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試験二日目 「卑怯な手を使って負けるってどんな気持ち?」「へなちょこ胃袋❤」

悪魔の誘惑

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 シチサブローの言葉に、会場が何事かとザワつく。

『おっと、シチサブロー審査員、なにやら言いたげだが?』

 アナウンサーは、まだ違和感に気がつかないらしい。

「なんだ? 負け惜しみか?」
「……へっ。よくできた手品だこって」

 シチサブローは、召喚獣の方へ語りかけた。召喚士ではなく。

「何を言っているんだ? こいつは低級魔族だ。人の言うことを聞かせるために、わざと力を弱めているんだぞ。言葉なんて話せるわけが……」

 召喚士の言葉を、シチサブローは無視する。

「テルル、やれ」
「……カッ!」

 唐突に、テルルが大声を張る。

 観客やアナウンサーが、我に返った。

「アナウンサー、時計を見てみな」

 シチサブローに促され、アナウンサーが時計を確認する。

『おっと、三〇秒しか経っていません! どうやらナイトゴーント選手、会場の時間感覚をズラしていたようです。恐るべし悪魔族。恐るべしナイトゴーント!』

 会場から、ブーイングが飛ぶ。のっけから反則をかましたのだ。サモナーの印象も悪い。

『放送席、放送席、聞こえますでしょうか?』

 女性の声が、コロシアムに流れてきた。

『これはリポーターさん。何か協会に動きがありましたか?』
『協会から「待った」がかかりました。「これは反則負けではないか?」とのことです』

 まさか、「待て」の大会で「待った」がかかるとは。情けない。

「いいぜ。やれよ! 食えばお前の負けなんだからよ」

 唯一、シチサブローだけが余裕の表情を見せている。
 協会長の方も、首を振った。「続行」の形となる。

『改めて試合再開となりました。今度はフェアプレーが行われるのか?』

 場の空気が更に悪くなる中、仕切り直しに。

「わかってる。テメエ、もう限界なんだろ?」

 ナイトゴーントをトングで差し、シチサブローは吐き捨てた。

「この大舞台で極限状態に追い込まれた上に、精神操作魔法まで使っている。もうお前の魔力はカラッケツのはずだ。飯が食いてえよなぁ……なあ? 召喚士さんよぉ!」

 トングで示した場所に、いるべき人物がいない。その人物は、試合そっちのけで肉をむさぼっていた。

『あーとお!? まさか! まさかの大逆転! 召喚士の方が、お肉の誘惑に負けてしまったーっ! 召喚士規定により、ナイトゴーント選手も失格となります!』

 試合は、あっけない幕切れを迎える。

『えー、放送席放送席』

 貴族観覧席にいたリポーターの女性が、アナウンサーに声をかける。

『はいどうぞリポーターさん?』
『たった今、召喚士の両親から物言いが付きました。召喚獣のしつけをテストする場で、召喚士を攻撃するのはアリなのかと意見が出ています』

 フッと、シチサブローが鼻で笑う。

「おいおい、いい加減姑息な手段はやめませんかねぇ、ナイトゴーントくんよぉ?」

 シチサブローは、肉に夢中な召喚士を「ナイトゴーント」と呼んだ。
 会場も、何が起きているのかわかっていないらしい。
 だが、一部の召喚士には理解できたようだ。もちろん、協会長にも。

「イヒヒ! バレちまったか」

 召喚士の姿が歪む。一瞬で、ナイトゴーントの姿へと変形した。一方ナイトゴートの方が召喚士の姿に。彼にも、何が起きたか見当が付いていない模様。

『これはいったい、どういうことなのでしょう、シチサブロー審査員、ご説明願えますか?』

「カンタンだよ。おおかた、ガマンできなかっただけだ。自分の品位を落としたくないから、サモナーに化けて自分の罪を飼い主くんになすりつけたんだよ!」

 シチサブローの推理を聞いて、召喚士の少年がナイトゴーントを軽蔑の眼差しで見つめた。

「お前、そんなヤツだったんだな?」
「何をいまさら。悪魔ってのはこういうもんだってのー」

 帰還命令を出していないにもかかわらず、ナイトゴーントは透明になって魔界へ消え去る。

「なんてヤツだ!? 高い金を出して喚びだしたというのに!」

 少年の親が、悪態をつく。

「それが違反じゃとわかっておいて、我が子を危険にさらしたのか!」

 少年の両親に向かって、協会長の檄が飛んだ。

「危うく我が子の魂が悪魔に食われてしまうところじゃった! やられたことに対して、悠長に文句を言っておる場合か!」
「うるさい! あの悪魔め、次に会ったときは」
「もうよいっ! お主たちの資格は剥奪じゃ!」

 協会長が、印を結ぶ。

 召喚士一家の上空に、召喚獣との契約を示す書面が浮かんだ。
 空に向かって、協会長が指を振り上げる。
 文字が、一瞬で砕け散った。

「あ……」

 召喚士の少年が、膝を突く。

「これでもう、お主たちは召喚獣を喚べぬ。頭を冷やせ!」

 無情な宣言を告げて、協会長は席に戻った。

『おっと! 資格剥奪! これは前代未聞です。いくら召喚士協会に無礼を働いたとはいえ、召喚の許可すら奪うことは初です! 極めてまれなケースといえるでしょう! 協会長、やはり、他勢力が力をつけることを警戒してでしょうか?』
「いいや。違反者ら個人が脅威と思ったからじゃ。黒魔術協会に非は断じてない。これだけはしかと伝えておく」

 怒りを隠さず、協会長は告げる。
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