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3-4 ダイキ VS LO【ハメルカバー】 リアル魔リカー対決!

決着、カリダカレース!

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「罵声だけで、嵐を止めやがった」
 信じられないものを見る目で、ネウロータくんが呆然となる。

「あんなポテンシャルがあったのね? 感心したわ、ヨアン!」
 マミちゃんも、ヨアンさんの本当の力を知って驚いていた。

「でも、まだ何も終わっていない」
 チサちゃんが、杖を握りしめる。

 そうだ。嵐が過ぎ去っただけ。

 ここからは、言い訳無用のガチ勝負である。

「仕切り直しじゃ。ダイキ」
 ソーが、再び多脚戦車・ハメルカバーと化した。

「うん」と返し、ボクとチサちゃんはハチシャクに乗り込む。

 まだ濡れている髪を振り乱し、セーラさんがギターをかき鳴らす。
「よし。問題ない」
 チューニングを確認し、セーラさんはソーに発進を促した。

 ハチシャクのエンジンも申し分ない。

 二台は、同時にスタートする。 

 ボクら含め、レースに復帰できたメンバーはごく一部だ。
 
 他のドライバーは、まだ体勢を立て直せていない。それだけ激しい嵐だった。

 ラストは半周である。それでも長丁場だ。一瞬でさえ、永遠に感じる。

 多脚戦車が放つ電撃をかわした。ボクたちも爆弾で応戦する。

 じゅうたん型のコーナーへ突入した。

「おお⁉」
 ボクたちはじゅうたんへ渡らず、脇の壁を攻略した。
 柔らかいコースでは、減速せざるを得ない。しかし硬い路面があれば。

「考えたのう、ダイキ! じゃが、ここはカーブじゃ! 路面は途切れとる!」

「それはどうだろう?」
 ボクは、ハチシャクの足元に爆弾を置いた。正確には、自分の背面に。

 背後で盛大に、爆発が起きる。範囲にいるドライバーまで巻き込む厄介なアイテムだ。よって、ソーも遅れを取る。

 爆風を利用して、ボクは隣の壁に着地した。同じことを、三連続で繰り返す。

「そんな切り抜け方があったやとぉ⁉」
 大きく離されたソーが、驚愕している。

 このテクニックは、運転スキルを極振りしなければ思いつかなかった。

「お前、戦闘も全部捨てて、極振りしたな!」
 カーブを正攻法で切り抜け、ソーが追いついてくる。

「限界突破だ、ソーッ!」
「ハデにやったらぁ!」
 もはや生物ではない動きで、ソーが追いかけてきた。爆風を浴びたダメージなどものともせず。

 あとは直線のみ。

「これで一対一だ」
「おう、男同士の戦いじゃ!」

 ボクたちが、横一線になる。 

「それはどうでしょうか?」

 突然、ボクたちの間にセイさんが割り込む。さすが魔王に最も近いと言われた、最強のLOだ。

「なんじゃとぉ⁉」
「伝説のLO、セイ・ショガクか。相手にとって不足はない!」

 セーラさんのギターが激しくなる。

 わずかながら、ボクはハメルカバーに離されそうになった。

「ダイキ、大丈夫」
 チサちゃんが、ボクの手に自分の手を添える。

 ヨアンさんとククちゃんが、窓の向こうに見えた。ふたりとも、祈るようにボクたちを応援してくれている。


「自分のためじゃない。誰かのために走れるダイキは、最速」


 チサちゃんの言葉を受けて、ボクはハチシャクとひとつになった。

 ハンドル、アクセルを伝って、ボクはハチシャクと同化したのがわかる。比喩じゃない。本当に一体化したんだ。

 わずかながら、ルチャの残留思念に触れた。

「な、なんだって? あの娘を止めてくれ……ってどういう?」

 それを聞き、ボクはやはりトップにならなければと考える。 

 三人とも横一線状態になって、ゴールした。

 進行役のロイリさんが、チェッカーフラッグを振り回す。

 少し遅れて、マミちゃんとネウロータくんがゴールした。

 ボクは車を停める。もう、ぐったりだ。全身から汗が吹き出ている。

「ナイスファイトじゃ、ダイキ」

 ハメルカバーからロボット形態に戻ったソーが、握手を求めてきた。

 寝落ちしてしまいたい衝動を抑え込み、ボクは応じる。

「あなたも、よく燃料役を務めた。チサ殿」

「強かった。セーラ」
 チサちゃんは、セーラさんと握手していた。

『いやあスゲエナおい! まれに見る大嵐の中で繰り広げられた、世紀のレース! こいつは歴史に残るぜ!』

 ゼーゼマンが、場を盛り上げる。

 だが、判定が終わっていない。審議中のランプは、未だについたままだ。

『もうしばしまってくれよ。優勝は……』
 写真が表示される。

「あっ!」
 ボクは、声を上げた。

 わずか数ミリ差で、ボクたちはゴールを割っている。

「ダイキ・チサのペアだぜぇ!』

 やった。
 ボクはククちゃんとヨアンさん、二人を取り戻せたんだ。

「ありがとうございますわ!」
「ダイキさん!」
 両肩に、ククちゃんとヨアンさんが抱きついてくる。

「アハハ。よかったねふたりとも」
 これで文句ないだろ、ハメルカバーよ。ボクたちは実力で二人を自由にした。あとは、約束を果たすのみだ。

「ご心配には及びません」
 ボクが空を見上げていると、ヨアンさんの母親がボクの前に立って一礼をした。

「もう、神ハメルカバーの気配はありません。娘を助けてくださってありがとうございました」

「いえ。ヨアンさんのおかげでして」
「ヨアンには、亜神の力を分け与えておりましたので。ハメルカバーはそれを狙っていたのです」

 是が非でも亜神の力を手に入れて、再び支配者となろうとしていたらしい。

 往生際が悪かったわけだ。

 それにしても、ハチシャクから聞こえたあの声はなんだったんだろう?
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