上 下
7 / 71
第二章 底辺配信者、畑を手に入れる

第7話 新居の提案

しおりを挟む
 ボクとワラビは、ギルドのえらいさんに呼ばれた。

 なにかあったら困ると、センディさんとコルタナさんも同行している。二人は仲間だからね。心強い。

 向かいの席に座るのは、ギルド長だ。白髪交じりで、電力会社の作業着みたいな服装に身を包んでいた。冒険者と言うより、役所のおじさんといった雰囲気だ。

「驚いたでしょう? 全然冒険者っぽくなくて」

 ボクの思考を見抜いたのか、ギルド長が苦笑いを浮かべた。

「ギルド長ともなると、一般人とも対話が必要になる。封鎖地域の説明とか、交通手段の制限とかさ」

 ゴツい装備なんて、付けられないのだそう。

 たしかに、配達先や出前先が、鋼鉄のヨロイや剣を装備していたらびっくりするよね。

「ツヨシさんと、ワラビさんね。君らには、我がギルドが提供する土地に住んでいただきたい」

 ギルド長から、分厚い紙の束を用意される。
 なんと、ギルドは家を提供してくれるそうだ。

「テイマー専門の宿泊施設だ。存分に使ってくれたまえ」

 すごいな。魔物用の大きいお風呂まであって、タダで利用できるなんて。
 しかも大衆浴場じゃない。部屋に個別に用意してもらえるのか。
 もっと仮設住宅みたいな小さい部屋を想像していた。

「キミだけではなく、多くのテイマー冒険者がこの土地を利用している」

 ヘビ型やクモ型の魔物が、資料に写っている。ケンカもせず、仲良く暮らしているらしい。
 テイマーを介入しているから、自分たちを「冒険者」と認識しているのか。そういう力が、テイマーには備わっているんだね。

「気になることは、あるかね?」

「家庭菜園があるんですね?」

 ボクは、一つのエリアに注目した。

 畑のエリアがある。テイマーには、畑が用意されて、食物を自分たちで育てるのだ。農耕、畜産もできる。

「冒険者をしながら、畑のお手入れまでするんですか」

「いくら冒険者と言えど、ダンジョンに潜れない日もあるからね」

 スタッフが、代わりに農作業をしてくれるという。主に、引退した冒険者が担当するそうだ。

 たしかに、自給自足の手段は必要かもしれない。モンスターの食費を考えると、家庭菜園というアイデアは必要かも。

「各所に点在するダンジョンとも近い。また君らなら、更に各階層の底へも探索できるだろう」

「そうですね。かなりレベルも上がりましたし」

 ボクはスケルトンキングを倒したことで、大幅にレベルアップした。
 テイム系のスキルを取って、ステータスは防御に割り振っている。いざとなったら、ワラビを守れるようになっておきたい。

 特に気に入ったが、【伸縮自在】というスキルだ。これがあれば、ワラビのサイズを自分の任意で変えられるのだ。
 本来のワラビは、ソファくらい大きい。けど今は、手のひらサイズまで縮んでもらっていた。

 これでバイクでも手に入ったら、ワラビをヘルメット代わりに被って走ってみたい。

 バイクを手に入れて移動手段が楽になるのは、いい感じだね。

「ただ、住むには条件がある。我々に、ワラビさんのデータを提供してもらいたい」

 センディさんとコルタナさんが、反応した。
 定期的に、検査を受けに来てもらいたいそうだ。

「それって、モルモットになれってことよね?」

「誰も、そこまでは言わないよぉ」

 ギルド長が困り顔になって、コルタナさんの意見に反論する。

「ただ、上層部はツヨシくんの快進撃に対して、うるさくてね。ぜひとも、モンスターの生態について研究をしたいと言ってきているんだ」

 本当に、ギルド長は困っているみたいだ。

「私だってねえ。キミらを隔離したいなんて思っていない。のびのび育ってもらったほうが、そりゃあモンスターのためになるよ。データの収集は楽ではなくなるが、正確な資料は手に入ろう」

 ギルド長が、メガネを直す。

「だが、モンスターにはわからないことが多い。種類だけではなく、各魔物には個体差まである。生態を見極め、より一層ダンジョンの攻略に役立ってもらいたいのだよ」

「いいですよ」

 ボクが言うと、センディさんが「おい」とボクの肩を掴んだ。

「ワラビもいい?」

「マスターツヨシが言うなら、従うまでです」

 ワラビはプルプルと、体を揺らす。特に抵抗している気配はない。

「ただ、ワラビを傷つけるようなマネをしたら、ボクはギルドを抜けます」

「ツヨシさん!」

 ギルド長が、テーブルをゴンと叩く。

「野良モンスターが夜に放たれたら、あなた方だって困るはずだ。どうしてダンジョンに隔離して置かなかったのか、って」

 ギルド長は、ボクが凄むとおとなしくなった。

 いくらダンジョン攻略が世間一般に浸透したとはいえ、ある程度一般層の居住区からは切り離してある。ダンジョン各所は金網で、一般人の立ち入りを禁じているのだ。

 なのにモンスターが出てしまったら、ギルドの社会的責任は重い。もちろん、テイムしたモンスターを逃したボクにも、責任は及ぶけど。

「言うわね、ツヨシくん」

「ボクだって、驚いていますよ」

 昔はノーと言えなくて、ずっとブラックな環境で働いてきた。今は、ワラビのためなら自分の立場が危うくなったって構わない。

「あんたらの条件はわかった。ただし、土地はこちらで用意する。それでいいな?」

 センディさんが、ギルド長に打診してきた。

「モンスターを住まわせる場所が、ギルド管理外のエリアにあるのか?」

「あるとも」
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

社畜の俺の部屋にダンジョンの入り口が現れた!? ダンジョン配信で稼ぐのでブラック企業は辞めさせていただきます

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

処理中です...