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第二章 後輩ウザかわいさが、とどまるところを知らない(自称
ウザ後輩と、バイト
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あの直後、俺と誠太郎はバイトで顔を付き合わせる。
レンタルビデオ屋だ。ここは配信による不況を乗り切るためか、書籍も扱う。
といっても、マンガこそ配信によって大変なのだが。
「っしゃーせー、ご返却ありがとうございまーす」
といってもセルフレジで、やることは主に商品の棚入れである。若い客がメインなので、あまり接客に力を入れなくていい。
「あのー、吸血鬼に復讐する主人公を描いた作品ってどれですか?」
貸本コーナーで棚を整理していると、年配のお客さんが質問しに来た。
「二パターンございます。最近始まったものと、八〇年代から連載が続いているものまで」
老婆は首をかしげている。どれも違うのか?
「失礼ですが、主人公の武器は?」
「丸太だったかしら」
「でしたら、もしかして青年誌の方では?」
俺は老婆を、青年誌のコーナーへ誘導する。
「そちらです。少々大人っぽいの!」
納得した老婆は、精算を終えた。
「ありがとうございました」
接客を終えて、俺はカウンターに戻る。
「おいおいリクト? クルミさんと何かあったか?」
カウンター越しに見えないように、誠太郎が俺の腕を肘でチョンチョンとつつく。
「なんでもねーよ」
「でも、クルミさんとデートなんてさ。お前からしたらチャンスだよな?」
「そうだな」
適当に話を合わせる。もうチャンスどころか、ゲットした。正確には、させられたんだけどな。
「つれないねぇ。妹ちゃんがいるヤツは、余裕か? 後輩ちゃんが彼女になっても、あんまりうれしくないもんかね?」
「彼女になるかどうかは、わからないだろ」
もう彼女なのだが。
「オレも妹いるからなー。年下ってなると構えちゃうよな」
誠太郎の妹はチヒロのクラスメイトで、部活でも仲良くしてくれているのだ。
「好きになったら、あまり気にならないんじゃないのか?」
「だよな」
誠太郎も、俺の意見に同意する。
まさか去年まで、高嶺の花だったアンズ先輩と付き合うなんて思っていなかったのだから。
「お前とアンズ会長って、馴れ初め自体が特殊だったからな」
下校するアンズを乗せた車が、バイトに向かう途中の誠太郎を撥ねてしまったお詫びだったからな。
懸命な看病の末、二人は結ばれた。
俺は非番だったため、現場に居合わせていない。
誠太郎が抜けたシフトの変更に割り当てられ、面会も看病もできずじまいだった。
「ク……斎藤妹さんは、誰か好きな人っていないのか? そんなに男っ気のない子なのか?」
誠太郎は虚空を見上げて、首を振る。
「クルミさんに関しては、謎が多いよ。気になる男子もいないみたいだぜ。ただ、最近はよく笑うようになったらしいけど」
「お前でも、面識ないのか?」
「だって、アンズさんと付き合ってるの、家族に内緒だし。家に行ったこともねえよ」
誠太郎は、この辺りはしっかり守る男だ。バイトして金を貯め、いつしか彼女に見合う男になろうと努力もしている。
「さっき休憩中にメッセ見たらさ、遊ぶお金は向こうが全額出してくれるって。とはいっても、着るものはさすがにちょっといいのを用意した方がいいかな。向こうは気にしないって言うけどさ」
華二輪に対して、みすぼらしい格好はさすがにできないか。
「だな。俺も服を買いに行くとするか」
「オレは、アンズ会長を連れて見に行ってくるよ。お前は?」
「斎藤妹さんとは一緒に行けないし、妹と一緒に行こうかな」
チヒロの意見を聞いていれば、だいたいハズレはないと思うが。
「お、時間だ。休憩行ってきな」
「後は頼んだ」
サーバーでドリンクを淹れ、パイプ椅子に座る。
スマホを確かめると、クルミからメッセが来ていた。
[せーんぱい、何してるッス?]
クルミのドヤ顔写真付きで。
[バイトだ]
[へー。どんなッスか?]
