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第三章 ウザくても彼女にしたい!

ウザ後輩の、キャラ付け秘話

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「ああもう、今までの苦労は一体⁉」
 すべてが終わった後、クルミは地べたにしゃがみこんだ。

 あの後、両親から「がんばりなさいね」など激励の言葉を受けた。二人の時間も過ごしたかろうということで、解散となる。

 アンズ会長も、誠太郎との交際について両親と話し合うという。俺たちの状態を見て、自信を持ったようだ。

「ああっ! ここまで来るのにどれだけ考え抜いたか。それのすべてが無駄に終わったッス」
「俺と付き合うことは、想定外だったのか?」

 ここまできて「ドッキリでした」は、辛いぜ。

「いや。先輩との交際があっけなく許されたのは、いいんスよ。ただ、キャラ付けに失敗したなーと」

 そもそも、クルミはどうしてそんなキャラを演じるようになったのか。

「ウザキャラを装っていたのは、なんか、事情があるんだな?」
「最初は、擬態だったッス。軽いキャラを演じたほうが、先輩にはちょうどいいんじゃないかと」
「どうしてそう思った?」
「擬態した姉が、あんなだからッス」

 なるほどねえ。

「本性では、ないんだよな?」

 俺はずっと、クルミのウザ属性は「作り物」だと見抜いていた。的当てで確信したのだ。こいつは本性を隠しているな、と。

「アンズ会長もか?」
「姉さんのポンコツキャラは本性ッス。でも、あたしは作り物ッスよ」
「つまり、お前と会長は性格が逆だ、と?」
「そうッス」と、クルミは何度もうなずく。
「お前なりの、照れ隠しだったと」

 高速うなずきで、返答された。

「でも、演じていくうちに、わかんなくなってきちゃって。どれが本当のあたしなのか」
 うずくまったまま、クルミは顔を手で伏せる。

「こう、なんというのでしょう。先輩をイジっているうちに、目覚めてしまったッス。次はどうやって困らせようかなとか、考えるようになっちゃって」

 それはヒドイな。

「このままじゃいけないって頭では思ってるのに、一晩寝たら忘れちゃって、もう先輩をイジる手立てを考えつくんスよ」
「どれだけSなんだよお前は!」
「こんな気持ちになるなんて、思ってなかったッスよ! 悪いのは先輩ッス!」
「責任転嫁するな!」

 まったく、俺はどれだけお前の嗜虐心を煽っていたんだよ?

「で、でも、ずっと罪悪感はあって! ちゃんと先輩の期待には答えようって、それは考えてたッス」

 確かに、そういう気配は交際しながら感じていた。
 やりすぎたと自覚している雰囲気もあったし。

「嫌われたくないのに、嫌われるようなことばかりしてしまって。ごめんなさいでしたッス」
 妙に、クルミはしおらしくなる。

「家に帰っても、ああ、今度こそ愛想を尽かされたなと思っていたッス。お見合いの話が来た時も、天罰だったんだって、ずっと自分を責めて。先輩に顔向けできなかったッス」
 今にも泣きそうな声で、クルミはまくしたてた。

「コレ以上困らせるくらいなら、身を引こうって思っていたのか?」
「はいッス」

 そこまで、思いつめていたのか。 

「俺はてっきり、俺に声をかけるのは罰ゲームか何かで、交際してもたいしてうれしくないのかと思ってた」
「どんだけ自己肯定感が低いんスか」
「そうでなくても、夢みたいだった。お前みたいな、その……なんだ」

 口から、クルミに対する思いが出てこない。ここまできて、日和っている。

「ハッキリ言ってほしいス」
「カワイイ後輩と、一緒になれるなんて」

 ボンッ、と擬音が聞こえてくるくらい、クルミの顔に日が付いた。

「まあ、正体がこんなウザキャラだって思ってなかったけどな!」
 そこはグチらせてもらう。

「でもお前が本当に底意地の悪い女だったら、ここまで付き合ってやらなかった。ちゃんと考えたんだ」

 クルミと交際してみて、こいつは確かに信用に足る人物だとわかった。
 だから、今も付き合っている。
 もし、外道だったら早々と見限っていただろう。
 それだけは確かである。

「たしかに、お前の言動はところどころ憎たらしい。けどな、絶交するほどじゃない。めんどくさいが、距離を置こうって思わなかったな」
「そうなんスか?」

 ずっとうつむいたままだったクルミが、顔を上げた。

 まだ怯えたままの目だが、光が戻っていくのがわかる。

「ああ。だからこれからも頼むぜ。そのままでいいからよ」

「えへへ。よかったぁ」
 安心したのか、クルミの表情が和らぐ。

「じゃあ、ずっと先輩を困らせてもいいんスね?」

「いやだから、そういう意味じゃねえよ!」
 俺はしっかりと釘を刺す。

「先輩、お腹すきませんか? おごってもいいんスよ?」
「だから、なんで俺が払う前提なんだよ!」
「しょうがないッスねー。先輩のお財布に合うメニューでいいッスから、どこか行きましょう。この近くにラーメン屋があるッスよ。替飯にもチャーシューが乗ってるって評判ッスよ?」
「だれも払うなんて言ってねえ!」

 俺はこれからも、クルミのウザ言動に振り回され続けるだろう。

 しかし、クルミの悪戯好きは治らないだろうなとは、思っていた。

 なんたって、俺がこいつを目覚めさせちまったんだから。
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