上 下
11 / 47
第二章 人妻ダークエルフ忍者と、旅立つ

第11話 オーク討伐へ

しおりを挟む
 依頼者はまだ、ボクの話を信じてくれていないようだ。
 
 ボクは依頼者を伴って、冒険者ギルドへ依頼書を届ける。

「ようこそ、ヴェスティの冒険者ギルドへ。受付のサクラです。えっと、ヒューゴさんですね? ご利用は初めて、と」

 受付を担当するのは、メガネのお姉さんだ。村にいた人とは違って、髪が黒い。

「この人の子どもが、オークに連れて行かれちゃったそうなので、助けに行きます」
 
 オーク討伐の依頼を、受諾すると告げた。

「セーコさん。ホントにこの子たちが、オーク討伐の依頼を受けると?」

 サクラさんは最初、メガネを何度も直す。

「本当さ。この二人だけで、やっちまえるよ」

「まさか。あなたが行くならわかりますよ? でも、こんな小さな子が」

 サクラさんに続き、依頼者の女性も首を縦に振る。

「ギルドカードを確かめてみな」

「はい……」

 セーコさんに言われるまま、サクラさんはペンのような小さい杖をギルドカードにかざした。
 カウンターの上にある白い紙に、ボクの功績が書き記されていく。『自動書記』という魔法である。