顎に手を当てて考え込んでいるアスキーアート付きで、質問メッセが飛んできた。
[レンタルビデオ屋だ。最近は配信が活発だから、人が少ないんだ]
そこが狙い目でもある。あまりアクセクしない職場がいい。いつまで続けられるか分からないが、作品名を知らない人というのは案外多いのだ。
[先輩のバイト姿、見たいッス!]
勘弁してくれよ。
[写真を撮ってくれないと、ずっとメッセ送信し続けるッス。先輩の貴重な休憩時間を邪魔してやるッスよー]
それで迷惑を被るのが自分だと、どうして気づかないっ! 誠太郎に知れたらどうする気だ?
「ったく」
仕方なく、俺は自分のバストアップを写真に収める。さすがに照れくさくて、正面を向けなかった。
[先輩のバイト制服姿、最高ッス!]
[じゃあ、もう切るぞ]
[オススメの映画教えてッス! 先輩がちゃんとした接客できるか、テストするッス]
そんなこと言われても。
[じゃあ、好みを教えろ]
[そうッスねー。女子向けのヤツがイイッス! でも、怖いのはダメッスよ!]
手でバッテンを作った画像が送られてくる。
女子向けか。難しいな。
[じゃあ『カンフー・カピバラ』ってのはどうだ?]
動物が人間のように生活する世界が舞台で、主人公のカピバラはデブの女子という設定だ。
クラスからバカにされていた。あるときいじめっ子から助けてくれた師匠のビーバーに弟子入りし、カンフーの試合でいじめっ子を倒して全国優勝する。
自立した女性に大人気の一本だ。
[見てみるッス。ありがとうッス先輩]
[じゃあ休憩終わりだから切るわ]
スマホを閉じようとしたら、光の速さで返信が来た。
[待って先輩! 一緒に服を見に行ってくださいッス!]
[どうした?]
[あたし、デートに来ていく服、持ってないッス!]
では、前のパーカーはなんだったのか。
[なんでもいいよ。この間の服でよくね?]
[そういうワケには、いかないッス]
[分かったよ。日時設定はそちらに任せるから]
[はいッス]
すまぬ妹よ。お前との埋め合わせは必ずするので。
結局休めかなった俺は、バイトでアクビと格闘するはめになった。
レンタルビデオ屋だ。ここは配信による不況を乗り切るためか、書籍も扱う。
といっても、マンガこそ配信によって大変なのだが。
「っしゃーせー、ご返却ありがとうございまーす」
といってもセルフレジで、やることは主に商品の棚入れである。若い客がメインなので、あまり接客に力を入れなくていい。
「あのー、吸血鬼に復讐する主人公を描いた作品ってどれですか?」
貸本コーナーで棚を整理していると、年配のお客さんが質問しに来た。
「二パターンございます。最近始まったものと、八〇年代から連載が続いているものまで」
老婆は首をかしげている。どれも違うのか?
「失礼ですが、主人公の武器は?」
「丸太だったかしら」
「でしたら、もしかして青年誌の方では?」
俺は老婆を、青年誌のコーナーへ誘導する。
「そちらです。少々大人っぽいの!」
納得した老婆は、精算を終えた。
「ありがとうございました」
接客を終えて、俺はカウンターに戻る。
「おいおいリクト? クルミさんと何かあったか?」
カウンター越しに見えないように、誠太郎が俺の腕を肘でチョンチョンとつつく。
「なんでもねーよ」
「でも、クルミさんとデートなんてさ。お前からしたらチャンスだよな?」
「そうだな」
適当に話を合わせる。もうチャンスどころか、ゲットした。正確には、させられたんだけどな。
「つれないねぇ。妹ちゃんがいるヤツは、余裕か? 後輩ちゃんが彼女になっても、あんまりうれしくないもんかね?」
「彼女になるかどうかは、わからないだろ」
もう彼女なのだが。
「オレも妹いるからなー。年下ってなると構えちゃうよな」
誠太郎の妹はチヒロのクラスメイトで、部活でも仲良くしてくれているのだ。
「好きになったら、あまり気にならないんじゃないのか?」
「だよな」
誠太郎も、俺の意見に同意する。
