底辺動画主、配信を切り忘れてスライムを育成していたらバズった

椎名 富比路

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第三章 姫とコラボで、またバズる

第19話 ピグ★まり ON AIRとの戦い

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 ボクはワラビを抱きしめ、女性冒険者から距離をおいた。

「ほんとにこの人が、ピグ★まりなのか?」

「彼女がピグまりで、間違いありません。マスターツヨシ。アルケミストには、独特のニオイがあります。魔力に若干、薬品臭さが残るのです」

 ワラビが、アルケミストの特徴を上げる。

「間違いないわ。この女が、ピグまり。おそらくこの姿は、カネシロ マリコのものよ」

 スマホで手配写真と相手を見比べながら、コルタナさんが確信した。

 センディさんも女性冒険者を撮影して、応援を呼ぶ。

 メイクも落として衣装も地味めにして、姿を偽っていたのか。正体を表したことで、あえて目立たなくしたと。

「はーあ。そこまでわかっちゃうかぁ。さっすが、ウワサのスライム使い」

 肩をダランと落として、ピグまりが杖を構えながら後ろへとんぼ返りした。

「バレちゃあ、しょうがねえな。ピグ★まり ON AIR、今夜もショータイム!」

 杖がトゲ付きのピコピコハンマーに変形し、女性の姿もピグまりのようなバンギャに変わる。ピグまりは、手からスマホドローンを飛ばした。背負っているブランド物のリュックから、アンテナが出ている。あれで操作しているっぽい。

「今日も張り切って、冒険者たちに迷惑かけちゃお。その方が、ピも喜ぶし!」

 これが、ピグまりか。悔しいが、上位配信者の風格が漂う。絶対にマネしようなんて、思わないけど。

「観念なさい、ピグまり。サマーヘイズの名において、あなたを拘束します」

 メイヴィス姫が、コンラッドを召喚する。

「あれー。異世界のお姫様が、スライムと手を組んだなんて」

「それはどうでもいいわ! ケガをしたくなかったら、おとなしく捕まって。ギルドに、あなたのバックをすべて白状なさい!」

「あんたらごときが、ウチに勝てると思ってんのか?」

 ピグまりが、あっかんべーをした。舌にピアスがある。痛そう。

「赤とグレーのオッドアイから、異様な魔力を感じます。なんらかの魔族と契約しているようですね」

 多分、その魔族というのが、ピグまりのいうカレシだろう。

「それだけ情報があれば、十分よ。あとは、どの魔族と契約しているか」

「はん。あんたら程度が、当てられっかなー?」

 ピグまりは、トラップゾーンに当たる毒の沼地までローファーを鳴らす。

「じゃあピグマリオンを呼び出すっきゃないね。おっきして、クレイゴーレム!」

 毒の沼地に、ピグまりはトゲハンマーを叩き込む。

 沼が、ゴーレムに変わった。毒を大量に含んでいるため、近づけない。

 これは、ボクが担当するしかなさそうだ。

「ワラビ、ローブに変わって」

「承知しました」

 ボクは、ワラビをローブに変えて、身にまとう。

「クレイゴーレムは、ボクが引き受けます。みなさんは、ピグまりをやっつけてください!」

「おう!」

 センディさんが先行して、ピグまりに斬りかかる。

 ピグまりはピコピコハンマーで、センディさんの剣戟を防ぐ。

「結構、強いじゃん。けどね!」

 ブランド物の黒いリュックから、マジックアームのような腕が伸びてきた。

「センディ! ファイアボール!」

 コルタナさんが魔法を放ち、マジックアームを弾き飛ばす。

 メイヴィス姫とコンラッドも、前衛と後衛に分かれてピグまりに攻撃をする。

「もういっちょ、おっきして。クレイゴーレム!」

 四人がかりで攻めているのに、ピグまりは彼らと互角に戦っていた。クレイゴーレムをもう一体作っての応戦とはいえ、とんでもない強さだ。

「おっと!」

 見とれている場合じゃない。クレイゴーレムのパンチを、後ろに下がって避けた。

「くう!」

 わずかに、毒の煙を吸ってしまう。

 ワラビがとっさに、治癒効果を発揮した。

 ボクの身体から、毒が抜けていく。

「ありがとう。ワラビの方は、大丈夫?」

「問題ありません。マスターツヨシ、呼吸だけお気をつけください。いくらわたしでも、毒の瘴気までは防げません」

「じゃあ、ボクの顔を全部覆って。ムチャをするけど、ワラビはついてこられる?」

「わかりました。お供します」

 ローブ状態のワラビが、ボクの身体をすっぽりと包み込んだ。

「キミをフルで、危険な目に遭わせるよ?」

「そのために、わたしがいるのです」

「ありがとう、ワラビ。いくよ!」

 ボクはクレイゴーレムに、頭から突っ込む。ヘッドバットをかまして、そのまま毒の沼を泳ぐ。

 ピグまりのゴーレムは、物質に直接作用をしない。なにか、別の触媒があるはずだ。

 こういった毒トラップには、何が使われていたっけ? たしか、沼地に毒を持つ魔物を放して……。

「あれだ!」

 標的を見つけて、ボクは剣を構える。毒を放つバジリスクを、一刀のもとに切り捨てた。

 クレイゴーレムが、ドロっと音を立てて溶け崩れる。毒性も、すっかりなくなった。

「お見事です。いくらわたしでも、バジリスクを溶かすには時間がかかりすぎます」

「この剣のおかげだね」

 センディさんが打ってくれたこの剣でなければ、バジリスクの硬いウロコは切れなかっただろう。

「やるじゃん。こうなったら、ピからもらったこの力、使わせてもらお」

 ピグまりの舌ピアスが、光った。

 背中のマジックハンドが、リュックから小さな石像を引っ張り出す。

「出番だよ、おっきして。ガーゴイル!」

 舌ピアスを、ガーゴイルの額に当てた。

 石像にヒビが入る。中から、ドラゴンの翼が飛び出す。

 翼を持った飛龍へと、姿を変えた。 

「ガーゴイルって、あれは、ワイバーンじゃねえか!」
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