22 / 48
第一章 ウザい後輩に弱みを握られ、交際を迫られた。
ウザ後輩と、キーホルダー
しおりを挟む
喫茶店を出ると、もう一六時になろうとしているではないか。
「おー、もうこんな時間ッス」
そろそろ太陽も、夕日になろうとしている。
「帰るとするか」
だが、クルミはまだ名残惜しそうにゲーセンコーナーを見ている。視線の先には。キーホルダーのクレーンゲームが。景品は、俺がカバンに付けているものと同じだ。
「お前、あれが欲しいのか?」
「欲しいっていうか、決して先輩とおそろいの品が欲しいわけでは! でも、持ち帰るとデートしていたことがバレてしまうから、ほしいとも言えず!」
両手をバタバタさせて、クルミは「内心では欲しいです」とアピールをしていた。それくらい、俺にも分かるっての。口に全部出てたし。
「任せろ」
俺は一発で、クルミが欲しがっているであろう景品をゲットした。
「ふわあ」
さすがのクルミも、感心しているらしい。
「ちょっとは、先輩らしいことできたかな?」
キーホルダーをクルミに差し出す。
「ありがとうッス。でも、上手ッスね?」
「これも、妹にねだられてうまくなったってだけで」
俺は頭をかく。
「持って帰ると、遊んでるのがバレるんだよな?」
「平気ッス。気晴らしで遊んでたら取れたってウソこくんで」
嬉々として、クルミは自分の鍵にキーホルダーをつけた。
「すいませんッス。何も返せなくて」
「いや、これお礼だから」
「え、お礼とは?」
不思議そうな顔をしながら、クルミは首をかしげる。
「お前さ、俺が遊びたいゲームを我慢していたの、知ってたろ?」
「気づいてたんスね」
苦笑して、クルミは視線を俺から外した。
「気を使わせちまったからな。こんなことくらいしかできないけど」
「いいんスよ。付き合ってくれているだけで、あたしはうれしいんスから」
広々とした車内で、シートに離れて座る。
クルミは読書を始めた。しかし、一向にページが進んでいない。形だけだな。
遠くのクルミを意識しながら、夕日を眺める。
電車を降りて、クルミが頭を下げた。改札を抜けても、俺の後をクルミがついてくる。どうしたってんだ?
「いいのか? バレたらヤバイだろ」
「夜道は危険ッスからね。守ってくださいッス」
関係を尋ねられたら、「勉強の帰り道にたまたま出会って、ガードっしてもらっていた」と、通すらしい。
「いや、無理があるだろ」
「それでも通すッス」
根拠のない自信はどこからくるのか。
「楽しかったッス。今日はありがとうッス」
「俺も楽しかった。なんだかんだいって、色々あったよな」
これでつまらないデートだったら、二度と会ってもらえないだろう。要所要所でウザかったが。ともあれ、楽しんでくれてよかった。
「今度はもっと、まったりしたいッス」
結構な時間、一緒にいた気がする。けれど、もっといたいという気持ちにさえなった。この感情は、なんなんだろうな。
「行きたいところはあるか?」
俺の後をついて歩きながら、クルミは「うーん」とうなった。
「できれば、先輩のおうち行きたいッス」
無理だと分かっているのだろう。クルミは苦笑する。
「もしくは、遠出とか。遠足とかじゃ行かないところがいいッス。ユルイ山道とか」
林間学校となると、トレーニングだからな。どうしてもキツい山を登ることになる。
「親の許可がいるだろ」
「そうなんスよねー」
クルミの家は厳しい。放任主義のウチとは大違いだ。
「妹さんは、カレシとか作らないんスか?」
「まだ中学生だ。自分の楽しいを優先するさ」
チヒロは男子どころか、他人と仲良くするタイプではない。屋内だけですべてが完結するタイプで、家に友達を連れてくることもなかった。
「そうかなー。実はお兄ちゃんに黙って、こっそりデートしていたりしてププーウ」
「ま、まさか。あいつに限ってそんな」
とはいえ、もう中学生だ。ハメを外すことだってありえる。
「ソワソワしてやんの」
考え込む俺を、クルミはからかう。
「あいつは友達もいなかったんだ」
