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試験二日目 「卑怯な手を使って負けるってどんな気持ち?」「へなちょこ胃袋❤」
テルルの両親
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本日最後の挑戦者は、召喚士ではない。黒のローブに身を包み、禍々しいデザインの杖を装備していた。
『今回の挑戦者は召喚士協会側の人物ではありません。黒魔術協会からの挑戦ということです。協会長、これも見所ですね?』
「左様」
毅然とした態度で返答してみたが、協会長は眉間に皺を寄せる。
「部外者に称号を明け渡すとなると、こちらの沽券にも関わるのう。しかし、相手が優秀ならば、間口を広げるのもまんざらでもない」
とはいえ、相手に権力を少々譲ってしまうことにも繋がる。あまりうれしいことではなかろう。
『では挑戦者、召喚獣を呼び出してください』
幼い召喚士の少年が、リングインした。手に持っている杖で、魔方陣を描く。杖の形状に似て、文字が禍々しい。
『さあ、どのようなモンスターを呼び出すのでしょう? いよいよ、その形が見えてきたぞ。果たして、いかなる戦いを見せてくれるのでしょう?』
魔方陣が紫色に輝き、魔物らしき物体が頭を出す。黒いコウモリの翼を携え、頭部には二本の角が主張する。山羊に形が似ていて、顔は小さく愛らしい。が、隠しきれない邪悪さが窺えた。
『おっと、魔族です! ほほう、ナイトゴーントですか』
魔王の使い魔として有名な、夜を支配する鬼だ。とはいえ、使い魔としてはポピュラーな部類に入る。
『インプ並みに小さい低級とはいえ、悪魔族を手懐けることは至難の業と言えます。これは手強いぞ!』
たしかに、悪魔族は誘惑に強い。むしろ人間を籠絡させるために生まれたといってよかった。まさに、誘惑の塊だ。相手を魅了することに命をかける。
それに挑むのだから、シチサブローも緊張が高まってくるというもの。
「シチサブロー」
「任せろ。あんなハリボテなんかにお前の肉は負けん」
テルルの心配もわかるが、今は集中だ。しかし、どうも嫌な予感が離れない。
『さあ、料理ができあがったところで、スタンバイしてください! では、試合開始です!』
対決が始まった。
シチサブローはいつもどおり、料理を皿に盛る。
『さて、ゴングが鳴りました。挑戦者の操るナイトゴーントは、今のところちゃんということを聞いていますね。順調な滑り出し』
召喚獣に、動く気配はない。
今のところ、魔族に異常は見られない。おとなしいものだ。
問題があるとすれば、召喚士の方だろう。
飼い主の方が、さっきから肉に魅入られていた。焼けた肉の匂いにつられて、ついつい視線を動かしてしまっている。
「なにをチラチラ見ているんだ?」
「別になんでもない!」
明らかに、召喚士は焦りの色を見せた。
「ん? 召喚士が負けそうかなぁ、ええ?」
シチサブローが、召喚士を挑発する。
「ふ、ふん! そんな肉なんかに、僕が負けるわけないだろ!」
「ヨダレを垂らしているぜ」
「な……」
少し揺さぶっただけで、相手は動揺した。召喚獣は優秀な悪魔族らしく、余裕を見せているが、飼い主がコレでは……。
「バカにするな! 僕のナイトゴーントが、お肉なんかに飛びつくわけがない!」
袖で下品に口を拭きつつ、少年は平静を装う。
『協会長、悪魔族を従えるのは難易度が高いと言われていますが、なぜなんでしょう?』
『ご想像の通りじゃ。召喚士自らが、取り込まれてしまうからじゃ』
狡猾で優れた悪魔は、喚びだした人間に取り付いてしまう。
かつて古の偉大な賢者が、研究のために悪魔を召喚した。
だが、それは地上の支配をもくろむ上位魔族のワナだったらしい。
あわれ賢者は悪魔に取って代わられ、世界を支配する魔王となった。
上位魔族の片棒を担いでしまったのである。
『その魔王を討ち滅ぼしたのが、テルルの両親である勇者とドラゴンじゃ。二人は今でも強大な魔物を倒すため、魔界で頑張っておるという』
人間である勇者は、老いを遅くする魔法を自らに施して、ドラゴンたる妻と共に魔物と戦っているそうな。
会場から、どよめきの声が上がった。
『テルル審査員のご両親は、スゴイ家系なんですね!』
『故に、生半可な召喚士を許さぬ』
失敗の先に待っているのは死、だから。
『悪魔を召喚することは、それだけのリスクを伴うのじゃ。本来ならば、S級召喚士でさえも低級悪魔を呼び出すのは躊躇するというのう』
そう考えると、このガキはまだ見込みがあると言えた。
『二分経過、残り時間一分! このままいけるといいですね!』
『タダで済むはずがなかろう』
アナウンサーは興奮気味だが、協会長は悪い気配を感じているようだ。
シチサブローも、感づいている。
この魔族は、最初から観客及び放送席を侮っていたのだと。
だが、あの悪魔はまだ気づかれていないと信じて疑わない。
『さあ残り三〇秒! このまま行けるぞ! 悪魔族はやはり強かったか? そして、低級魔族の軍門に、料理人シチサブロー審査員は下ってしまうのか?』
