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第四章 因縁の地下遺跡へ

第31話 故郷での宴

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 セニュト・バシュ遺跡へ向かう前に、一旦故郷へ戻ることに。

 ハリョール村では、長男夫婦が迎えに来てくれた。

「どうもみなさん。よくおいでくださいました。ですが、これだけの人数が、我が家に入りますかどうか」

「お気遣いなく。我々は、宿を取っておりますので」

 姫様は、宿屋を使うという。

「えーっ? 姫様、こっちで一緒に寝ないの?」

 キルシュが、エレオノル姫にダル絡みする。まだ一滴も飲んでいないのに。

「ムチャを言うな。キルシュ。お姫様などを村に泊めたら、この家が注目されてしまう。離れたほうが、この家主のためになるのだ」

 ザスキアさんが、キルシュをたしなめた。

「えーっ。風呂ぐらい、入ろーぜっ」
 
「宿でいただくんだから、自重しろ」

「メシ、ワンチャンッ」

 どうしても、キルシュは姫様とお話がしたいみたいである。

「わかりました。家主、今夜はこちらで宴をしたいと思います。準備はこちらでいたしますので、ムリを言って申し訳ないのですが」

「構いませんよ。コチラに寄るというお話はヒューゴから聞いていましたので」

 すでにバーベキューの準備を、始めているという。
 
 さすが我が長男だ。頼りになる。
 こういう性格だから、長男は村でも重宝がられていた。

「あの、ソフィーアお嬢様」

「お気になさらないで。こちらでお休みさせていただきますわ。今日のあたしはソフィーアじゃないわ。ただの町娘ソーニャとして振る舞うのでそのつもりで」

「わかりました。ソーニャさん」

 長男も、ソーニャさんの押しの強さにまいってしまったみたい。
 
 バーベキューが始まり、さっそくキルシュがウチの銘酒を肴に肉を食らう。

「姫様はぁ、カレシとかいないの?」

 キルシュが、さっきより遥かにダルい絡みを始める。

「今のところ、わたくしに縁談のお話は来ておりません。それより、兄のことが心配で」

「うーん。オトコっ気がないってのは、さみしいかい?」

「特に、困っておりません」

「もっと甘酸っぱいお話が、聞けると思ったんだけどなあ」
 
 キルシュが、首を傾げた。

「すいませんね。姫君よ。ずっと戦闘ばかりで、キルシュは世間話に飢えているのです」

 相棒のヴィクが、サポートに回った。彼は僧侶なのに、骨付き肉をしゃぶりつくしている。

 ここんところ、キルシュはずっと槍を振り回していた。先陣を切って、魔物を払う役割である。色っぽい話を聞きたがるのも、ムリはないのかな。

「しかも、ここの魔物は弱すぎて話にならないよ。魔物を避けて迂回するにも、かえって遠くなるし」

「じゃあ、早く出ていく?」

「でも、お酒は最高なんだよねえ」

 ボクが意地悪な質問を投げかけると、グラスを持ってキルシュはニヤッと笑った。

「ヒューゴ、この家のお酒、ちょっともらってってもいい?」

「いいよ。あのさ、キルシュっていくつなの?」

「一八歳。レベルは二〇を、超えてるけどね」
 
 やっぱり戦闘力では、キルシュがもっとも高いようだ。

「二人はさ、いくつになるの?」

「二人とも、もうすぐ一二歳だよ」

「じゃあ、愛とか恋とか、興味津々なんじゃないの?」

 キルシュが、意味深な言葉を投げかけてくる。

「ないよ。ボクは早く一人前になることが目標かな」

「あたしもね。祖父を追い抜かないと、祖父が安心して逝けないのよ」

 ボクたちの話を聞いて、キルシュがほっぺたをふくらませた。

「もっと人生を謳歌しませんか、二人ともさあ! 冒険ばかりが人生かーっ? もっとエンジョイしなよ」

「そういうあんたが、一番戦闘ゴリラじゃないの」

「そうだったー! ぐああああ。このまま戦闘狂として生きていく未来しか見えないー」

 なんかキルシュ、人生に絶望しているみたい。
 
「ここから遺跡までは、どれくらい距離があるんです?」

「順調に行けば、二ヶ月もあれば。ですが最悪、半年ほどかかります」

 なんでもエルンスト王子は、雪に見舞われたときに向かったらしく、かなりの足止めを食らったとか。
 
 とんでもない、道のりだな。

「雪がなくても、険しいゲネブカセイ山を越えていかなければなりません」
 
「なのでエルンスト王子は、かなり迂回したルートを選択なされたそうだ」

 王子は船を使って、大陸を遠出したという。

 雪の山を抜けるのは、得策ではないと考えたのだろう。

「現在、雪は収まっています。なので我々は、ゲネブカセイを抜けたいと思います」

「わかりました」

「ただ、ゲネブカセイ山には強力なモンスター、ギータが潜んでいます」

 ギータとは、ゲネブカセイ山を根城とする、ドラゴンだとか。

「それ込みで撃退していくので、ご協力お願いします」

 ルートも決定し、お風呂に入る。

 他の人たちは、みんな宿に泊まるらしい。

 ボクは一人で、桶の湯船を楽しむ。

 今日は騒々しかったなあ。今は一人で、至福の時間である。

「イヤッホー!」

「やめなさいっての!」

 そこに騒々しい二人の乙女が乱入してきた!

「キルシュ!? ソーニャさんまで」

 キルシュが、なにも身に着けない状態で現れた。両手に、ソーニャさんを抱きかかえて。

 ボクが桶から飛び出ると同時に、二人は桶にダイブする。
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