上 下
71 / 92
第五章 敵の総大将が動き出しました!

第72話 これが私の……全力だ!

しおりを挟む
「やはり、気づいていたか」

「貴公が負傷していることは、盗賊団壊滅のときに知った。貴公の周辺に漂う魔力量を見ていれば分かる。アガリアレプトとの戦が、どれだけの死闘だったか」

 騙し通せるはずもないか。

「あの小娘に加勢してもらえばよかろう」
「リッコか。確かにあの子なら、お前など一撃で葬り去ろう」

 誇張ではない。リッコなら、本当にできる。

「それほどかあの娘。シトリーに指一本触れさせなかっただけはある。あの娘、どこで拾ってきた?」

「気づけば側にいた。正体は、私も知らん」


 確かに、リッコは不思議な子だった。それでも。


「キエフ伝統の紋章を持っていた。秘法のカギを蘇らせたほどだ。何か重大な秘密があるに違いない」
「あれこれ詮索するつもりはないよ」
「ならば、我々が調査するとしよう」
「だったら、止めるしかあるまいね」

 リッコに危害を加えるというなら、こちらも全力でいかせてもらう。

 キャンディケインに雷を纏わせ、斬りかかる。
 二度打ち込み、相手の防御を崩す。
 ガードが開いた箇所に、ステッキの先端を向けて、火炎の弾を発砲した。

 刀の鞘で、グシオンは受け止める。

 それでも、飛び散った火炎がグシオンの頬をかすめた。

「太刀筋に熱が籠もってきたではないか。それだけあの娘が大事か?」
 頬から流れる血を、グシオンは手の甲で拭う。

「私は、お前たちを始末するだけさ」

「生き返った貴様に、こちらも応えるとしよう」
 刀を上段に構え、グシオンが力を込める。

 隙だらけのはずなのに、ソランジュは踏み込めない。
 不用意に近づけば、こちらがやられてしまう。

「誠の忠義、ご覧にいれよう」
 グシオンが、刀に黒い気迫を纏わせる。

 いよいよ、最大級の攻撃が来る、とソランジュは身構えた。

「そうだ。貴公も本気を出すがよい。でなければ、張り合いがないというもの」

 さすがに、魔力障壁では防ぎきれない。それでも、被害を最小限に抑えねば。

 ありったけの魔力を、キャンディケインに圧縮する。

 衝撃波で、建物は多少崩れるかも知れない。
 が、人的被害は防がねばならぬ。

 住む人々こそ、国の財産だ。

 クテイの繁栄は、人あってこそ。

 被害を食い止めるには、グシオンそのものを消滅させる必要があった。

 しかし、そんなことを許す相手か? 
 手加減して勝てる相手でもなく、こちらも万全ではない。
 身を挺してかばうだけで手一杯だ。

 敵は待ってくれない。


 やるか。


 全て魔力を防御へ回し、キャンディケインを横へ持つ。広範囲に、障壁を形成した。


「無駄なことを!」
 怨念の籠もった黒い刃が、障壁に衝突する。

 周りの商品や人々が、衝撃によって軽く吹っ飛ぶ。

 焼き付く程の邪念を、ソランジュはその身一つで受け止めた。
 少しでも気を抜くと、押し戻されてしまう。


 障壁に、ヒビが入った。ニワカ仕込みでは、これが限界か。


「がああああ!」

 グシオンの袈裟斬りを、まともに浴びる。

 致命傷とはいかなかったが、ダメージは大きい。
 地面に叩き付けられ、ソランジュは起き上がれない。

「まだ息があるか。せめて介錯をしてやるが情けか」

 地に降りたグシオンが、ソランジュの首に照準を合わせ、刀を振り上げた。

 しかし、ソランジュは諦めていない。


 聞こえるのだ。大地の響きが。

 こちらに向かってくる。

 オオカミの疾走が。








「ソランジュさんから、離れなさぁい!」
 リッコが、聖剣を構える。










「今だ、リッコ! 横に撃て!」


「はい!」
 地面と水平に、リッコが衝撃波を放った。






「ぬう、これは!」

「聖剣の一撃だ! 受け止められまい!」

 さしものグシオンも、避けざるを得ない。跳躍してかわす。


 ソランジュのチャンスは、そこだった。
 キャンディケインに、残りの魔力を全て注ぎ込む。

「貴公、こうなることも全て読んで!」

「切り札は見せぬモノだ!  紅焔波《プロミネンス・ブラスト》!」

 ソランジュは、上空へ跳んだグシオンに向けて、朱い煉獄を撃ち放った。

「ごおおおおあああああ!」

 灰になるまで、グシオンを焼き尽くす。

 暗雲が立ちこめていたクテイに、一瞬光が差し込む。
 それほどまで、朱い火柱は空高く突き抜けていった。

「どうにか、勝ったな」

 グシオンが消滅したのを確認し、ソランジュは立ち上がった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。

淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語

瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。 長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH! 途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...