腹ペコ召喚獣VSドラゴン肉「あれ~召喚士くん、キミのペットさあ、オレの焼いた肉をガツガツ食ってますよ~」「ざこ胃袋❤」

椎名 富比路

文字の大きさ
上 下
12 / 31
試験二日目 「卑怯な手を使って負けるってどんな気持ち?」「へなちょこ胃袋❤」

みんなこれを見に来た

しおりを挟む
 スーツを着た少年が、巨大なグリフォンを引き連れて現れた。

 グリフォンは人間大で、二足歩行で立っている。人間の腕と足に猛禽の爪を持つ。この個体はメスらしく、こめかみにリボンが添えてある。クチバシに紅も引いているらしい。

『続いては大本命! ギュンターくん一〇歳。数多くのS級召喚士を輩出してきた名門、ギースベルト家の若き天才が登場だ。従えているのは、グリフォンのヴェラちゃん、三歳のメスです! 観客のみんな、彼を見に来たのです!』

 彼は過去に二度S級の試験を受けて、どちらも失敗している。その模様が、煽りVにて公開された。

 初登場時は、八歳という若さ。「悪の組織に連行されるご主人サマを、肉の誘惑に負けずに助け出せるか」というミッションで、グリフォンは真っ先に肉へ飛びついた。初戦敗退。

 二度目の挑戦では、準決勝まで駒を進める。誘惑の多い屋台通りを走り抜けるミッションに挑む。しかしグリフォンは、どの屋台もハシゴしていた。

 ダイジェストシーンを鑑賞しながら、観客はゲラゲラ笑っている。バカにしているのではない。微笑ましい姿に癒やされている。

 彼は負けるたびに、グリフォンに当たり散らして泣いていた。グリフォンの首に抱きついては、振り払われる。手綱に引きずられながら退場していく様は、どっちが飼い主かわからない。負けて母に泣きつく姿は、おなじみになっている。

 観客は、同じようなリアクションを求めていた。同時に、今度こそ昇格できればとも願っているようだ。

 ただでさえ、グリフォンは気性が荒い。意思疎通も難しいのだ。

『本日、三度目の挑戦だ。果たして、今年は無事に昇格できるのか? はたまた、再び姿を消すのか? ギュンターくん、自信のほどは?』
「屋台とか練習してきたから、今回は大丈夫だと思う」

 過去に失敗したミッションを自宅に設置して、トレーニングを積んだという。

『意気込みはばっちりといったところでしょうか? シチサブロー審査員は、ギュンターくんとは初顔合わせですね?』
「泣き虫ヤロウだってのは、聞いているぜ」

 煽りVでも、彼は泣きべそをかいている。

「まあ、泣いてもらうぜ」

 言葉少なに、シチサブローは試合開始を急かした。

『時間が来ました。ゴングを鳴らしてください!』

 試合がスタートし、グリフォンがさっそくソワソワし出す。

「まてヴェラ、ダメだって」

 グリフォンは、泣き虫にどうして止められているのかわかっていない。目の前の肉を取り上げられまいと、飼い主すら威嚇する。

 泣き虫少年は、必死にグリフォンを押さえ込む。

 しきりに、グリフォンは場外に視線を向けた。泣き虫召喚士の母親が、席に座っている。

『さて、グリフォンのヴェラ選手、気持ちが落ち着かない! ギュンターくんのママさんが気になっているのか。実はこの方、ギースベルト家の歴代最高傑作と呼ばれています』

 召喚士の母親は、目をそらす。自分が子どもに替わって、指示を出すわけには行かないから。

 状況を見つつ、シチサブローは分析した。完全に、少年はグリフォンに舐められている。彼女にとっては、自分の方が飼い主より立場が上なのだ。

 その理由は……。

 とうとう泣き虫の包囲網を、羽ばたきでかいくぐった。飼い主を飛び越え、肉にありつく。

『あっとぉ、やはり失敗! 名門ギースベルトの若きエースは、今年もダメでした!』

 失敗し、召喚士は落ち込む。

 側で見ていた両親も、これには苦笑い。

 消沈する飼い主などには目もくれず、メスグリフォンはうまそうに肉をついばむ。

「なんで? なんでだよおおうわあああん!」

 グリフォンの首に、泣き虫が抱きついた。

「触るな」という意思表示を露骨に出して、グリフォンが避ける。ササッと、泣き虫の母親の元へ。支えを失った泣き虫少年は、そのまま地べたに転倒した。また大泣きする。

「しょうがない子ねぇ」と、泣き虫の母はグリフォンの首を抱えた。

 母親召喚士に抱きしめられながら、グリフォンはうれしそう。首を撫でられると、うっとりしている。頬ずりまでしていた。

「ギャハハ! ちっとも愛されてねえなぁおい!」

 シチサブローが、泣き虫の失態を煽る。

「彼女にとっては、本当の飼い主はママ」

 テルルも、グリフォンが真に慕っている存在に気づいた模様だ。

「たぶん、ママに召喚してもらったんじゃねえか? それを息子が譲ってもらっただけと推測するが?」

 シチサブローが、グリフォンのいきさつを推測する。

「そうなんですよぉ。わたしの子どもだから、懐いてくれると思ったんですけどねぇ」

 召喚士の母親が、うなずいた。

 なんと、言い当てていたとは。

「ダメだぜ、おっかさん。ちゃんと子どもが召喚の儀式をしてやらなくちゃ。召喚術の基本でしょうが」
「そう思って、二度目以降は本人に召喚させたんですよぉ。でも全然いうことを聞かなくて」

 話を聞き、シチサブローは理解できた。どうして、少年がグリフォンを飼い慣らせないか。

『またも涙の結末となってしまいました。しかし、殺伐としてきた本大会に、多大なる癒やしを与えてくれました。やはりちびっ子を相手にする大会はこうでなくては。ありがとうございました!』

 優しいアナウンスに見送られ、召喚士はべそをかきつつも自力で立ち上がって退散する。

「悲観することはない」
「ああ。メスのグリフォンってのは、プライドが高い。そいつを飼い慣らすこと自体、めんどくせえからな」

 ヴァンパイアロードを従えるより、はるかに難しい。性格が大人な分、ヴァンパイアの方が忖度してくれる。根っからの野生児であるグリフォンでは、召喚士を立てるなんて望めない。

 一度染みついてしまった元飼い主のマナの匂いを、きっとあのグリフォンは忘れられないのだ。
 母親の方が、圧倒的にマナが強い。
 自分が仕えるご主人サマとして誰が相応しいか、グリフォンは身体で覚えてしまっていた。これは、泣き虫に懐くのは時間が掛かりそうである。

 しかし、彼は必ずやり遂げるだろう。どんなに時間が掛かっても。

「あいつは将来、伸びるぜ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...