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第二章 後輩ウザかわいさが、とどまるところを知らない(自称

ウザ後輩と、食べさせ合いっこ

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「ずっと不安だったんス。先輩は、未だにあたしが、助けてもらった恩で、恋人ごっこをしてるとしか思っってくれてないのかなって」


 こうやって、キャッチボールはすれ違っていく。クルミが投げたボールを、俺はまともに見てなかった。


 もっと、向かい合わないとな。

「プリン、もう一口くれるか?」
 俺は、あーんと口を開けた。

「先輩?」

「欲しい。クルミがくれたもの、もっとくれよ」
 だから、俺も正直に話す。

 これは、キャッチボールだ。

 クルミの本心なんて、どうでもいいか。



「多少は俺だって、わがまま言ってもいいよな?」
 今は、プリン一口くらいでいい。何かをクルミと共有したい。

 肩を震わせながら、クスクスとクルミが笑う。

「意地汚いッスねー。やっと素直になりましたか」
 いつもの邪悪フェイスが帰ってきた。

「うるっせー。俺も同じの食ってるだろ。いいからくれ」
「はいはい。ひな鳥ちゃーん。あーん」

 甘いプリンが、また俺の口に入ってくる。

「おいしいですかー?」


「うまいよ。クルミがくれたんだから」

「ブホオ!」
 正直に答えると、クルミは口を抑えて困った顔になった。

「どうしたんだよ、クルミ?」

「あうう。そういうところッス」
 俺も、あーんをおかえしする。自分の使っていたスプーンで。

「あーんしろ」

「ふぁい」
 俺が半ば強制的に指示すると、クルミは素直に口を開く。

「うまいか? まあうまいよな。人気だし」

「はい。ありがとうッス」

 同じものを分け合う。

 ただ、食い物を人にあげるだけ。
 なのに、これ以上ないほど心臓がバクバクした。
 幼い頃の妹相手にやったことはある。そのときは、なんともなかったのに。

「変だよな。同じものを食ってるのに」
 気恥ずかしくなって、俺は自分のプリンを食べようとした。


「ぱくっ」
 クルミの横顔が、俺からプリンをかっさらう。

「ふっふーん。油断してるからッスよー」

「あ、てめ! 最後のひとくちだったのに」

「だから、あげるッスから。あーん」
 結局最後まで俺たちは互いに食べさせ合った。

 プリンがなくなったところで、話題を変える。

「で、俺はどこへ連れて行かれるんだ?」
「人聞きが悪いッスねー、せっかくの後輩の誘いを」
 
 こんな後輩だからだろ。

「そうッスねー。次は、ピクニックにするッス」

 野外か。いいな。

「勉強しないのか?」

「そんなの、前日にやればいいッス。どうせ勉強漬けになるから、今のうちに羽を伸ばしたいッス」

 言えてる。

「今度は、あたしがお弁当を作ってくるッスよ」

「マジか?」

「こう見えて、家庭科はそれなりにできるんスよ。お裁縫だって」

 金持ちのお嬢様が料理とは。ちょっと想像できない。

「嬉しくないッスか? 大好きな後輩カノジョから、お弁当作ってもらえるなんて。めったにお目にかかれないイベントッスよ」

「確かに、特定の趣向を持つやつからしたら、憧れのイベントかもな」

 俺の不信感が顔に出てしまったのか、クルミが頬をふくらませる。 

「信じてないッスね? では本番でお見せするッス!」
 なんか、対抗心に火をつけてしまったようだ。

「家の人にバレないか?」

「お友達と行くってウソつくッス」

「なら、いいか」

「楽しみにしてるッスよ」

 去り際に、クルミを呼び止める。

「聞いておくが、何を作るんだ?」

「教えるわけないじゃないッスかー。いやだなぁ」

「違うっての。俺も作ってくるんだから。献立がカブったらヤバイだろ」

 クルミが絶句した。やはり、何も考えてなかったらしい。

 こいつ、本当に才女なんだよな? ネジが抜けているのでは? それとも、恋愛で舞い上がっているのか。

「何かリクエストはあるッスか? ちなみに、あたしは卵焼きがもう一度食べたいッス」

 図々しいな。まあ、難しいものを作ってこいと言われるよりマシか。

「お前が作れるものでいいよ。カワイイ後輩が作ってきてくれるなら、ぜいたくは言わない」

 どうした、クルミがフリーズしたぞ。

「ううう、先輩。そういうとこッスよ!」

 どこに照れる要素があった? 

「じゃ、じゃあ、あたしが全部リクエストするッス! それなら、逆算して先輩はかぶらないってことッスよね?」

 コロンブス的発想、ではないな。
 人はそれを、「丸投げ」って言う。


「あたしは、卵焼きさえあれば、何を入れてくれても構わないッス! 卵焼きだけってのはナシで」

 ことごとく図々しいなコイツは。あやうく「フル卵焼き弁当」を作るところだった!


「もう前日の残り物でも、スーパーの特売でもいいッス!」

「じゃあ俺も、お前が得意なやつで構わないから。料理は無理したら終わりだ。変に肩の力が入るからよ」

 これは実際にそうだ。
 いくら相手のためにと思っても、ただのエゴだったりする。
 聞いておくのはアレルギーくらいだろうか。

 幸い、クルミはなんでも食えるらしいので、そこは安心していいか。

「おやつは、とくに規定はないッス。というか、現地で食べるッス!」
「わかったわかった。じゃあ、次の土曜な」
「首を洗って待ってるッスよ、先輩!」
 なんで果たし合いみたいになってるんだ?
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