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第三章 狂乱の魔術師のダンジョン

第25話 ダンジョンの構造

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「はあはあ! もうイヤ! ヒューゴ! とっとと、七層への道を探すわよ!」

 ソーニャさんが、六層攻略中に音を上げる。

 キルシュの指摘通り、五、六層はガチで地獄だった。
 理不尽トラップ、難解な謎解き、マッピングを遮る暗黒地帯など、不快な仕掛けが盛り沢山である。
 強くはないがいやらしい敵を相手に、お金も貯まらず一向にレベルアップしない。
 四層で得ていたレベルの貯金が、あっという間に消費されていく。

「なにより、魔法禁止エリアの存在がヤバいわ! あたしのファミリアまで、引きこもってしまうなんて!」

 そう。『魔法禁止エリア』こそ、この階層を地獄たらしめる仕掛けだ。
 
 ある特定の場所に入ると、魔法が使えなくなるのである。
 魔法に頼っていたパーティでは、攻略が難しい。そのすぐ近くに、『魔法でしか開かない扉』があるせいで、さらに理不尽さが増す。
 ここを突破するには、かなり大きく迂回して、別のエリアからこの扉まで到着する必要がある。

 五層にも六層にも設置された仕掛けなのだが、ダンジョンを離脱する度に配置場所が微妙に変わる。しかも、五、六層は一日で一気に踏破しなければならない。日が変わると、ダンジョンの構造が再びリセットされるからだ。

「こっちの方が、ハズレなのでは!?」

「それ、攻略勢みんな言ってるよ」

 冒険者たちが、ハズレフロアに引きこもるわけだ。

「でも、一〇層はここよりもっとヤバいらしいよ」
 
「どうでもいいわ。とっととここを抜けて、最下層へ向かいましょ」

 ボクたちは、やっとの思いで六層を突破した。

 七層を一旦スルーして、八層で拠点を築く。これで、いつでも八層に戻れる。

「ほんじゃ、本命。七層で鍛えようか」

「はい。やろう」

 七層の敵は、強いけど倒しやすい。巨人やミニドラゴンなど、単純な攻撃ばかりする奴らばかりだ。気をつけないといけないのは、【レッサーデーモン】くらいだろう。奴らは集団で襲いかかる上に、仲間まで呼ぶ。四体以上で来られると、厄介だ。

「あいつら、魔法が効かないのよね」

「だからこそ、【マナセイバー】が活きてくる感じかな?」

 魔法が通用しない相手には、魔力を物理攻撃力に変換する【マナセイバー】が有効である。
 ソーニャさんは純魔……純粋魔法使いなので、肉弾戦は苦手だ。
 
「うわ。すっごいアイテムを手に入れたかも」

 炎の巨人を倒したボクは、幅広のグレートソードを手に入れた。

「やったね。【フレイムタン】じゃ~ん。それ」
 
 どうもこの剣は、フレイムタンという名前らしい。

「これって、どういう武器なの?」

「【ファイアソード】の上位互換だよ~っ。【ブレイズ】よりもっとすごい、【ファイアストーム】が出せるの」

 竜巻どころか、炎の嵐を巻き起こすらしい。

「ファイアストームの威力は、ファイアソードより低いんだよね。けど、敵全体に効果があるよ」

 炎の密度を下げた分、攻撃の範囲が広がるという。

「魔法を跳ね返す敵には、効果がないどころか、こっちに攻撃が行くわよ?」

「大丈夫。かき消されるだけだから」

 エンチャント能力も、六割アップするらしい。

「弱いザコ相手には、ファイアストームを。強いボス相手には、強化されたエンチャントで斬りかかるって作戦で使い分ける感じだね?」

「そうそう。わかってんじゃんヒューゴ~。かわいいのに頭もいいんだね~」

 キルシュが、ボクの首に抱きついてきた。
 
 フレイムタンで試し切りをしつつ、一旦帰ることにする。

 帰ってきて早々に、宿屋でソーニャさんがジンジャーエールを引っ掛けた。
 
「とにかく、魔法禁止エリアの攻略法を探さないといけないわ。とはいえ、肉体に頼るのはイヤなのよね」

 苛立ちをあらわにして、ソーニャさんがジョッキをテーブルにゴンと置く。
 肉体労働を嫌うソーニャさんにとって、五・六層は鬼門のようだ。

 最下層にも、魔法禁止エリアがあるらしく、めんどくさそう。

「でも、一〇層はいくら探しても、ギソは見当たらないのよね?」

「そうなんだよね。で、みんなが注目しているのが……」

「九層ってこと?」

 ボクが尋ねると、キルシュはうなずいた。

「うん。でも九層なんだけど、謎が多すぎてさ」

 なんと九層は、入口自体がないらしい。

「八層か、一〇層に行けば、なんとかなると思ったんだけど、入口が見当たらないんだよ」

「じゃあ、最下層にはどうやって行くの?」

「エレベーターがあるんだよね」

 八層からエレベーターに乗って、最下層に行ける。
 しかしエレベーターでは、九層へ降りられない。
 
「だから、ギソの潜伏先は九層でほぼ確定なんだよ」

 とはいえ、八層からも一〇層からも、入る余地がないという。

「ダンジョンができてしばらく経つけど、未だにこんな状態でさ。冒険者たちも、参ってるんだよね」

 焼いた手羽先を、キルシュはワシワシと食べる。

「おお、【テンパランス】のみなさんがお帰りになられたぞ!」

 宿屋の外が、やけに賑やかになった。

 その集団って、そんなに珍しいのか。

「テンパランスの面々かい? あっちにも、ずいぶんと稼がせてもらったぜ」

「知ってるの、ヘッテピさん?」

「ああ。王国の王女が仕切ってる、騎士団の皆さんだ」

 外に出て、騎士団の行列に目を向けた。

「あ!」

 騎士団の中に、ボクは見知った顔を見つける。
 先頭で、馬に乗っている人だ。

 どう見ても、ロイド兄さんとパーティを組んでいたロードの青年と同じ顔をしていた。
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