「どうなんスかねー。部活を始められたんスよね? お友達くらいならいそうッスけど」
ボードゲーム部だし、一人ではできない。必然的に人と接するくらいはあるだろうが。
「女子ばっかりだって聞いたぞ」
「実は部活自体が、男子と仲良くなる口実で」
「ババババカな」
「何、うろたえてるんスか、可愛すぎッスよ」
クルミが俺の肩をバンと叩く。
「てんめ、不安になるようなコト言うなよ」
「でも、仲のいい友達ができてるといいッスね」
唐突に、クルミの表情が真面目になった。俺に向けて笑みを見せる。
「そうだな」
ずっと閉じこもっていたからな、妹は。
家族以外と口をきいたところなんて、見なかった。
「じゃあ、あたしはここで。今日はありがとうッス」
「おう。こっちもありがとうな」
言い訳がなくても、俺はクルミと付き合いたい。
こいつがそんな関係を望んでいるなら。
バカか。なに一人で舞い上がってるんだ。
あいつは秘密を握っているから付き合っているにすぎないのに。
異なる意見が、俺の中で反発し合う。
クルミの本心が知りたい。
「なあ」
俺はクルミの背中に呼びかけた。
「また逢ってくれるか?」
振り返ったクルミは、頬が赤くなっているように見える。しばらくの沈黙があったあと、クルミは口を開く。
「逢ってくれるんスか?」
真剣な顔で、クルミが聞いてきた。
「いやいやいや、お前がいい出したんだろ。デートしようって」
また、小悪魔フェイスに戻る。
「どうしたんスか? 本気になっちゃったッスか?」
「うるさいよ。で、どうなんだ? まだ続けるのか?」
「次のデートは、球技大会の後で」
手帳を出して、お互いの予定を調整する。
「ちょうどいいな。中間が待っているし、また勉強するか?」
クルミは首を振った。「試験中はナシで」と付け加える。
「これまでとは、違うところに行きたいッス」
「お前はリードしてほしいタイプか、それとも、自分で全部選びたいか?」
「どっちもやりたいッス」
そう言って、クルミは手を振って去っていく。
「おー、もうこんな時間ッス」
そろそろ太陽も、夕日になろうとしている。
「帰るとするか」
だが、クルミはまだ名残惜しそうにゲーセンコーナーを見ている。視線の先には。キーホルダーのクレーンゲームが。景品は、俺がカバンに付けているものと同じだ。
「お前、あれが欲しいのか?」
「欲しいっていうか、決して先輩とおそろいの品が欲しいわけでは! でも、持ち帰るとデートしていたことがバレてしまうから、ほしいとも言えず!」
両手をバタバタさせて、クルミは「内心では欲しいです」とアピールをしていた。それくらい、俺にも分かるっての。口に全部出てたし。
「任せろ」
俺は一発で、クルミが欲しがっているであろう景品をゲットした。
「ふわあ」
さすがのクルミも、感心しているらしい。
「ちょっとは、先輩らしいことできたかな?」
キーホルダーをクルミに差し出す。
「ありがとうッス。でも、上手ッスね?」
「これも、妹にねだられてうまくなったってだけで」
俺は頭をかく。
「持って帰ると、遊んでるのがバレるんだよな?」
「平気ッス。気晴らしで遊んでたら取れたってウソこくんで」
嬉々として、クルミは自分の鍵にキーホルダーをつけた。
「すいませんッス。何も返せなくて」
「いや、これお礼だから」
「え、お礼とは?」
不思議そうな顔をしながら、クルミは首をかしげる。
「お前さ、俺が遊びたいゲームを我慢していたの、知ってたろ?」
「気づいてたんスね」
苦笑して、クルミは視線を俺から外した。
「気を使わせちまったからな。こんなことくらいしかできないけど」
「いいんスよ。付き合ってくれているだけで、あたしはうれしいんスから」
広々とした車内で、シートに離れて座る。
クルミは読書を始めた。しかし、一向にページが進んでいない。形だけだな。
遠くのクルミを意識しながら、夕日を眺める。
電車を降りて、クルミが頭を下げた。改札を抜けても、俺の後をクルミがついてくる。どうしたってんだ?
