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第一章 ウザい後輩に弱みを握られ、交際を迫られた。

ウザ彼女と、提案 2

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「以上です、生徒会長」
 クルミが、話し終えた。

「やけに本格的ですね。正式種目にしてもいいくらいに」

「正式種目にすると、景品がもらえなる危険があります。そうなれば、娯楽性を損なうかと。これはあくまでも、生徒たちの肩を温める息抜き。違いますか?」

 さすが妹だ。姉の攻撃にすら物怖じしない!

「分かりました。では、娯楽部門は的抜きに決定します。解散」
 生徒たちが退席すると、またアンズ会長はぐでーっとなる。

「はー、つーかーれーたー」
 会長は、机にへばりつくスライムになってしまった。

「もうなんなのあいつらー。めんどくさいー。アイデア出さないくせにー」

「よしよし、よくできました」
 飼い主の誠太郎が、スライム会長の頭を撫でる。

「アンズさんの気持ちも分かるよ。でも、こんなに早いスピードで案なんて出せないのが普通さ。普通は、ここまで進むのに二、三日は見ておかないと。アンズちゃんは的確さを求めすぎなんだよ」
「そーかなー誠ちゃん? パパパッとアイデアくらいは出ないものかなぁ?」
「誰も出せないアイデアを書記くんに求めたのは、どこのどなた様でしたっけ?」

 諭すように、誠太郎がアンズ会長を責めた。

「あーそっかーっ。そうだったー。ごめんねー、リクトくん。面倒くさい女でー」
 手を合わせながら、アンズ会長は反省している。

「でも、クルミって、あんなに家でしゃべる子だったかなー?」

「クル……妹さんって、普段どんな感じなんだ?」
 妹が話題に上ると、アンズ会長は肩をすくめた。

「チヒロちゃんとは全然印象が違うよー」
 アンズ会長は、チヒロと面識がある。

「あんな楽しそうにしてるクルミって、初めて見たかもしれない」

 ちょっと待ってくれ。変なワードが出てきたぞ。

「え、あれって、楽しんでいたのか?」
「そうだよー。わかんなかった?」

 わかんなかったです!

「ウソだろ、マシーンみたいだったぞ」
「自分の意見なんて、ほとんど言わないもん。いっつも私の後ろに隠れて、黙って人のお話を聞いているの。つまらなさそうに」

 意外だ。俺は楽しげなクルミしか知らない。

「気になる? リクトくん」
 会長からの疑惑の目が、俺に向けられる。




「まあ、な。これからも生徒会にいるんだから、変なストレスを抱え込まないように、俺たちがちゃんと後輩をサポートしないとな」

「えらい! えらいぞー。えらいからお菓子あげちゃう」

 背伸びをして、棚の上にあるお菓子の缶をパカッと開ける。

「てっきりさ、クルミちゃんのよくしゃべるところとか、知ってるのかなーって思ってさ」

 さとい! さすが姉、実にさといぜ。

「とんでもない。まともに会話するシーンを今日始めてみたくらいだぜ」

 どうにかごまかす。

「おせんべいでいい?」



「おう。サンキュ。じゃあまた月曜だな」
 アソートのせんべいを開けて、口に入れる。
 そのまま立ち去ろうとした。
 

「妹と仲良くしてね」
 後ろから、アンズ会長に声をかけられる。
 

「え、なんだよ?」
 
 何か、意味深な感じに聞こえたが。

「さっきのクルミちゃん、リクトくんのことをかばってたみたいだから」

「そ、そうか」



「クルミちゃん、リクトくんのこと、気になってるのかなって」

「そ、そんなわけないじゃん」
 苦笑いで返す。

「気をつけて帰ってね」

「じゃあな」
 アンズ会長と誠太郎に見送られながら、俺は生徒会室を出た。





 真横にクルミがいるのも知らずに。

「ひい!」
 思わず、小さな悲鳴をあげてしまう。

 クルミが、とっさに口を抑えた。笑いをこらえているのだろう。


「どうした? Gでもいたか?」
 ドアの向こうから、誠太郎が呼びかけてくる。

「あ、ああ! そうだ! 足で踏み潰したから見に来るなよ」
 何もない廊下を、足で踏みつけた。

「おー。ちゃんと処理してくれよな」
 特にアンズ会長は、Gが苦手だからな。

「じゃあ帰るわ」
 ドアの向こうの誠太郎に声をかけた。

「気をつけてな」
 誠太郎の言葉を確認し、俺は小走りで廊下を歩く。

「せーんぱい」と、クルミは競歩のような速度でついてくる。ちゃんと音を立てずに。

「一緒に帰りましょ」

 学校を少し抜けるまでは少し間をおいて、クルミは学校が見えなくなった辺りでくっついてくる。

「先輩、出過ぎたマネをしてすいませんッス」
 さっきの会話を聞いていたのだろう。

「いや、なんだ。ありがとな」

「でもでも、発言したのは先輩なのに。あたしが出しゃばったせいで」

 アイデアを出しただけの俺より、具体的な案を提供したクルミの方が、生徒からの印象は強い。

「別に、生徒会でポイント稼ごうなんて思ってねえよ」

 俺はただ、退屈な学生生活を送りたくないだけ。

「球技大会さ、盛り上げようぜ」

 そう言いながら、歩道橋を渡る。

「じゃあ、俺こっちだから」

 先に歩道橋を渡り、スーパーのある方へ。あとは夕飯を買ってくるだけだ。

「先輩、今度のデートスポット、あたし決めちゃいますね」
「あ、待った。一緒に言ってみようぜ」

 俺とクルミは、同時に微笑んだ。

「はい。せーのっ」

「「ゲーセン!」」

 二人の声が、重なった。
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