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第一章 一攫千金を夢見て旅立った兄が、病んで帰ってきた
第6話 兄が、病んで帰ってきた
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兄ロイドが、冒険から帰ってきた。
しかし、出発当時とは別人になっている。
冒険に出た当時に比べると、覇気がまるでない。
「おかえりなさい、ロイド兄さん」
呼びかけにも、応じなかった。
かなり、憔悴しきっている。
「ロイド、ヒューゴが呼んでいるだろう」
「ああ、ヒューゴか。すまん、兄貴」
長男が声をかけて、ようやくこちらに気付いたみたい。
「何があったんだ? 父さんも母さんも、心配していたんだぞ。連絡もよこさないって」
「ああ、遺跡の財宝は、見つかったんだ」
ロイド兄さんは、恐る恐る語りだす。
「当時は、複数のグループと共同で探索をしていたんだ。ところが、財宝が見つかった途端に、仲間割れを起こしてな」
「そりゃあ、とんでもない財宝を目にしたら、みんな目の色を変えるだろう」
「違う、同じグループ同士でだ!」
木のテーブルに、ロイド兄さんが拳を叩きつける。
財宝を見つけた矢先、同士討ちが始まったそうだ。
「なにが起きたのか、わからなかった。リーダーに、騎士がいただろう? あいつだけが正気だったから、二人で逃げた。財宝もほったらかして、必死で走ったよ」
だが、その騎士も仲間に見つかってしまった。
騎士はロイド兄さんを逃がすため、一人で遺跡に残ったらしい。
「そのリーダーは?」
ロイド兄さんは、首をふる。
騎士さんの生死は不明らしい。背中から斬られたから、生きてはいないだろうと。
現在、その遺跡は封鎖されたという。
単なる報告に、一ヶ月以上もかかったそうだ。
「オレは、どうすればよかったんだ! もうたくさんだ! あんな事が起きるなんて!」
「いや。わからんでもない」
ボーゲンさんによると、遺跡の宝には、泥棒よけの呪いがかかっていることもあるそうだ。
「お前さんが見たリーダーも、もしかすると助かっているかもしれん」
防犯の呪いの中には、同士討ちのフェイクを見せることもあるそうだ。遺跡に入った人間の記憶を操作して、同士討ちと見せかけて、実際はスケルトンが動いているだけ。そういう幻覚を見せるタイプの、呪いもあるという。
「お前さんはトラップよけのスキルを持ち、あのリーダーは神から加護を受けていた。だから助かったんだろうね」
それでも、同士討ちまでは看破できない。他の仲間はまんまと引っかかり、パニックになってしまった。
「仲間の命を奪っただけじゃない。オレは、自分の恋人にだって、矢を向けた」
兄さんが、自分の手を見つめている。一番、辛かった思い出だったんだろう。
「報告に行っても、オレが犯人扱いされた! 財宝を独り占めしようって企んだんだろう、って!」
「あの遺跡のある地点は、閉鎖的な国家だからね」
ボーゲンさんが、酒を煽る。
「だから言ったのだ。不用意に遺跡探索には行くなと」
「オレは、どうすればよかったんだ?」
「行かねばよかった。それだけさ」
「ちくしょう……」
多くの仲間を失い、ロイド兄さんはうなだれていた。
「もう、冒険になんかいかねえ。なにもかも、嫌になった」
兄さんが、弱音を吐く。
ボーゲンさんが、ため息をついた。
「参ったね。これでは、社会復帰は当分無理そうだよ。ヒューゴ、ソーニャ。冒険者になる訓練は、おあずけだ」
「冗談じゃないわ。あたしは、まだあきらめていないわよ」
ボーゲンさんの言葉に、ソーニャ姫が反論する。
「ちゃんと両親にも、許可を取ってあるわ。ちゃんと勉強もするから、旅を許可してほしいって」
「だけど、ワシが同行できないならなあ」
ソーニャ姫が旅立つ条件は、ボーゲンさんが一緒にいること。
「ワシは、ロイドのカウンセリングをせねばならん。でなければ、ロイドの兄さんやご両親が、世話をすることになろう」
「我々は、構いませんよ。家族ですから」
「そういうわけにも、いかん。冒険者は一度冒険に出たら、もう独り立ちできねば。それに、ロイドの世話をするだけでも、ここに滞在させてもらっている恩を返すことにはなりませぬ」
「気にしないでください、ボーゲンさん。あなたがいてくれて、助かっている。ゴブリンの巣も、かなり湧かなくなりました」
「それは、ヒューゴたちの力があってこそ」
一年ばかりの間、ゴブリンの巣は、ボクたちが撃退している。湧いては叩き、湧いては叩いていた。そのおかげで、装備もかなり充実している。
といっても、ゴブリンはレアは落とさなくなってきた。
「相手と力量差がありすぎると、敵の戦力分析能力が落ちるから」とのことである。
「鍛えてくださったのはボーゲンさん、あなたです」
「そういってもらえると、助かるけどねえ」
どうしたものか、と、ボーゲンさんはひとりごつ。
「そうだ」と、ボーゲンさんが手をポンと叩く。
「どうせロイドの治療で、街に行くんだ。その街に、知り合いがいる。彼女と同行しなさい」
「どんな人なんです?」
「ソーニャの両親との繋がりで知り合った、ダークエルフだよ」
その人は、ソーニャ姫の両親をボディーガードしていた、元メイド長だという。
