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第五章 敵の総大将が動き出しました!

第75話 領主……ですよね?

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 屋敷に戻ると、マセッティが囲まれていた。

 護衛は昏倒しており、マセッティも無抵抗でいる。

 兵隊を指揮しているのは、タンドック男爵夫人だ。
 青白い水晶が先端に巻き付いた杖を、手に持っている。



「やっと王子を見つけたわ」


 タンドック男爵夫人の口から、思わぬ発言が飛び出す。



「王子ですって?」


「知らなかったの? 彼はここに亡命してきた、フィナンシェ・キエフ第二王子よ。ずっと探しいたのよ」

 すでに、屋敷は男爵夫人に占拠されていた。
 私兵は倒され、マセッティは捕らえられている。

「ソランジュ一人で来い。あとのヤツらは捕らえる」

 男爵夫人に言われ、ソランジュが前に出た。

「すいません。あたしが目立ったばかりに」
「頼んだのはわたしです。自分を責めないで下さいジョーイさん」

 あのままジョーイを連れてこなければ、呪いを解除できなかった上に、ジョーイも捕まっていただろう。

「それにしても、妙ね。弱い護衛しかつけてないなんて」

 夫人の一言でリッコも気づいた。たしか、マセッティは……。

 自分を縛ろうとした兵隊を、マセッティが開脚キックで蹴り飛ばす。

 その動きは、領主とは思えない。
 こんなにも、領主マセッティは強かったのか。

 狙撃の矢をかわし、剣を素手で受け流す。
 囲まれそうになったら、壁を駆け上って逃げ、反撃の裏拳を叩き込む。


 この動きはまるで……。


 マセッティがニヤリと笑う。
 彼は、男爵夫人に向かって飛びかかった。

 手には脇差しが。

 あっという間に、マセッティが夫人の背後を取る。
 夫人の首に脇差しを近づけた。


「兵を退きなさい! レディの顔に傷を付けるのは趣味じゃないんだ!」


 まったくスキのない動きで、マセッティが兵隊を退かせようとする。

「聞く耳を持つ必要なんかないわ。こいつは偽物よ!」


 杖を振るって、男爵夫人も対抗した。
 ただでさえ盛り上がっている金髪が、ゾワゾワと増殖を始める。
 夫人の全身を覆い尽くすほどに溢れ出た髪が、一斉に領主へ殺到した。

 脇差しを逆手に振り回して、領主は髪を乱暴に切断していく。


 だが、髪の増殖は止まない。


 領主の脇座と夫人の髪が、激しくぶつかり合う。
 常人を遥かに超えた剣速だ。目で追うのがやっとである。

 夫人に飛びかかり、領主が回し蹴りを浴びせた。相手の首筋に向けて。

 男爵夫人が、杖で腹を突き刺す。

 空中にいたため、ガラ空きになっていた領主のみぞおちに、杖の先がめり込む。


「にゃああ!」


 後ろへゴロンと転がり、領主の変身が解ける。

 マセッティの正体は、ニンジャのチヨメだった。


「やはり、セリアン族のニンジャか! お前たち、ここは退くわよ。秘宝を優先するわ!」

 タンドック夫人は、杖で床に魔法文字を書く。
 文字が光を放った。男爵夫人は光に包まれて、姿を消す。
 後には、文字も残っていない。

 兵士たちも、逃げていった。

「おかしいとは思っていました。マセッティさんは逃げたはずだったので」

「領主様なら、あっちに逃げたニャ。やつらには領主が秘宝を追っていると思わせているニャ」

 チヨメが差したのは、自身の屋敷だ。
 地下を伝って、チヨメの屋敷へ。
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