まさか去年まで、高嶺の花だったアンズ先輩と付き合うなんて思っていなかったのだから。
「お前とアンズ会長って、馴れ初め自体が特殊だったからな」
下校するアンズを乗せた車が、バイトに向かう途中の誠太郎を撥ねてしまったお詫びだったからな。
懸命な看病の末、二人は結ばれた。
俺は非番だったため、現場に居合わせていない。
誠太郎が抜けたシフトの変更に割り当てられ、面会も看病もできずじまいだった。
「ク……斎藤妹さんは、誰か好きな人っていないのか? そんなに男っ気のない子なのか?」
誠太郎は虚空を見上げて、首を振る。
「クルミさんに関しては、謎が多いよ。気になる男子もいないみたいだぜ。ただ、最近はよく笑うようになったらしいけど」
「お前でも、面識ないのか?」
「だって、アンズさんと付き合ってるの、家族に内緒だし。家に行ったこともねえよ」
誠太郎は、この辺りはしっかり守る男だ。バイトして金を貯め、いつしか彼女に見合う男になろうと努力もしている。
「さっき休憩中にメッセ見たらさ、遊ぶお金は向こうが全額出してくれるって。とはいっても、着るものはさすがにちょっといいのを用意した方がいいかな。向こうは気にしないって言うけどさ」
華二輪に対して、みすぼらしい格好はさすがにできないか。
「だな。俺も服を買いに行くとするか」
「オレは、アンズ会長を連れて見に行ってくるよ。お前は?」
「斎藤妹さんとは一緒に行けないし、妹と一緒に行こうかな」
チヒロの意見を聞いていれば、だいたいハズレはないと思うが。
「お、時間だ。休憩行ってきな」
「後は頼んだ」
サーバーでドリンクを淹れ、パイプ椅子に座る。
スマホを確かめると、クルミからメッセが来ていた。
[せーんぱい、何してるッス?]
クルミのドヤ顔写真付きで。
[バイトだ]
[へー。どんなッスか?]
顎に手を当てて考え込んでいるアスキーアート付きで、質問メッセが飛んできた。
[レンタルビデオ屋だ。最近は配信が活発だから、人が少ないんだ]
そこが狙い目でもある。あまりアクセクしない職場がいい。いつまで続けられるか分からないが、作品名を知らない人というのは案外多いのだ。
[先輩のバイト姿、見たいッス!]
勘弁してくれよ。
[写真を撮ってくれないと、ずっとメッセ送信し続けるッス。先輩の貴重な休憩時間を邪魔してやるッスよー]
それで迷惑を被るのが自分だと、どうして気づかないっ! 誠太郎に知れたらどうする気だ?
「ったく」
仕方なく、俺は自分のバストアップを写真に収める。さすがに照れくさくて、正面を向けなかった。
[先輩のバイト制服姿、最高ッス!]
[じゃあ、もう切るぞ]
[オススメの映画教えてッス! 先輩がちゃんとした接客できるか、テストするッス]
そんなこと言われても。
[じゃあ、好みを教えろ]
[そうッスねー。女子向けのヤツがイイッス! でも、怖いのはダメッスよ!]
手でバッテンを作った画像が送られてくる。
女子向けか。難しいな。
[じゃあ『カンフー・カピバラ』ってのはどうだ?]
動物が人間のように生活する世界が舞台で、主人公のカピバラはデブの女子という設定だ。
クラスからバカにされていた。あるときいじめっ子から助けてくれた師匠のビーバーに弟子入りし、カンフーの試合でいじめっ子を倒して全国優勝する。
自立した女性に大人気の一本だ。
[見てみるッス。ありがとうッス先輩]
[じゃあ休憩終わりだから切るわ]
スマホを閉じようとしたら、光の速さで返信が来た。
[待って先輩! 一緒に服を見に行ってくださいッス!]
[どうした?]
[あたし、デートに来ていく服、持ってないッス!]
では、前のパーカーはなんだったのか。
[なんでもいいよ。この間の服でよくね?]
[そういうワケには、いかないッス]
[分かったよ。日時設定はそちらに任せるから]
[はいッス]
すまぬ妹よ。お前との埋め合わせは必ずするので。
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