ソーニャ姫が生まれて、自分も結婚し、子どもができた。後を弟子たちにまかせて、引退したそうだ。
「その人と一緒なら、ソーニャの両親も安心するだろう。今から、会いに行こう」
しかし、出発当時とは別人になっている。
冒険に出た当時に比べると、覇気がまるでない。
「おかえりなさい、ロイド兄さん」
呼びかけにも、応じなかった。
かなり、憔悴しきっている。
「ロイド、ヒューゴが呼んでいるだろう」
「ああ、ヒューゴか。すまん、兄貴」
長男が声をかけて、ようやくこちらに気付いたみたい。
「何があったんだ? 父さんも母さんも、心配していたんだぞ。連絡もよこさないって」
「ああ、遺跡の財宝は、見つかったんだ」
ロイド兄さんは、恐る恐る語りだす。
「当時は、複数のグループと共同で探索をしていたんだ。ところが、財宝が見つかった途端に、仲間割れを起こしてな」
「そりゃあ、とんでもない財宝を目にしたら、みんな目の色を変えるだろう」
「違う、同じグループ同士でだ!」
木のテーブルに、ロイド兄さんが拳を叩きつける。
財宝を見つけた矢先、同士討ちが始まったそうだ。
「なにが起きたのか、わからなかった。リーダーに、騎士がいただろう? あいつだけが正気だったから、二人で逃げた。財宝もほったらかして、必死で走ったよ」
だが、その騎士も仲間に見つかってしまった。
騎士はロイド兄さんを逃がすため、一人で遺跡に残ったらしい。
「そのリーダーは?」
ロイド兄さんは、首をふる。
騎士さんの生死は不明らしい。背中から斬られたから、生きてはいないだろうと。
現在、その遺跡は封鎖されたという。
単なる報告に、一ヶ月以上もかかったそうだ。
「オレは、どうすればよかったんだ! もうたくさんだ! あんな事が起きるなんて!」
「いや。わからんでもない」
ボーゲンさんによると、遺跡の宝には、泥棒よけの呪いがかかっていることもあるそうだ。
「お前さんが見たリーダーも、もしかすると助かっているかもしれん」
防犯の呪いの中には、同士討ちのフェイクを見せることもあるそうだ。遺跡に入った人間の記憶を操作して、同士討ちと見せかけて、実際はスケルトンが動いているだけ。そういう幻覚を見せるタイプの、呪いもあるという。
「お前さんはトラップよけのスキルを持ち、あのリーダーは神から加護を受けていた。だから助かったんだろうね」
それでも、同士討ちまでは看破できない。他の仲間はまんまと引っかかり、パニックになってしまった。
「仲間の命を奪っただけじゃない。オレは、自分の恋人にだって、矢を向けた」
兄さんが、自分の手を見つめている。一番、辛かった思い出だったんだろう。
「報告に行っても、オレが犯人扱いされた! 財宝を独り占めしようって企んだんだろう、って!」
「あの遺跡のある地点は、閉鎖的な国家だからね」
ボーゲンさんが、酒を煽る。
「だから言ったのだ。不用意に遺跡探索には行くなと」
「オレは、どうすればよかったんだ?」
「行かねばよかった。それだけさ」
「ちくしょう……」
多くの仲間を失い、ロイド兄さんはうなだれていた。
「もう、冒険になんかいかねえ。なにもかも、嫌になった」
兄さんが、弱音を吐く。
ボーゲンさんが、ため息をついた。
「参ったね。これでは、社会復帰は当分無理そうだよ。ヒューゴ、ソーニャ。冒険者になる訓練は、おあずけだ」
「冗談じゃないわ。あたしは、まだあきらめていないわよ」
ボーゲンさんの言葉に、ソーニャ姫が反論する。
「ちゃんと両親にも、許可を取ってあるわ。ちゃんと勉強もするから、旅を許可してほしいって」
「だけど、ワシが同行できないならなあ」
ソーニャ姫が旅立つ条件は、ボーゲンさんが一緒にいること。
「ワシは、ロイドのカウンセリングをせねばならん。でなければ、ロイドの兄さんやご両親が、世話をすることになろう」
「我々は、構いませんよ。家族ですから」
「そういうわけにも、いかん。冒険者は一度冒険に出たら、もう独り立ちできねば。それに、ロイドの世話をするだけでも、ここに滞在させてもらっている恩を返すことにはなりませぬ」
「気にしないでください、ボーゲンさん。あなたがいてくれて、助かっている。ゴブリンの巣も、かなり湧かなくなりました」
「それは、ヒューゴたちの力があってこそ」
一年ばかりの間、ゴブリンの巣は、ボクたちが撃退している。湧いては叩き、湧いては叩いていた。そのおかげで、装備もかなり充実している。
といっても、ゴブリンはレアは落とさなくなってきた。
「相手と力量差がありすぎると、敵の戦力分析能力が落ちるから」とのことである。
「鍛えてくださったのはボーゲンさん、あなたです」
「そういってもらえると、助かるけどねえ」
どうしたものか、と、ボーゲンさんはひとりごつ。
「そうだ」と、ボーゲンさんが手をポンと叩く。
「どうせロイドの治療で、街に行くんだ。その街に、知り合いがいる。彼女と同行しなさい」
「どんな人なんです?」
「ソーニャの両親との繋がりで知り合った、ダークエルフだよ」
その人は、ソーニャ姫の両親をボディーガードしていた、元メイド長だという。
ソーニャ姫が生まれて、自分も結婚し、子どもができた。後を弟子たちにまかせて、引退したそうだ。
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