「!?」

 自動書記の動きが止まって、サクラさんが驚愕した。
 
「しょ、承知しました。いってらっしゃいませ」

 報告書を確認し、無事依頼はボクのモノとなる。
 
「あの、お待ちください。危険ではありませんか! この子たち、ウチの子と同じくらい小さな子どもなのに」

 やはり依頼者は、ボクたちがまだ年端もいかない子どもだと思っているらしい。
 
「ご安心を。ヒューゴさんたちには、一応これだけの実績があります」

 受付のお姉さんが、冷静に報告書を依頼者に示す。
 
「……っ! オークチャンピオンを撃退!?」

 依頼者が、口を抑えた。

 他の冒険者たちも、立ち上がる。

「ほっとけよ。どうせ、セーコに手伝ってもらったに決まってる」

 一人の冒険者が、ざわつく周辺を落ち着かせようとした。チンピラ風の男性で、明らかにボクたちを見下している。

「いや。今回私は同行するが、手伝わないよ。彼らの腕を、見せてもらうだけだ」

 セーコさんが首を振った。
 ボクたちも、手伝ってもらおうなんて思っていない。

「この子たちなら、オークロードくらい軽く打倒できるだろうさ」

「バカ言うな。冒険者の大人が二人がかりで、やっと倒せる相手だってのに」

「冒険者もヘタれたもんだね」

「なんだと!?」

 チンピラ風の冒険者は、ボクたちに殴りかかろうとした。脅しのつもりだったのだろう。

 だが、ボクたちは微動だにしない。まっすぐ拳を見据えて、反撃の機会をうかがう。

「どうしたの? 止まって見えるわよ」

 ボクが動く前に、ソーニャさんが相手の懐に飛び込んでいた。下アゴへ的確に、杖の先を向けていた。

 氷魔法で気管を塞いでも、人は簡単に殺せてしまう。

 そう、ボーゲンさんからは教わっていた。実践までは、したことないけど。

 相手を見下さず、油断さえもせず、ソーニャは明確な殺意を向ける。そっちがやるのなら、こちらも手加減はしないぞと、無言で。
 
 冷や汗をかいて、チンピラ冒険者は拳を引っ込めた。「チッ」と舌打ちをして、元の席に戻る。
 
「では、行ってきます。お子さんは、必ず生きて返しますので」

「お願いします」


 ボクたちは街を出て、オークの棲む森へ急いだ。
 オークの巣は、森の奥にあった。

「子どもたちが、無事だといいけど」

「心配ない。オークは子どもを食ったりはしないよ。むしろオークは、子どもを人質にして女を要求するのさ。自分の子種を植え付けるために」

 セーコさんから話を聞いて、ソーニャさんが露骨に嫌な顔をした。
 
「ひどい……最低な奴らね」
 
「そんなひどいことをするのは、オークロードくらいさ。それくらいのヤツが湧くとはねえ。とはいえ、あんたらの話を聞く限りだと、問題なさそうだ」

 今回セーコさんは、ホントに見守るだけだ。戦闘は、ボクたちに任せてくれるという。

「しくじってもいい。フォローは入れてやるから。思い切ってやりな」

「はい。手加減はしません」

「その意気だ。来るよ!」

 森の気配が、急にざわつく。
 
 オークが、襲いかかってきた。

「気を付けてソーニャさん!」

「誰に言ってるの、って!」 

 まずは、ソーニャさんがオークたちの呼吸を、氷魔法で止める。魔物相手なら、ソーニャも容赦はしない。

「今よ、ヒューゴ!」

 そのスキに、ボクが剣でオークたちをロングソードで斬っていった。
 ゴブリン戦で手に入れたショートソードと違って、すごくよく切れる。

  ソーニャさんも、杖を棍棒代わりにして、オークを殴った。女性に危害を加える敵に、情をかけない。

「ソーニャさん、後ろ!」

 木陰に隠れていたオークが、ソーニャさんに抱きついた。

「ゲヒヒ! 捕まえた!」

「わざと捕まったのがわからないなんて、ねっ!」

 ソーニャさんが、オークの親指を捻り上げる。同時に、カカトでオークの足刀も踏んづけた。

「ぐひい!」

 前かがみになったオークのアゴへ、氷で固めた拳を叩き込む。

「ぎゃいーん」

 オークが、昏倒した。

「背中に汗がついた! もお、気持ち悪いのよっ!」

 気絶したオークの顔面を、ソーニャさんは蹴り上げる。 

「すごいね。ソーニャさん。その護身術、セーコさんの教えている技だよね? いつの間に?」

「今朝、道場までジョギングしに行った際に、教わったのよ」

 ソーニャさんは純粋な魔法使いだから、格闘術なんて興味がないと思っていたけど。

「子どもたちを探そう!」

「ええ。こっちね」

 子どもたちの気配を、ソーニャさんが使い魔ファミリアを使って探知した。

 白く光る綿毛が、森の奥へと向かっていく。

 追手を斬り捨てながら、ボクたちは森の奥へと進んだ。

「いた!」

 木製の檻に入れられた子どもたちを、発見する。

 ボクは剣技で檻の錠を破った。

「セーコさん、お願いできますか?」

「任せな……あんたらは、気をつけるんだ」

 森の奥が、騒がしい。

「オークチャンピオンをやったのは、テメエか!」

 赤黒いオークが、森の奥から現れた。ザコオークが豚の頭を持つ亜人だとすると、オークロードは角の生えたイノシシを思わせる。

「セーコ! 冒険者をやめてなかったんだな!」

「私は、この子たちを見てやっているだけだよ。手出しはしないから、安心しな」

「グヘヘ。お前になくても、こっちには用があるんだよ! これを見ろ!」

 オークロードが、すぐそばにある木に声をかけた。

 セーコさんの子どもが、オークに捕まっている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ユウ
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

来訪神に転生させてもらえました。石長姫には不老長寿、宇迦之御魂神には豊穣を授かりました。

克全
ファンタジー
ほのぼのスローライフを目指します。賽銭泥棒を取り押さえようとした氏子の田中一郎は、事もあろうに神域である境内の、それも神殿前で殺されてしまった。情けなく申し訳なく思った氏神様は、田中一郎を異世界に転生させて第二の人生を生きられるようにした。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

王太子さま、側室さまがご懐妊です

家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。 愛する彼女を妃としたい王太子。 本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。 そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。 あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。

全てを奪われ追放されたけど、実は地獄のようだった家から逃げられてほっとしている。もう絶対に戻らないからよろしく!

蒼衣翼
ファンタジー
俺は誰もが羨む地位を持ち、美男美女揃いの家族に囲まれて生活をしている。 家や家族目当てに近づく奴や、妬んで陰口を叩く奴は数しれず、友人という名のハイエナ共に付きまとわれる生活だ。 何よりも、外からは最高に見える家庭環境も、俺からすれば地獄のようなもの。 やるべきこと、やってはならないことを細かく決められ、家族のなかで一人平凡顔の俺は、みんなから疎ましがられていた。 そんなある日、家にやって来た一人の少年が、鮮やかな手並みで俺の地位を奪い、とうとう俺を家から放逐させてしまう。 やった! 準備をしつつも諦めていた自由な人生が始まる! 俺はもう戻らないから、後は頼んだぞ!

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

【書籍化決定】神様お願い!〜神様のトバッチリを受けた定年おっさんは異世界に転生して心穏やかにスローライフを送りたい〜

きのこのこ
ファンタジー
突然白い発光体の強い光を浴びせられ異世界転移?した俺事、石原那由多(55)は安住の地を求めて異世界を冒険する…? え?謎の子供の体?謎の都市?魔法?剣?魔獣??何それ美味しいの?? 俺は心穏やかに過ごしたいだけなんだ! ____________________________________________ 突然謎の白い発光体の強い光を浴びせられ強制的に魂だけで異世界転移した石原那由多(55)は、よちよち捨て子幼児の身体に入っちゃった! 那由多は左眼に居座っている神様のカケラのツクヨミを頼りに異世界で生きていく。 しかし左眼の相棒、ツクヨミの暴走を阻止できず、チート?な棲家を得て、チート?能力を次々開花させ異世界をイージーモードで過ごす那由多。「こいつ《ツクヨミ》は勝手に俺の記憶を見るプライバシークラッシャーな奴なんだ!」 そんな異世界は優しさで満ち溢れていた(え?本当に?) 呪われてもっふもふになっちゃったママン(産みの親)と御親戚一行様(やっとこ呪いがどうにか出来そう?!)に、異世界のめくるめくグルメ(やっと片鱗が見えて作者も安心)でも突然真夜中に食べたくなっちゃう日本食も完全完備(どこに?!)!異世界日本発福利厚生は完璧(ばっちり)です!(うまい話ほど裏がある!) 謎のアイテム御朱印帳を胸に(え?)今日も平穏?無事に那由多は異世界で日々を暮らします。 ※一つの目的にどんどん事を突っ込むのでスローな展開が大丈夫な方向けです。 ※他サイト先行にて配信してますが、他サイトと気が付かない程度に微妙に変えてます。 ※昭和〜平成の頭ら辺のアレコレ入ってます。わかる方だけアハ体験⭐︎ ⭐︎第16回ファンタジー小説大賞にて奨励賞受賞を頂きました!読んで投票して下さった読者様、並びに選考してくださったスタッフ様に御礼申し上げますm(_ _)m今後とも宜しくお願い致します。

処理中です...