上 下
23 / 48
第一章 ウザい後輩に弱みを握られ、交際を迫られた。

ウザ後輩との仲を、隠し通す。

しおりを挟む
「ただいま」
 玄関を開けると、妹のチヒロが走ってきた。



「おかえりお兄ちゃん」

 珍しく、チヒロはよそ行きの服を来ている。紅白チェックのTシャツに、丈の短いデニムのサロペットスカートだ。中学生の割に見た目が幼いチヒロに、よく似合っている。

「おう。今日はどうだった?」
「部活のメンバーと勉強してた。家にお呼ばれして、四人で」

 チヒロは笑顔で話す。

 よかった。友だちができたみたいで。

 って、よそ様の家だと?

 しかし、クルミの言葉が、頭をよぎる。

「なあチヒロ、その中に男子はいなかったか?」
 チヒロの両肩を掴み、俺は尋ねた。

「いるわけない。男子部員は男子で集まってたらしい」
「そっか。すまんな。チヒロを信じてなかったわけじゃないが」
「お兄ちゃん以外の男子に興味ない」

 それはそれで問題発言だぞー。

「でも、今日は一日、お兄ちゃんがいないから寂しかった」
 そう言われても。まだ、兄離れができていないか。

「お前は、クラスとか部活で、男子と仲いいのか?」
「しゃべらない。事務的な会話もないかも」
「そっか」

 何をホッとしてるんだ、俺は?
 クルミが成長したなら、見守るのが兄ってもんだろうが。
 どうして兄が妹を独占できると思った?

「好きな人ができたら、教えてくれな」
 妹は「うん」といった後、間をおいて尋ねてくる。

「そういうお兄ちゃんは、どうなの?」
 射抜くような視線が、俺に向けられた。

「お兄ちゃんにカノジョできたら、教えてくれるの?」

「お、おう、ちゃんと話すよ。約束する」
 事情をさとられまいと、あくまで平静を装う。

「絶対」
 チヒロと指切りを交わした。

 すまん、妹よ。兄は嘘つきだ。

 あれをカノジョと呼んでいいのか?

 交際してくれるのはありがたい。けれど、付き合ってくれているだけなんじゃ、という疑惑も拭い去れなかった。

 メシの支度をしながら、クルミのことを考える。今日は何を……。

 スマホが鳴った。

「どうした、誠太郎?」

[いやな、お前んトコのおじさんから連絡あって、久々にウチ同士でメシでもどうだってさ]

「いいじゃんか」

 チヒロにも相談し、準備をする。
 幸い、チヒロは着替える直前だったので、用意はすぐに済んだ。

 両親が帰宅し、さっそく誠太郎一家の待つ料理店へ。

「う、お……」

 夕飯も、中華料理だった。ラーメンメインで。
 それも、結構な値の張る店だぞ。
 誠太郎のおじさん、奮発したな。ラーメンにフカヒレ乗ってるし。

「いやぁ。親父が昇進してな。今日はお祝いなんだ」
「おめでとう」

 俺と誠太郎が、お茶で乾杯する。

 とはいえ、昼に続いて夜もラーメンか。

「どうしたの、リクト。あんまり箸が進んでいないようだけど。食欲ないの?」

「ああ、実は昼もラーメンだったんだ」
 誠太郎に悪いので、小声で母に伝えた。

「そうだったの? じゃあ餃子だったら食べる? 臭わないニンニクを使ってるんですって」

「ありがとう。そうするよ。チャーハンちょうだい」

 チャーハンを回してもらい、俺はライス系メインで平らげていく。ラーメンはチヒロに選り分けてあげた。
 俺は、フカヒレを少しつまむくらいで留める。

「わーい」
「からあげも食えな」
「お兄ちゃん大好き!」

 チヒロは大いに喜ぶ。

「誰かと食べに行ったの?」と、母が聞いてきた。

「え、いや。なんで?」
 チンジャオロースを食べながら、冷や汗を拭う。

 どうして、誰かと一緒に食事してきたと分かった?

「あんた、外食とかムダ遣いしないでしょ? 寮のある大学に入るんだとかで」

 言われてみれば。

「勉強を見てもらったんだ」
「誰かと一緒にゴハン食べたんでしょうねって。仲良くしているの?」
「それなりだな」
「よかったじゃない。勉強だけが人生じゃないわ。お友達とも仲良くね?」
「おう」

 俺たちの話を聞きながら、誠太郎がラーメンを豪快にすすった。

「勉強だったら、オレも見てもらいたかったなー」
「お前は学年一〇位圏内だろうが」

 しかも直感で解答する天才肌なので、教わってもなにひとつ頭に入らない。

「誰に教わったんだ? 鹿島か?」
「女子じゃねえか。違う違う。接点ないから」

 学年トップの図書委員を上げてきたが、俺は首を振る。

「仙道だ、仙道」
「え、あいつって、よその高校行ったじゃん」

「誰なの、その子?」と、母が誠太郎に尋ねた。

「秀才中の秀才で、勉強の鬼なんですよ」

 男子と聞いて、母はフンフンと安心したかのように首を振る。

「たまたま勉強していたところで、ばったり会ってな。俺の指摘してきやがってさ」
「あー、仙道のやつ、そういうとこあるよなー」

 オレもやられたわ、とは誠太郎の弁だ。

「で、せっかくだからって真向かいに座ってきた」

 遠くの高校に越して行ったやつだから、名前を出してもいいだろう。

「仙道の指導なら、中間はうまくいきそうだな」
「任せろ。生徒会で赤点なんか出すかよ」
「仙道に電話するかな」

「待て待て。向こうも忙しいだろうからさ」
 俺は、誠太郎がスマホを操作しようとしたのを止めた。

「だな。そもそも仙道の番号、機種変したかで変わってたな」
「引っ越しの際にデータが吹っ飛ぶなんてのは、よくある話だ」
「それもそうか」

 こうして、誠太郎の親を祝う会は、にぎやかに終わる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夜の公園、誰かが喘いでる

ヘロディア
恋愛
塾の居残りに引っかかった主人公。 しかし、帰り道に近道をしたところ、夜の公園から喘ぎ声が聞こえてきて…

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

恋人の水着は想像以上に刺激的だった

ヘロディア
恋愛
プールにデートに行くことになった主人公と恋人。 恋人の水着が刺激的すぎた主人公は…

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

処理中です...