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第一章 ウザい後輩に弱みを握られ、交際を迫られた。

ウザ後輩と、勉強

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「体に悪いものを食べたら、食べた分だけ運動するか、節制するかすればいいッス。子供じゃないんスから、体調管理くらい普通にやれるッス」

 突然、クルミの箸が止まった。

「それにしても先輩、運動神経鈍いッスね」

 歯に衣着せぬ物言いである。

「よさそうに思われるんだけどな。実際は超インドア派だ」

 むしろ勉強のほうが得意だったりする。
 ケンカも弱い。

 いじめっ子から妹をかばうくらいのことはあった。が、相手を追い払う程度で根本的な解決には至らない。

 強面に合わせようと、身体こそ鍛えている。だが、性格まで改善されているわけではなかった。いまだに俺は、ヘタレのままである。


「普通に、ガンシューの方がうまかったッスもんね。ヒットマンかと思ったッス」
「顔だけで判断してるだろ」
「あるいは、鉄砲玉?」
「それは刑務所に入る役割の人だ!」

 クスクスと笑った後、クルミは微笑む。
「でも、守ってくれたッス」


「あれは、お前を助けようと必死で」

 ニイ、とクルミは悪魔のような笑みを浮かべた。
「やだぁそんなに大切に思われていたんッスね、あたし。そんな魔性の魅力があったなんて」


「ねえよ」

「やだもー照れちゃってー。それだけあたしが大切だってことッスよねー?」
 頬に両手を当てながら、クルミは一人で盛り上がっている。

 まったく照れていないのだが。


「ごちそうさまッス」
「うまかったなー」

 よほどうまかったのだろう。クルミはアイスも平らげている。

「でもさ、デートでこのメシって。もっ豪勢にやりたかったんじゃないのか?」

 気を使わせてしまったか?



 クルミが顔を伏せる。
「先輩と二人で食べるッスから、どこでもいいんス。一緒にいてくれて、ありがとうッス」


「そ、そっか」


 こういうところだ。こんな一面があるから、クルミをキライになれない。


「デュフッ。ドキドキしちゃいましたか、せーんぱいっ?」


 クルミにはこういう一面があるから、気を許せなかった。

「ささ、勉強するッスよ。少しでも進めておかないと、言い訳できないッスよ」
 本屋へ向けて、クルミが駆け出す。

「はいはい」


 腹も落ち着いたので、次は本屋へ向かうことにした。

 これから向かう本屋には学習スペースがあり、本を読みながら自習ができる。さっそく、机を並べて介護関係の勉強をしている一段が。

「先輩、あっちに行きましょう」

 クルミが指す方には、老夫婦が座っているだけのスペースがある。ここなら、多少広々と使っても大丈夫か。

 迷惑そうなら、もう一度フードコートへ引き返してもいい。騒音さえ気にしなければ、くつろげるし机も広い。おやつが売ってある。今だと、激混みで集中できないだろうけど。

 俺たちは文房具を手に、自習スペースへ。テーブルの上に参考書とノートを広げた。

「ウザく絡んでくるなよ」
「さすがにそこまで無神経じゃないッスよ」

 小声で言葉をかわす。

 メガネをかけてシャーペンを握りしめた途端、クルミからウザい彼女の面影が消えた。そこに座っているのは、間違いなく才女である。

 ノートの取り方もきれいだ。並のJKみたく変にカラフルな線が走っておらず、無駄がない。


 彼女の学習する姿に、俺は思わず見とれてしまう。


「ん?」
 正面にいるクルミが、俺の視線に気づいたらしい。

「どうしたんスか? ひょっとして、教えてほしいッスかぁ?」
 小声といえど、ウザさ爆発のセリフが。

「結、構、ですっ」
 俺も小さく返す。

「それとも、勉学に励む美少女に見とれていたんスか?」
「いいから勉強しろ」
「はーい」




 またしても、クルミは優等生モードへ。

 俺はもう、勉強どころではなかったが、そうも言っていられない。頭を振って、無理やりノート取りに集中する。

「ん? お前そこ、計算間違ってるぞ」
「どこッスか?」

 クルミが、ノートを俺の方へ寄せた。

「ここ……!?」

 腰を浮かせて、クルミのノートに指をさす。そのせいで、俺はクルミの服を真上から見下ろす形に。

 こいつ、地肌の下に直接パーカー着てやがる! 俺はクルミのブラを直視してしまった。

「あっ、ホントだ! 気づかなかったッス」
「お、おう。よかったな」

 別のことに気づいてほしかったがな!

「どうしたんスか、先輩?」
「なあっ! なんでも、ねえ。すまん。作業止めちまったな」
「いえいえ。ありがとうッス」

 何も知らないクルミは、無邪気に礼を言う。だが、急にバタバタし始めた。慌ててファスナーを上げる音が。気づいたんだな。

 煩悩を取り払うために、俺は勉強に没頭した。 

 英語の長文読解、数式、物理の公式と。
 少し覚えては、軽く立ち上がって頭をリフレッシュさせる。

 短い時間で集中し、五分だけ休むを繰り返した。
 ネットの動画で見つけた「ポモドーロ・テクニック」という技法らしいが、俺には合っていたらしい。

 おかげで、テスト範囲はほぼ網羅した。

 一方、クルミは休まない。

「もう、受験勉強やってやがる。まだ一年なのに」

 俺の持っているヤツより難しい参考書を手に、猛スピードで指揮を計算している。

 テスト範囲なんて、とっくに終わらせていた。

 コイツは、何を見据えているのだろう。東大か?
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