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第四章 因縁の地下遺跡へ

第32話 デカい敵

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 ソーニャさんは身体を腕で隠しながら、湯船の隅で縮こまっていた。
 対してキルシュは、グデーッと桶にもたれてリラックスしている。
 
 ソーニャさんが「謎の光」魔法を施してくれなかったら、見えちゃいけないところまで全開になってたところだ。
 一応ソーニャさんは、ボクにも光を当ててくれていた。
 
「バッカじゃないの、こいつ! マジでバカ!」

 出ようとしたソーニャさんだったが、ガッチリとキルシュにホールドされている。
 
「いいじゃーん。みんなで入ったら気持ちいいから~」

  キルシュは、楽しげだ。

「冗談じゃないわよ。この酔っぱらい、いきなりあたしをひん剥いて湯までお姫様抱っこしてきたのよ! 攻撃魔法なんて撃ったら、この家が壊れちゃうし、されるがままだったわ」

 ボクは身体を洗って、その場をやり過ごす。出てもよかったんだけど、「逃げんなよ~」とキルシュに釘を差されてしまった。
 
 エヘヘと、キルシュはなんにも悪びれず一人で桶の湯を独占する。と思ったら、グースカと寝てしまう。

「さあヒューゴ、今のうちに逃げるわよ」

「今は?」

「【スリープ】で眠らせた」

 キルシュはエラもあるから、水に沈んでも死ぬことはないらしいけど。

「お風呂に酸素ないでしょ」

「どのみち、天罰よ」

 あとは、ヴィクに迎えに来てもらうことにした。彼は人間の性別なんてないから、来てもらっても大丈夫だろう。

「わかった。それはそうと、ソーニャさん」

「なによ?」

 ボクは指で、ソーニャさんの状況を知らせる。
 
「いくら光を当てているからってさ、バスタオルくらいしてほしいかなって」

 自分が全裸だと、ようやくソーニャさんは気づいたらしい。絶叫とともに、お風呂場から脱出した。
 
 
 翌日、名残惜しくも長男夫婦と別れた。

「ふわあ、よく寝たなあ」

「なにを言っているのです。ワタシが湯船から出さなかったら、あのまま永眠でしたぞ」

「そうだっけ?」

 キルシュはあまり、昨日のことは覚えていないようだ。

「では、ゲネブカセイの山を目指しますよ」

 

 一ヶ月かけて、ゲネブカセイの山道に到着する。

 山近くの村で、休むことになった。
 ボクの故郷であるハリョール村とは違って、静かな村である。名産品も果物や、魔物の肉が中心だ。特に、この地方の魔物には、独特の特徴があるという。

 ギルドで、山岳のボスである【ギータ】討伐のクエストを受けた。

「さっそく山へ向かいましょう」

「はい……ってうわ!」

 山に入った途端、とんでもない現象に見舞われる。

 ゴブリンが、襲ってきた。しかし、その大きさときたら。

「オレたちよりデカいぞ!」

「ギータの瘴気を吸って、巨大化しているのです!」

 ゴブリンなのに、二メートルもある。まるでちょっとした巨人だ。

 そりゃあ、エルンスト王子が避けていくわけである。危険極まりないもんね。

「散りなさい! 全員で囲んで、倒すのです!」

 エレオノル王女が、指揮を執る。

 騎士団が散らばって、注意を分散させた。

 ザスキアさんが、弧を描くように飛ぶ。ゴブリンの首めがけて、刀を一閃。

 それだけで、ゴブリンが絶命した。
 
「この敵は?」

「ギソの実験体です」
 
 かつて、ギソはこの付近を根城にしていたらしい。数々の実験用の魔物が、未だに生息しているという。魔物たちの種類は大したことはないが、とにかく巨大だというのだ。

「まだ来ますよ!」

 ボクたちも、武器を取って戦う。

「大きいといっても、ゴブリンはゴブリンね」

 たしかに、腕力と耐久度が高いくらいで、本質はゴブリンと大差ない。
 対策は、元のゴブリンと同じでいいだろう。
 油断しないようにしつつ、慎重に対処する。

「いいねえ。斬り応えがあるよ!」

 キルシュは特に、うれしそうに大型魔物を狩っていた。

「イノシシも、こんなデカい! 持って帰って、焼いて食べよう!」

 ちょっとした小屋くらいある巨大イノシシを、キルシュは槍斧の一突きで撃退する。

「食べられるよね? ねえヴィク? こういった加工肉って、体に入れたらヤバいの?」

「人体には、問題ありません。ただイノシシなので、臭いかもしれませんが」

 肉質も、元のイノシシと変わらないだろうとのこと。 

「ウチらも、これを食べたらでっかくなったりするかな?」

「ありえません」

 巨大化はあくまでも、魔物たちの間で起きた現象らしい。

「なにかこっちに、魔物が降ってくる!」

 急降下する影を、セーコさんが空から見つけ出す。 

「コウモリが、あんなに大きいわ!」

 騎士団を翼で覆い尽くすほどのオオコウモリが、急降下してきた。

 だが、王女は微動だにしない。
 このままでは、王女が食べられてしまう。

 しかし王女自身も騎士団も、まったく意に介さなかった。

「肥大化した悪意よ、下がりなさい! 【セイントファイア】!」

 腰から、エレオノル姫が武器を引き抜く。刹那、武器の先端が火を吹いた。

 眉間を撃ち抜かれて、オオコウモリが盛大に吹き飛ぶ。そのまま、後ろに回転しながら落下した。ピクピクとケイレンした後、灰に変わる。

 杖かと一瞬思ったが、どうも違う。もっと別の武器だ。

 撃ち出された魔力弾も、大砲のような大きさじゃない。もっと小さく、矢のように鋭かった。しかし、矢よりも早く、威力が高い。
 
「姫様、その武器は?」

「これは、銃といいます。詠唱なしに、魔力の塊をそのまま撃ち出すのです」

 トリガーという場所を指で引くことで、溜め込んだ魔力を撃つ仕組みだという。
 ヘッテピさんとは違うドワーフ族の間で、かつて使われていた武器らしい。王都シュタルクホンは、この銃という技術があったために栄えたと言っていいそうだ。


「それがあったら、ギータなんて楽勝じゃん。姫様」

「どうでしょうか。やってみなければ」

 エレオノル姫が、銃を構えた。

 眼の前にいる、敵に向かって。
 
 現れたのは、昆虫のような装甲で覆われた、四本足のドラゴンである。

 コイツが、ギータか。
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