「いいのか? バレたらヤバイだろ」
「夜道は危険ッスからね。守ってくださいッス」
関係を尋ねられたら、「勉強の帰り道にたまたま出会って、ガードっしてもらっていた」と、通すらしい。
「いや、無理があるだろ」
「それでも通すッス」
根拠のない自信はどこからくるのか。
「楽しかったッス。今日はありがとうッス」
「俺も楽しかった。なんだかんだいって、色々あったよな」
これでつまらないデートだったら、二度と会ってもらえないだろう。要所要所でウザかったが。ともあれ、楽しんでくれてよかった。
「今度はもっと、まったりしたいッス」
結構な時間、一緒にいた気がする。けれど、もっといたいという気持ちにさえなった。この感情は、なんなんだろうな。
「行きたいところはあるか?」
俺の後をついて歩きながら、クルミは「うーん」とうなった。
「できれば、先輩のおうち行きたいッス」
無理だと分かっているのだろう。クルミは苦笑する。
「もしくは、遠出とか。遠足とかじゃ行かないところがいいッス。ユルイ山道とか」
林間学校となると、トレーニングだからな。どうしてもキツい山を登ることになる。
「親の許可がいるだろ」
「そうなんスよねー」
クルミの家は厳しい。放任主義のウチとは大違いだ。
「妹さんは、カレシとか作らないんスか?」
「まだ中学生だ。自分の楽しいを優先するさ」
チヒロは男子どころか、他人と仲良くするタイプではない。屋内だけですべてが完結するタイプで、家に友達を連れてくることもなかった。
「そうかなー。実はお兄ちゃんに黙って、こっそりデートしていたりしてププーウ」
「ま、まさか。あいつに限ってそんな」
とはいえ、もう中学生だ。ハメを外すことだってありえる。
「ソワソワしてやんの」
考え込む俺を、クルミはからかう。
「あいつは友達もいなかったんだ」
「どうなんスかねー。部活を始められたんスよね? お友達くらいならいそうッスけど」
ボードゲーム部だし、一人ではできない。必然的に人と接するくらいはあるだろうが。
「女子ばっかりだって聞いたぞ」
「実は部活自体が、男子と仲良くなる口実で」
「ババババカな」
「何、うろたえてるんスか、可愛すぎッスよ」
クルミが俺の肩をバンと叩く。
「てんめ、不安になるようなコト言うなよ」
「でも、仲のいい友達ができてるといいッスね」
唐突に、クルミの表情が真面目になった。俺に向けて笑みを見せる。
「そうだな」
ずっと閉じこもっていたからな、妹は。
家族以外と口をきいたところなんて、見なかった。
「じゃあ、あたしはここで。今日はありがとうッス」
「おう。こっちもありがとうな」
言い訳がなくても、俺はクルミと付き合いたい。
こいつがそんな関係を望んでいるなら。
バカか。なに一人で舞い上がってるんだ。
あいつは秘密を握っているから付き合っているにすぎないのに。
異なる意見が、俺の中で反発し合う。
クルミの本心が知りたい。
「なあ」
俺はクルミの背中に呼びかけた。
「また逢ってくれるか?」
振り返ったクルミは、頬が赤くなっているように見える。しばらくの沈黙があったあと、クルミは口を開く。
「逢ってくれるんスか?」
真剣な顔で、クルミが聞いてきた。
「いやいやいや、お前がいい出したんだろ。デートしようって」
また、小悪魔フェイスに戻る。
「どうしたんスか? 本気になっちゃったッスか?」
「うるさいよ。で、どうなんだ? まだ続けるのか?」
「次のデートは、球技大会の後で」
手帳を出して、お互いの予定を調整する。
「ちょうどいいな。中間が待っているし、また勉強するか?」
クルミは首を振った。「試験中はナシで」と付け加える。
「これまでとは、違うところに行きたいッス」
「お前はリードしてほしいタイプか、それとも、自分で全部選びたいか?」
「どっちもやりたいッス」
そう言って、クルミは手を振って去っていく。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?
おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。
『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』
※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる