1 / 1
帰る服を失う
しおりを挟む
「あーん、濡れちゃったぁ」
一人の女性が、ずぶ濡れでコインランドリーに入ってきた。
天気予報もチェックしない女なのか。今日は、夕方から降るって言っていたのに。
オレは気にせず、自分の服が乾くのを待つ。
コンビニで買った、ホットコーヒーを飲みながら。
「よいしょ、よいしょ」
下着だろうか。網に入った小さい包みを、エコバッグから次々と出す。
他にもスウェットの上下やスカートなど、洗濯機に放り込む。
おいおい、ちょっとまて。
あいつ、着ている服まで脱ぎだしたぞ!
どうなってやがる?
コートで隠しているつもりだろうけど、ほとんど隠せていないし。
まさに「帰る服を失う」状態だ。
すべてを脱ぎ捨てて、女性は洗濯を始めた。
あーあ。着ているものまで全部洗っちゃったよ。
「ひゃああ!」
ようやく、女性はオレに気づく。
「い、いたんですか!?」
「ずっといたよ。失礼な。それよりいいのか?」
「なにが?」
「帰る服がないぞ」
「……あああ、しまったぁ!」
女性が頭を抱えて、天を仰ぐ。
アホだ。
うちの妹でも、こんなヘマはしないぞ。
「どうしよう!? 服が乾く前に、コンビニに行って傘買おうと思ったのに!?」
計画性があるんだかないんだか。
とにかく、ずぶ濡れで判断力が鈍ったんだな?
「買ってきてやろうか?」
「ちょ、見ないで!」
「おっと」
オレは女性から背を向けた。
「あ、あの。ごめんなさい!」
「いいって。それより困っているなら、傘を買いに行ってやる」
「ホントにいいの?」
「オレの服はまだ、時間がかかるし」
お安い御用である。ホットのおかわりも欲しい。
「ごめんなさい。では、お願いしよっかな」
コンビニに行って、傘とコーヒーを買う。
「ほらよ」
オレは、コーヒーをおごった。
「ありがとう。お金を」
「いいって」
オレは女性から、傘の代金だけをもらう。
「それより、いつもあんな感じか? 慣れている感じがしたが」
「う……。この時間って、人がいないって知ってるから」
常習犯か。
オレが使っていなかったら、コイツは全裸でこのエリアをくつろいでいたわけだ。
「誰もいない中で脱ぐスリルがたまらなくて」
ヤバイな。
「あんたは?」
「先日、この辺りに引っ越してきたんだ。まだ洗濯機が来ないんだよ。まったく」
スマホで配送状況を確認しながら、オレはため息をつく。
でもよかった。
自分で洗濯機を買わなかったら、またこの露出狂に出くわす羽目になるところだ。
コイツは女だから、どうしても見たこっちが悪者にされてしまう。
「お、乾いた」
オレは自分の洗濯物をバッグに取り込む。
「じゃな。今度はちゃんと、天気もチェックしろよ」
「ありがとう。ごめんなさい」
翌日、物流業者の車が、アパートの前に停まる。
洗濯機がようやく届いたのだ。
業者さんと一緒に、いそいそと洗濯機を運ぶ。
他にも、細々とした荷物がいっぱい届いた。
これから、オレの新生活が始まるのだ。
「手伝いしましょうか?」
「すいま……」
先日見たはずの手が、ダンボールを掴む。
越した先のお隣さんは、例の露出狂だった。
一人の女性が、ずぶ濡れでコインランドリーに入ってきた。
天気予報もチェックしない女なのか。今日は、夕方から降るって言っていたのに。
オレは気にせず、自分の服が乾くのを待つ。
コンビニで買った、ホットコーヒーを飲みながら。
「よいしょ、よいしょ」
下着だろうか。網に入った小さい包みを、エコバッグから次々と出す。
他にもスウェットの上下やスカートなど、洗濯機に放り込む。
おいおい、ちょっとまて。
あいつ、着ている服まで脱ぎだしたぞ!
どうなってやがる?
コートで隠しているつもりだろうけど、ほとんど隠せていないし。
まさに「帰る服を失う」状態だ。
すべてを脱ぎ捨てて、女性は洗濯を始めた。
あーあ。着ているものまで全部洗っちゃったよ。
「ひゃああ!」
ようやく、女性はオレに気づく。
「い、いたんですか!?」
「ずっといたよ。失礼な。それよりいいのか?」
「なにが?」
「帰る服がないぞ」
「……あああ、しまったぁ!」
女性が頭を抱えて、天を仰ぐ。
アホだ。
うちの妹でも、こんなヘマはしないぞ。
「どうしよう!? 服が乾く前に、コンビニに行って傘買おうと思ったのに!?」
計画性があるんだかないんだか。
とにかく、ずぶ濡れで判断力が鈍ったんだな?
「買ってきてやろうか?」
「ちょ、見ないで!」
「おっと」
オレは女性から背を向けた。
「あ、あの。ごめんなさい!」
「いいって。それより困っているなら、傘を買いに行ってやる」
「ホントにいいの?」
「オレの服はまだ、時間がかかるし」
お安い御用である。ホットのおかわりも欲しい。
「ごめんなさい。では、お願いしよっかな」
コンビニに行って、傘とコーヒーを買う。
「ほらよ」
オレは、コーヒーをおごった。
「ありがとう。お金を」
「いいって」
オレは女性から、傘の代金だけをもらう。
「それより、いつもあんな感じか? 慣れている感じがしたが」
「う……。この時間って、人がいないって知ってるから」
常習犯か。
オレが使っていなかったら、コイツは全裸でこのエリアをくつろいでいたわけだ。
「誰もいない中で脱ぐスリルがたまらなくて」
ヤバイな。
「あんたは?」
「先日、この辺りに引っ越してきたんだ。まだ洗濯機が来ないんだよ。まったく」
スマホで配送状況を確認しながら、オレはため息をつく。
でもよかった。
自分で洗濯機を買わなかったら、またこの露出狂に出くわす羽目になるところだ。
コイツは女だから、どうしても見たこっちが悪者にされてしまう。
「お、乾いた」
オレは自分の洗濯物をバッグに取り込む。
「じゃな。今度はちゃんと、天気もチェックしろよ」
「ありがとう。ごめんなさい」
翌日、物流業者の車が、アパートの前に停まる。
洗濯機がようやく届いたのだ。
業者さんと一緒に、いそいそと洗濯機を運ぶ。
他にも、細々とした荷物がいっぱい届いた。
これから、オレの新生活が始まるのだ。
「手伝いしましょうか?」
「すいま……」
先日見たはずの手が、ダンボールを掴む。
越した先のお隣さんは、例の露出狂だった。
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる