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第一章 ウザい後輩に弱みを握られ、交際を迫られた。
ウザ後輩と、生徒会 1
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始業式の後、オレは生徒会で会議があった。
といっても、カンタンな挨拶のみだが。
長机の周辺に、生徒会の面々が着席していた。新一年生の顔ぶれもある。
背中まで伸びたロングヘアの女性が、立ち上がった。
他の生徒も立ち上がり、深く黙礼をする。当然、俺もだ。
「新一年生学年代表、及び各クラス委員の皆様、ようこそ生徒会へ。生徒会長の二年A組、斉藤 杏です。よろしくおねがいします」
中央を陣取っているのが、我らが山法師高校の誇る美少女、斉藤アンズ会長である。
一年から生徒会長をしている最強生徒会長、鋼鉄の乙女、笑わない女など、様々な呼び名があった。
が、もっとも名高いのは、「大企業の社長令嬢」という点だろう。世界にすら轟く富豪の家柄であり、実業団の中で斉藤グループを知らない者はいない。
だが、俺の関心は別にある。
アンズ会長の存在感すら消し去ってしまう逸材が、俺の向かいに座っているからだ。
「どうしました、書記さん? あなたの番ですが?」
会長から、声がかかった。
「あっ、すんません!」
自分が自己紹介をする番なのを忘れ、慌てて立ち上がる。
「二年C組の、壇 陸斗です。生徒会では書記を務めます。といっても、仕事はもっぱら、力仕事と生徒のボディガードですが。アハハ」
精一杯のギャグを言ってみたつもりだ。
しかし、生徒のウケは悪かった。
上級生ですら、オレと目を合わせようとしない。
先輩方よ、そんなんでいいのかよ?
私立山法師高校は、県内でもそれなりの進学校だ。スポーツなどは弱小だが、文化系には力を入れている。
それゆえか、内向的な生徒が多い。
俺のような見た目ヤンキーの生徒は、怖がられるのである。
三年生が挨拶をしているが、誰も大きな役職についてない。
学業を優先するためだ。
「では、一年生代表、ごあいさつを」
「はい」
聞き覚えのある声で返事をして、少女は立ち上がった。
「斉藤 久留実です。姉の杏には遠く及びませんが、末永くよろしくお願い致します」
頭を下げ、再び着席する。
当たり障りのない『ごあいさつ』だった。とても昨日、俺をおちょくりに来た少女と同一人物とは思えない。
優等生モードである以上、「○○ッス」というふざけた口の利き方なんて絶対にしないだろう。
他の新メンバーたちが挨拶する中、俺はクルミに注意を向ける。
だが、クルミはこちらに視線を向けようとしない。
「おい、どうしたんだよ、リクト」
隣にいる友人が、ヒジで俺を小突く。クラスメイトの大杉 誠太郎だ。
「さっきから下級生にばっか目線が行っているぞ。気になるのか?」
誠太郎が、手持ちのメモ帳を出す。彼の手帳は、本校生徒の情報が満載なのだ。
「斉藤クルミが気になるなら、情報をくれてやろうか?」
「そんなんじゃねえから。心配ない」
「だといいが」
大杉はメモ帳を引っ込めた。
「副会長、私の妹に何か?」
アンズ生徒会長の鋭い視線が、こちらに飛んでくる。
「いえ、何もー」
誠太郎がすっとぼけた。
「では書記さん、何か質問があるのですか?」
アンズ会長が、冷淡に問いかけてくる。
「こ、今年は……に、賑やかになりそうだな、と話していただけです」
「当然です。毎年そうでしょう?」
「そうでもないっすよ」
正直な感想を、アンズ会長に放つ。
ぶちゃけ、本校は二年連続で定員割れを起こしている。
理由は「雰囲気のつまらなさ」であった。
学業を最優先させてしまったため、ありとあらゆる学校行事が犠牲となっている。
学校の放心に呼応するように、生徒のモチベーションもだだ下がり気味だ。
学校行事にも消極的な点も、最近問題視された。
「文化祭でも、図書館にへばりついていた生徒が多発したじゃん」
「ですから、今年は文化祭の時期には、図書館を閉鎖する予定です」
一部生徒から、「えー」と声が上がる。
そこまで勉強したいかねぇ。
本気の話をすると、生徒会の仕事もやっつけだったりするのだ。「他人のことより自分のことを優先したい生徒を集めた学校」という印象を、他校から持たれているほどに。
大事な生徒会の仕事を一年から入った後輩に任せているのは、アンズ会長が優秀という点ももちろんある。しかし、「自分の勉学を優先させたいから」にほかならない。
「たしかに、毎年生徒のモチベーションが低下しているのは、由々しき事態。だからこそ、生徒に元気があるのはいいことです。我々は、そのありあまるパワーが暴走しないように心がけることです。山法師の生徒として、恥ずべき行為は慎むべきです」
この間、まさにあなたの妹様が若きエネルギーを持て余しやがりましたよ、って言ってやりたい! ああもう!
「そ、そうっすね。みなさん、気をつけましょう」
俺は周囲に笑顔をふりまいた……はずだ。
なのに、みんなが俺から視線をそらす。
なぜだろう。
虚しい、先輩にすらビビられる男子生徒って。
唯一、斉藤クルミだけは、俺を見据えていた。
「顔見せはこのくらいにしましょうか。では、今日は解散とします。お疲れさまでした」
解散となり、生徒たちが帰って行く。
アンズ会長が、全員が帰ったところを確認する。
残ったのは、会長と俺、誠太郎だけだ。
「はにゃああああああああああ~っ。つかれたああああああ」
先ほどの鉄の乙女っぷりは消え去り、アンズ会長は机に突っ伏し、ぐでぇーとなった。
といっても、カンタンな挨拶のみだが。
長机の周辺に、生徒会の面々が着席していた。新一年生の顔ぶれもある。
背中まで伸びたロングヘアの女性が、立ち上がった。
他の生徒も立ち上がり、深く黙礼をする。当然、俺もだ。
「新一年生学年代表、及び各クラス委員の皆様、ようこそ生徒会へ。生徒会長の二年A組、斉藤 杏です。よろしくおねがいします」
中央を陣取っているのが、我らが山法師高校の誇る美少女、斉藤アンズ会長である。
一年から生徒会長をしている最強生徒会長、鋼鉄の乙女、笑わない女など、様々な呼び名があった。
が、もっとも名高いのは、「大企業の社長令嬢」という点だろう。世界にすら轟く富豪の家柄であり、実業団の中で斉藤グループを知らない者はいない。
だが、俺の関心は別にある。
アンズ会長の存在感すら消し去ってしまう逸材が、俺の向かいに座っているからだ。
「どうしました、書記さん? あなたの番ですが?」
会長から、声がかかった。
「あっ、すんません!」
自分が自己紹介をする番なのを忘れ、慌てて立ち上がる。
「二年C組の、壇 陸斗です。生徒会では書記を務めます。といっても、仕事はもっぱら、力仕事と生徒のボディガードですが。アハハ」
精一杯のギャグを言ってみたつもりだ。
しかし、生徒のウケは悪かった。
上級生ですら、オレと目を合わせようとしない。
先輩方よ、そんなんでいいのかよ?
私立山法師高校は、県内でもそれなりの進学校だ。スポーツなどは弱小だが、文化系には力を入れている。
それゆえか、内向的な生徒が多い。
俺のような見た目ヤンキーの生徒は、怖がられるのである。
三年生が挨拶をしているが、誰も大きな役職についてない。
学業を優先するためだ。
「では、一年生代表、ごあいさつを」
「はい」
聞き覚えのある声で返事をして、少女は立ち上がった。
「斉藤 久留実です。姉の杏には遠く及びませんが、末永くよろしくお願い致します」
頭を下げ、再び着席する。
当たり障りのない『ごあいさつ』だった。とても昨日、俺をおちょくりに来た少女と同一人物とは思えない。
優等生モードである以上、「○○ッス」というふざけた口の利き方なんて絶対にしないだろう。
他の新メンバーたちが挨拶する中、俺はクルミに注意を向ける。
だが、クルミはこちらに視線を向けようとしない。
「おい、どうしたんだよ、リクト」
隣にいる友人が、ヒジで俺を小突く。クラスメイトの大杉 誠太郎だ。
「さっきから下級生にばっか目線が行っているぞ。気になるのか?」
誠太郎が、手持ちのメモ帳を出す。彼の手帳は、本校生徒の情報が満載なのだ。
「斉藤クルミが気になるなら、情報をくれてやろうか?」
「そんなんじゃねえから。心配ない」
「だといいが」
大杉はメモ帳を引っ込めた。
「副会長、私の妹に何か?」
アンズ生徒会長の鋭い視線が、こちらに飛んでくる。
「いえ、何もー」
誠太郎がすっとぼけた。
「では書記さん、何か質問があるのですか?」
アンズ会長が、冷淡に問いかけてくる。
「こ、今年は……に、賑やかになりそうだな、と話していただけです」
「当然です。毎年そうでしょう?」
「そうでもないっすよ」
正直な感想を、アンズ会長に放つ。
ぶちゃけ、本校は二年連続で定員割れを起こしている。
理由は「雰囲気のつまらなさ」であった。
学業を最優先させてしまったため、ありとあらゆる学校行事が犠牲となっている。
学校の放心に呼応するように、生徒のモチベーションもだだ下がり気味だ。
学校行事にも消極的な点も、最近問題視された。
「文化祭でも、図書館にへばりついていた生徒が多発したじゃん」
「ですから、今年は文化祭の時期には、図書館を閉鎖する予定です」
一部生徒から、「えー」と声が上がる。
そこまで勉強したいかねぇ。
本気の話をすると、生徒会の仕事もやっつけだったりするのだ。「他人のことより自分のことを優先したい生徒を集めた学校」という印象を、他校から持たれているほどに。
大事な生徒会の仕事を一年から入った後輩に任せているのは、アンズ会長が優秀という点ももちろんある。しかし、「自分の勉学を優先させたいから」にほかならない。
「たしかに、毎年生徒のモチベーションが低下しているのは、由々しき事態。だからこそ、生徒に元気があるのはいいことです。我々は、そのありあまるパワーが暴走しないように心がけることです。山法師の生徒として、恥ずべき行為は慎むべきです」
この間、まさにあなたの妹様が若きエネルギーを持て余しやがりましたよ、って言ってやりたい! ああもう!
「そ、そうっすね。みなさん、気をつけましょう」
俺は周囲に笑顔をふりまいた……はずだ。
なのに、みんなが俺から視線をそらす。
なぜだろう。
虚しい、先輩にすらビビられる男子生徒って。
唯一、斉藤クルミだけは、俺を見据えていた。
「顔見せはこのくらいにしましょうか。では、今日は解散とします。お疲れさまでした」
解散となり、生徒たちが帰って行く。
アンズ会長が、全員が帰ったところを確認する。
残ったのは、会長と俺、誠太郎だけだ。
「はにゃああああああああああ~っ。つかれたああああああ」
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