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~試験一日目~ 「サモナーく~ん。キミのペットちゃんはオレの焼いたドラゴン肉をおいしそーに食べてまーす」「ざこ胃袋❤」

ざーこ❤

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『さあ始まりました、S級召喚士試験! 腕自慢のちびっ子たちが、各々の召喚獣を手懐けております!』

 認定試験会場であるコロシアムにて、アナウンサーが観客を煽る。

 中央にある特設ステージで、ダークエルフのシチサブロー・イチボーは肉を焼いていた。酔狂でも、誰かに振る舞うでもない。これから、戦うためだ。

 普段ならここは、命のやりとりをする場所である。しかし、今日の戦いは血を流さない。

『最後の試験は、「待て」です! 目の前に置かれたおいしそうな肉を、三分ガマンすること。それだけ! ですが最後に待ち構えているのは、特A5ランクすら超える、特製のS5ランクのドラゴン肉だ!』

 歓声が上がる中、シチサブロー・イチボーは黙々とドラゴンのシッポを焼く。褐色の肌に、チャラいアクセサリをギラつかせている。

 ドラゴンの肉が、血の赤からピンク色に染まっていく。程よくレアに焼き上がった。

 前列の貴族席も、後列の平民席も、満席になっている。みんな、ドラゴンのシッポ肉から漂う香りに、うっとりしていた。

 召喚士協会から下った、シチサブローの指令はただ一つ。「クソガキを誰もS級へ上げない」ことだ。

『待ち構えるのは、ダークエルフの料理人、シチサブロー・イチボー審査委員です。シチサブローさん、相手は最高レベルの召喚士ですが、どういった心境ですか?』

 アナウンサーがステージに上がってきて、状況を聞いてくる。

「調子に乗ってるガキに、一泡吹かせりゃあいいんだろ? 楽勝!」

 ほとんどの召喚士は、コネで上がってきているのみ。
 そんな彼らに足りないのは、召喚士の絆だ。
 いかにモンスターとの関係を維持することが難しいか。
 自分たちは、それを幼い召喚士たちにわからせるために呼ばれた。

「見せてやろう。腹を空かせた召喚獣が、オレ様の作った料理に這いつくばる様をよ!」

 大衆を、シチサブローが煽る。

 ライバルの貴族たちから、下卑た歓声が上がった。

 シチサブローにおいては、そんな気高い信念、貴族共の薄汚い感情なんてどうでもいい。胸が躍るような、うまい料理を出す。それだけである。

 アナウンサーが、シチサブローの隣にいる幼女にマイクを向けた。

 幼女のこめかみからは、木の枝のような角が生えている。小さすぎて、テーブルから頭が半分しか出ていない。「こっちへ来ましょうか」とアナウンサーから観衆の方へと手を引かれる。

『では、パートナーのドラゴン、テルル選手、意気込みを聞かせてください!』

「ウチのお肉は、おいしい。みんなに食べてもらいたい」

 ドラゴンのテルルが、切られたシッポを再生させた。

 シチサブローの調理している肉は、彼女のシッポを使っている。

『テルル審査員は、比較的おとなしめなドラゴンニュート族のお嬢様で、安全安心な育成方法で育てられました! シッポの味は格別だとか』

 アナウンサーに褒められて、テルルはシッポをバタバタさせた。

『改めてシチサブロー審査員、意気込みの程は? まだ子どもとはいえ、相手は歴戦の召喚士と血気盛んな召喚獣です。勝てますか?』 

「食ってみれば、わかるさ。味見してみろ」

 トングで、シチサブローはサイコロステーキ状のシッポ肉を摘まんだ。皿を用意し、アナウンサーへ。

『はい。いただきます。はむはむ、んぐんぐ。おおこれは……まるで世界を食べているかのようです。特A5級の牛肉は、王宮で飼われている番犬すら耐えられないと聞きますが、このドラゴン肉は、それを上回るそうですね』

 世界中の食通が、このドラゴン肉を求めて、冒険者を派遣した。しかし、いずれも返り討ちに遭ったという。

『それにしてもおいしいです! ライスいただけますか?』

 シチサブローが用意したライスまで、アナウンサーは平らげた。食レポさえ忘れて、肉に夢中になっている。

『ゴホン!』

 解説席にいる召喚士協会の会長が、口に拳を当てて咳払いをした。
 
『失礼しました。まいりましょう。最初のチャレンジャーです!』

 白いオオカミを連れた召喚士が、配置につく。

『S級に挑戦ですが、お気持ちは?』
「絶対勝ちます!」

 自信に満ちあふれたコメントだ。

 それを打ち砕くのが、シチサブローの役目である。

 試合開始のゴングが鳴った。

 焼き上がったドラゴンテール肉を、シチサブローが皿へと移す。

『おっと、早くも理性を失いかけているぞ!』

 香りに耐えられず、白いオオカミは皿へと顔を近づける。

「待て!」

 召喚士が指示を出すと、オオカミは行儀良くおすわりした。だが、まだソワソワしている。皿の周りをうろつき始め、落ち着きがない。

「待て。待てったら待て!」

 挑戦者である小さな召喚士が、白いオオカミ相手に再度「待て」を指示した。

 オオカミはおすわりをする。眉間に皺を寄せながら、召喚士とにらめっこ。その目は時々チラチラと動く。視線は度々、ドラゴン肉へ注がれた。

「見ろよあの切なそうな顔」「かわいそう。でもかわいい」

 幼い召喚士とペットのやりとりを見て、観客席はその愛くるしさに悶えている。

 ギャラリーの微笑ましい視線に反し、召喚士たちは真剣だ。

 また、ライバルたちからは「落ちろ!」という怨念が降り注ぐ。


「待て!」

 再度、オオカミに指令が下る。
 オオカミも、今はおとなしい。だがそれも、どこまでもつか。

 公平を期するため、召喚獣は食事を減らされている。その上で極上のドラゴン肉を出されているのだ。それも、シチサブロー特製ドーピングを施されて。
 
 この肉は、ただ素材がウマイだけではない。各種魅了魔法を施した特製のスパイスをふりかけ、絶妙な火加減で調理されている。
 ただ肉を炭で焼くだけでも、極上の味が引き出されるのだ。
 そこへ増強魔法バフ付きである。
 並の召喚獣が、耐えられるはずもない。

 召喚士が、ドラゴン肉を忌々しげに見た。早く終わってくれと思っているのだろう。

「おい待て!」

 オオカミが、不意に召喚士から視線をそらす。そのまま召喚獣はドラゴン肉へまっしぐら。

『あーっと、三〇秒もしないうちに食べてしまったぁ! 残念。失格です!』

 敗北が決定し、召喚士は半べそをかきながらうずくまる。

「どんな気持ちだ、飼い主くん? お友だちが肉に寝取られた気持ちは?」

 うずくまる召喚士の上から、シチサブローは情け容赦ない暴言を浴びせた。子ども相手に大人げないが、仕方がない。こちらも仕事だ。

「ざーこ❤ ざこざこ、ざこ胃袋❤」

 テルルも、シッポ肉に負けた召喚獣の胃袋を愚弄する。

 観客は、人とケモノの絆・友情が見たくてコロシアムに金を払っていた。

 だが貴族共は、友情を示すなんて建前だってコトくらい、わかっている。真の目的は、「大衆の前で、思い上がったライバル共に恥をかかせる」ことだ。

『解説席には、召喚士協会の協会長がいらっしゃいます。協会長、今の試合をどう見ますか?』

「なっとらん。視線をそらした時点で、召喚士の集中力が切れたのじゃ。それであのモンスターは、待たなくていいと判断してしまったのじゃろう。絆が深まってなかったんじゃ」

 まともなのは、協会長のジジイくらいだろう。白髪を携え、解説席に座っていた。この寝取りをバネに、更なる飛躍をすることを望んでいることだろう。

『ステージ上のシチサブロー審査員、まずは一勝と言うことで、今の心境はいかがでしょうか? 手強かったですか?』

「余裕。ザコすぎんだろ。もっとマシな奴を呼んで来いよ」

 観客及び貴族たちを、シチサブローは盛大に煽った。

 ステージを降りて、召喚士は貴族の両親に慰められている。
 その姿を、他の貴族たちは蔑んでいた。

 シチサブローは、目の前の光景に吐き気を催す。

 ライバル共にもわからせる。
 笑っていいのは、笑われる覚悟のあるヤツだけだと。
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