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第一章 ウザい後輩に弱みを握られ、交際を迫られた。

ウザ後輩と、ホラー映画 1

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 目的地までは、電車を使う。到着まで二〇分ほど。もちろん、行きも帰りも別々で。

 初デートは、定番の映画館にした。

 現在、朝の九時半だ。

 駅に着くと、クルミの姿はまだなかった。おかしい。先に着いているって連絡があったはず。

「コンコン」と、駅前のカフェで、窓を叩く音がした。
「せーんぱい、お待たせッス」
 店内で、クルミがそう唇を動かす。朝飯を食っていたらしい。

 俺も入店した。ブレンドのSと、軽くビスケットを一枚買う。

 クルミの格好は、オレンジのカーディガンと赤いチェックのミニスカートである。イスにPコートをかけていた。暖かくなってきたとは言え肌寒いからだろう。

 映画デートなので、俺はゆったり目にした。

「ふふっ、どうッスか、私服のあたしは?」

 いつも制服でしか逢っていないから、私服は照れくさい。

「先輩は、朝食まだッスか?」

 クルミが頼んでいたのは、ブレンドのLとアンパン、メロンパンの二個だ。

「妹と済ませてきた」
 ビスケットをかじり、ブレンドを口に含む。

「あー残念。誘えばよかったッスね」
「土日は、妹が朝食当番なんだ。だから家で食べたい」

 いつもはトーストとカップのスープだけである。今日の妹は、張り切ってスムージーまで作ってくれた。
 おかげで胃腸はゴキゲンだ。

「妹さん手作りのスムージーって、どんなんッスか?」
「バナナとミカンを、牛乳と一緒にミキサーしたやつだ。文章にするとグロいが、これがなかなかいけるんだ」
「ミックスジュースッスね。なんだか、おいしそうッス」

 なぜか、親の敵みたいにミカンをズタズタにしていたが。デートだとバレたか? 

 俺とクルミの関係をは、妹には伏せてある。
 友人の誠太郎が家に出入りする可能性がある以上、不測の事態は避けたい。
 とはいえ、隠し通せるとは思えないが。

「今日は、どんな映画を見るッスか?」
「任せようかなって」
「そんなんでいいんスか」
「お前の好みを知っておこうと思ってな。俺は俺で、映画好きだから」

 俺と誠太郎のバイト先も、レンタルビデオ屋である。
 二人して映画好きなので、作品のチョイスには事欠かない。

 誠太郎いわく、
「マニアに見させられること自体、相手にとって面白くない。見る映画は相手に任せている」
 とのこと。

 俺もそれにならって、クルミの意見に委ねることにした。

 マニアはマジで、マニア同士で語り合うのが楽しいからだ。
 彼らにとっては、作品紹介は遊びじゃなくなる。
 沼へと引きずり込もうとする奴らに、趣味を語る資格なし。

 趣味とは、殺伐とした空気を放ってはならない。
 

「これが、上映するラインナップな」
 クルミが食っている間に、スマホを操作する。
 これから向かう、大手シネコンのページを開く。

「アニメ邦画ばっかりッスね。それも子供向け」
 スマホをじーっと見つめながら、クルミはブレンドをズズズとすすった。

「GWが近いからな」

 どうしても、この時期は洋画邦画問わずファミリー向けアニメや特撮ヒーロー物が多くなる。
 楽しいのだが、デートムービーとして見たいかと言えば疑問符がつく。
 子供がいてこそ、にぎやかに見られるというもの。

「お前は、どんな映画がスキなんだ?」
 クルミに問いかけた。

「だいたいコメディッス。でも、頭使う系もキライじゃないッスよ。ミステリとか、知的なギャグ系とか」
 アンパンをかじりながら、クルミはスマホとにらめっこを続ける。

「でもなー、先輩と楽しめる映画って……」
「俺はいいんだよ。アクションもミステリも、重めのドキュメンタリーもだいたい分かるから」
「さすが趣味人ッスね」

 とはいえ、ラインナップにミステリはなかった。

 アクションも政治がからんだ作品で小難しい。しかも続編という間の悪さだ。



「ん、これは」
 一本の作品に、クルミは釘付けになった。



『ヤンデレJKに愛されすぎて安らかに眠れない』



 よりにもよって、クソカルト向きのホラー映画である。


「あーそれは、あんまりオススメじゃないらしいけど」

 狙ってないのにB級になった作品は名作と謳われるが、狙った系B級ホラーほど見苦しい作品はない。
 しかも邦画であるため、たちが悪いこと必至だ。

「これがいいッス。主人公JKだし」
「そのJKがスラッシャーになる話だぜ?」


「スラッシャーってなんスか?」



 しまった。専門用語が出てきてしまったか。


「ホラー作品の殺人鬼のことだ。チェーンソー持ってるやつとか。この映画は、いじめに耐えきれず自殺したヒロインがスラッシャーになって蘇る話なんだよ」

「めっちゃ面白そうじゃないッスか」
 なぜそこまで興味津々なのか、理由が知りたいよ。

「貴重なGWの時間を使ってまで、見る映画ではないと思うが」

「これにするッス。一番上映時間が早いし」

 クルミは、譲らないらしい。

「メシが食えなくなっても、知らないからな」

 映画館へ向かい、チケットを購入した。


 ポップコーンと炭酸ジュースを手に、上映を待つ。


「楽しみッスね」
「こんな映画じゃなければな」

 いよいよ、俺たちの初デートが始まる。
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