上 下
7 / 48
第一章 ウザい後輩に弱みを握られ、交際を迫られた。

ウザ後輩と、メッセアプリ 1

しおりを挟む
 スーパーで買い物を終えて、一軒家に帰る。

「ただいま、チヒロ」

「おかえりお兄ちゃん」
 リビングから、妹のチヒロがトテトテと走ってきた。靴下でブレーキをかける。中学の制服のままだ。顔が幼い上に背も低い。何度、小学生と間違えられたか。言動も、まだあどけなさが残る。

「お前も今帰ったところか?」
「そう。部活上がり」
 チヒロがニコニコと返答した。
「今日は、モンスターの名前をつけるゲームで遊んだよ」
 妹は、アナログゲーム同好会に入っている。

「楽しかったか?」

「うん!」
 元気よく、チヒロはうなずく。

「親父とお袋は?」
「また遅くなるって。お風呂湧いてる」

「ありがとな。チヒロが先に入ってろよ。その間にメシを作る」
 エコバッグを二つテーブルに置いて、俺はエプロンをした。食材を一つ一つ、袋から出す。

「ありがとうな。今日はいいから風呂に入ってきな」

「分かった。ゴハンを作っている間、可愛い妹の入浴シーンを妄想してて」
「しねえから。早くいけ」
「はーい」
 トテトテと、チヒロは浴室へ向かう。

「なんで、俺の周りにはヘンタイばっかりが集まってくるのかねえ……」

 ニンジンの皮をピーラーで剥く。

 早速、メッセアプリが起動したぞ。

[せーんぱいっ]
 案の定、送信相手はクルミだ。スルーしたい。

[何してます? あたし、ゴハンまだなんでお腹がペコちゃんです]

 調理のタイミングでその発言とは。どこの貿易商だよ。

[メシの支度中。ていうか、風呂でも入ってろ]
[もう入っちゃいました]

 画像には、バスタオル以外身につけていないクルミの画像が。

「ブーッ!」
 危うく、ピーラーで手の皮を剥くところだった。

「お兄ちゃん、どうしたの?」
 大慌てで、妹が走ってくる。脱いでいる途中だったのか、キャミソール一枚でこっちを見た。

「ななな、なんでもねえ。いいから入ってろ。風邪引くぞ」

「はーい」
 また、妹は風呂場へ。

 足を組んでベッドに座るクルミの画像には、こう書かれている。

[オカズになさっても構いませんよーゲヘヘ]
 悩ましげな瞳で、クルミはこちらを覗き込んでいた。見た目は美少女なのだが、文面はただのスケベオヤジだ。

[今まさに、オカズを作ってるところだよ]

[なんと! 自分をオカズになさるので? まさか先輩にそんな女装趣味が!]

「してねーよ!」
 思わず、スマホに向けて怒鳴ってしまった。

 また、トテトテと足音が。

「お兄ちゃんどうしたの? すごい怒鳴り声が聞こえてきたけど」
 バスタオルをマントにして、全裸の妹がキッチンに顔を出す。兄に肢体を見せびらかすのを楽しんでいるのか?

「なんでもありません。ずぶ濡れで廊下を歩くんじゃありませんっ。ちゃんと拭きながら戻りなさい」

「はーいごめんなさーい」
 妹はちゃんとバスタオルを踏んづけて、廊下をすり足で拭き始める。いい子だ。



[筑前煮を作ってるんだよ。邪魔すんな]
 再び、メッセをクルミに送る。

[なぬ? お料理できるんスね]

 猫が『詳しく!』と受話器に叫んでいるスタンプが。

[てっきり、ご両親のお手伝い程度だと思ってたッス。エライッッス!]

[別に。簡単なものなら。今日の食事当番は俺なんだ]

 文章を返しつつ、鶏肉、椎茸、大豆、大根を鍋にぶち込む。

 好き嫌いの多い妹のために、俺は色々と試行錯誤していた。
 味付けを変えてみたり、肉の中に野菜を仕込んでみたり。
 おかげで、妹は豆腐は食えないが、豆腐ハンバーグは大好物になった。

[エラいッス。筑前煮って、チョイスが随分と渋いッスね]
 メッセが返ってくる。バスタオル一枚で腕組みをする写真同封で。いいから服を着ろ。

[あたし、料理ってダメなんスよー。魚が触れないッス]
 まあ、イマドキの女子なら魚はキツかろう。

[いきなり攻めすぎだろ。カレーでいいのにな]

[ウチはカレーッス。いいニオイしてるッス。このスメルをおすそ分けしたいッスね。クンカクカ]

 何の匂いを嗅いでるんだよ?

[手際いいッスね?]

[手順も味付けも適当だ。ほめられたもんじゃない。言うほど上手じゃないぞ。さっきから誰かさんがメッセで話しかけてくるから、鶏肉を焦がしたしな]
[ふてえヤロウッスね。とっちめてやりましょッス]
[お前だよ]


 本格的に料理が得意なヤツが見たら卒倒しそうな手際だろう。
 だが、ちゃんとしすぎると料理自体が嫌になる。
 
 だから、俺は妹のヘタクソ料理にも愚痴をこぼさない。
 作ってくれただけでうれしいのだ。
 
 おいしくいただきたいなら、手伝えばいいだけ。
 手順なんて知るか。
 ガチの丁寧さを求められる料理なんて、経験上ではスイーツくらいだ。

[いいなぁ、先輩手作りのゴハンかー。超ウマイだろうなー]
 メッセージつきの写真の中で、クルミは腹を押さえている。
[写真くださいッス]
[ほらよ]
 でき上がった筑前煮を、カメラに収める。

[うっわー。おいしそーッス! 妹さんがうらやま]
[食いたいか? 適当オブ適当だぜ]
[愛する先輩が作ってくれたってだけで、ゴハン三倍いけるッス]


[わかった。じゃあ作ってきてやるよ]

 突然、メッセが沈黙した。

 その間に味付けを。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夜の公園、誰かが喘いでる

ヘロディア
恋愛
塾の居残りに引っかかった主人公。 しかし、帰り道に近道をしたところ、夜の公園から喘ぎ声が聞こえてきて…

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

恋人の水着は想像以上に刺激的だった

ヘロディア
恋愛
プールにデートに行くことになった主人公と恋人。 恋人の水着が刺激的すぎた主人公は…

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

処理中です...