から、複数のモンスターが溢れ出す。魔王の身体から抜け出そうと。

「おのれ、『待て』!」

 身体に向かって指示を出した。しかし、興奮した魔物たちは暴走をやめない。 

 とうとう、魔物の一体が魔王の身体を突き破る。自由になった召喚獣たちが、ドラゴンの肉へと殺到した。

『おっとぉ、暴食の魔王アバドンから、召喚獣たちが勝手に抜け出しているぞ! これが、シチサブロー審査員の作戦か!』

 かつて世界を破滅させたことがあり、すべてのモンスターの頂点に立つ存在、それが魔王だ。その魔王が、魔物をコントロールできないでいる。自身の分身とも言える配下を、魔王はまったく制御下に置けていない。

「こしゃくな……うごお!?」

 魔王がひるんだ拍子に、またも一部の魔物たちがこれ幸いと逃げ出してしまった。

「しまった!」

 こうなったら、もう止まらない。召喚獣たちが、ドラゴン肉に殺到した。決壊したダムから水が溢れ出るかのように。

 焼き上がったドラゴン肉を、シチサブローはブロック状に切り分けた。解放された召喚獣たちに振る舞う。

 肉にありついた召喚獣らがは、次々と正気を取り戻していった。

「待て待て。おかわりもあるぞ!」

 空になったシールドの上に、シチサブローはもう一枚肉を焼き始める。

「ぬうう、力が!」

 魔王アバドンが、縮んでいく。

「どうだ魔王アバドン、エサに裏切られた気分はよぉ? ギャハハハハ」

 シチサブローが、さらに魔王を罵る。

 魔王アバドンの能力は、「食べた対象の力を、自分のものにする」ことだ。そのためすぐには吸収せず、体内で生かし続ける。魔力が果てるまで、魔物たちは使い潰されるのだ。

 では、「食った魔物たちが反逆」すればどうなるか。

 モンスターたちは魔王の支配より、食欲を満たすことを選んだのだ。目の前に焼かれたドラゴン肉にありつきたい。絶対的飢餓感に襲われ、召喚獣の群れは我を忘れている。

「おのれぇ、我が命令に答えよ! 『待て』!」

 魔王が、肉体を構成しているモンスターに強制命令を出す。それでも一度火がついた空腹感を抑え込むことなど、容易ではない。

「ギャハハハ! 焦ってやがる。大魔王様があたふたしてやがるぜ!」

 シチサブローが笑う中、魔王アバドンは手をかざした。

「おのれ貴様あーぁ!」

 魔王の手から、暗黒の炎が放たれる。ドラゴンステーキ肉に向かって、漆黒の火球が迫ってきた。

「その肉さえなくなればぁ!」
「やべえ!」

 シチサブローは今、手が離せない。

「ぶほー」

 テルルが火球のブレスを吐いて、黒い炎を弾き飛ばす。

「シチサブロー、料理に集中して」
「助かる。ちょうど腕がしびれてきたところだ」

 魔力を限界まで注ぎ込んだ料理も、もう三皿目になっていた。

 絶対的強者と思い込んでいた敵を翻弄するのは、愉快でたまらない。そのために、この仕事を選んだようなものだ。しかし、こうまでハードだとは。

 シチサブローは、料理人と魔術師を兼ねている。食材を調理しつつ、魅了魔法を使っているのだ。当然、消耗も激しい。

「どんだけ溜め込んだんだ、このヤロウは。節操ねえな……あん?」

 シチサブローが苦笑いしていると、隣にケットシーがやってきた。

「なにをやってる? 早く逃げやがれ!」

 ケットシーは、シチサブローの声にも耳を貸さない。
 なにかの匂いを嗅いでいる。

「どしたい?」
「なんだか、両親の匂いがするって」

 相棒の少年探偵が、いきさつを話す。ケットシーは幼い頃、両親と離れ離れになっていたらしい。

「実はこの子、親が行方不明なんです。ニールセン様の助手になったのも、親を探すためで」

 だから、必死になっていたのか。結果的に、よきパートナーと出会えてよかった。

「パパ、ママ!」

 どうやらケットシーは、魔王の体内で両親を見つけたらしい。

 シチサブローは、よく目を凝らす。

 たしかに、二匹の巨大ネコが魔王の大本を形作っていた。


「ふむ。あれは【仙狸センリ】という化け猫じゃのう。ケットシーの最上位種じゃ」

 協会長が、魔王の体内を分析する。

 センリといえば、妖狐に匹敵する魔力を誇る魔物だ。センリほどの魔物なら、魔王の原動力にされるのもうなずける。

「テルル、お前さんの力でなんとかならねえのか?」
「無理。わたしの爪だと傷つけてしまう」

 テルルの腕ではパワーがありすぎて、内部の仙狸にまでダメージを与えてしまうという。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

対人恐怖症は異世界でも下を向きがち

こう7
ファンタジー
円堂 康太(えんどう こうた)は、小学生時代のトラウマから対人恐怖症に陥っていた。学校にほとんど行かず、最大移動距離は200m先のコンビニ。 そんな彼は、とある事故をきっかけに神様と出会う。 そして、過保護な神様は異世界フィルロードで生きてもらうために多くの力を与える。 人と極力関わりたくない彼を、老若男女のフラグさん達がじわじわと近づいてくる。 容赦なく迫ってくるフラグさん。 康太は回避するのか、それとも受け入れて前へと進むのか。 なるべく間隔を空けず更新しようと思います! よかったら、読んでください

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ
ファンタジー
少年はひたすら逃げた。突如変わり果てた街で、死を振り撒く異形から。そして逃げた先に待っていたのは絶望では無く、一振りの希望――魔剣――だった。 逃げた先で出会った大男からその希望を託された時、特別ではなかった少年の運命は世界の命運を懸ける程に大きくなっていく。 なれば〝ヒト〟よ知れ、少年の掴む世界の運命を。 銘無き少年は今より、現想神話を紡ぐ英雄とならん。 時き継幻想(ときつげんそう)フララジカ―――世界は緩やかに混ざり合う。 【概要】 主人公・藤咲勇が少女・田中茶奈と出会い、更に多くの人々とも心を交わして成長し、世界を救うまでに至る現代ファンタジー群像劇です。 現代を舞台にしながらも出てくる新しい現象や文化を彼等の目を通してご覧ください。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

処理中です...