納得のいかない表情を、ギャラリーは見せている。異変には気づいているが、言葉で表せない様子だ。
ナイトゴーントを指さし、シチサブローは口元をつり上げた。
「……それで精神攻撃のつもりかよ?」
『今回の挑戦者は召喚士協会側の人物ではありません。黒魔術協会からの挑戦ということです。協会長、これも見所ですね?』
「左様」
毅然とした態度で返答してみたが、協会長は眉間に皺を寄せる。
「部外者に称号を明け渡すとなると、こちらの沽券にも関わるのう。しかし、相手が優秀ならば、間口を広げるのもまんざらでもない」
とはいえ、相手に権力を少々譲ってしまうことにも繋がる。あまりうれしいことではなかろう。
『では挑戦者、召喚獣を呼び出してください』
幼い召喚士の少年が、リングインした。手に持っている杖で、魔方陣を描く。杖の形状に似て、文字が禍々しい。
『さあ、どのようなモンスターを呼び出すのでしょう? いよいよ、その形が見えてきたぞ。果たして、いかなる戦いを見せてくれるのでしょう?』
魔方陣が紫色に輝き、魔物らしき物体が頭を出す。黒いコウモリの翼を携え、頭部には二本の角が主張する。山羊に形が似ていて、顔は小さく愛らしい。が、隠しきれない邪悪さが窺えた。
『おっと、魔族です! ほほう、ナイトゴーントですか』
魔王の使い魔として有名な、夜を支配する鬼だ。とはいえ、使い魔としてはポピュラーな部類に入る。
『インプ並みに小さい低級とはいえ、悪魔族を手懐けることは至難の業と言えます。これは手強いぞ!』
たしかに、悪魔族は誘惑に強い。むしろ人間を籠絡させるために生まれたといってよかった。まさに、誘惑の塊だ。相手を魅了することに命をかける。
それに挑むのだから、シチサブローも緊張が高まってくるというもの。
「シチサブロー」
「任せろ。あんなハリボテなんかにお前の肉は負けん」
テルルの心配もわかるが、今は集中だ。しかし、どうも嫌な予感が離れない。
『さあ、料理ができあがったところで、スタンバイしてください! では、試合開始です!』
対決が始まった。
シチサブローはいつもどおり、料理を皿に盛る。
『さて、ゴングが鳴りました。挑戦者の操るナイトゴーントは、今のところちゃんということを聞いていますね。順調な滑り出し』
召喚獣に、動く気配はない。
今のところ、魔族に異常は見られない。おとなしいものだ。
問題があるとすれば、召喚士の方だろう。
飼い主の方が、さっきから肉に魅入られていた。焼けた肉の匂いにつられて、ついつい視線を動かしてしまっている。
「なにをチラチラ見ているんだ?」
「別になんでもない!」
明らかに、召喚士は焦りの色を見せた。
「ん? 召喚士が負けそうかなぁ、ええ?」
シチサブローが、召喚士を挑発する。
「ふ、ふん! そんな肉なんかに、僕が負けるわけないだろ!」
「ヨダレを垂らしているぜ」
「な……」
少し揺さぶっただけで、相手は動揺した。召喚獣は優秀な悪魔族らしく、余裕を見せているが、飼い主がコレでは……。
「バカにするな! 僕のナイトゴーントが、お肉なんかに飛びつくわけがない!」
袖で下品に口を拭きつつ、少年は平静を装う。
『協会長、悪魔族を従えるのは難易度が高いと言われていますが、なぜなんでしょう?』
『ご想像の通りじゃ。召喚士自らが、取り込まれてしまうからじゃ』
狡猾で優れた悪魔は、喚びだした人間に取り付いてしまう。
かつて古の偉大な賢者が、研究のために悪魔を召喚した。
だが、それは地上の支配をもくろむ上位魔族のワナだったらしい。
あわれ賢者は悪魔に取って代わられ、世界を支配する魔王となった。
上位魔族の片棒を担いでしまったのである。
『その魔王を討ち滅ぼしたのが、テルルの両親である勇者とドラゴンじゃ。二人は今でも強大な魔物を倒すため、魔界で頑張っておるという』
人間である勇者は、老いを遅くする魔法を自らに施して、ドラゴンたる妻と共に魔物と戦っているそうな。
会場から、どよめきの声が上がった。
『テルル審査員のご両親は、スゴイ家系なんですね!』
『故に、生半可な召喚士を許さぬ』
失敗の先に待っているのは死、だから。
『悪魔を召喚することは、それだけのリスクを伴うのじゃ。本来ならば、S級召喚士でさえも低級悪魔を呼び出すのは躊躇するというのう』
そう考えると、このガキはまだ見込みがあると言えた。
『二分経過、残り時間一分! このままいけるといいですね!』
『タダで済むはずがなかろう』
アナウンサーは興奮気味だが、協会長は悪い気配を感じているようだ。
シチサブローも、感づいている。
この魔族は、最初から観客及び放送席を侮っていたのだと。
だが、あの悪魔はまだ気づかれていないと信じて疑わない。
『さあ残り三〇秒! このまま行けるぞ! 悪魔族はやはり強かったか? そして、低級魔族の軍門に、料理人シチサブロー審査員は下ってしまうのか?』
納得のいかない表情を、ギャラリーは見せている。異変には気づいているが、言葉で表せない様子だ。
ナイトゴーントを指さし、シチサブローは口元をつり上げた。
「……それで精神攻撃のつもりかよ?」
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