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第一章 ボッチ聖騎士です。魔女さん、友達になりませんか?

第4話 魔女さんです!

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 そこにいたのは、わたしが倒した魔獣など物の数ではない、巨大なオオカミだった。雪でできているのではないかと思うほど、キレイな純白だ。
 さっき食べたウルフの、親だろうか? いや、あれは茶色かった。別の種だろう。

 雪色のオオカミは、獲物である人間を見据えている。

 すぐ側には、ひげ面の男性が倒れていた。わたしの知り合いの商人さんである。押さえている足から、血が滲んでいた。

「おじさん!」
「来るな、リッコちゃん!」

 オオカミは、彼を狙っているのだろう。

 来るなと言われても、放ってはおけない。

 シールドで身体を隠しつつ、商人の元へ近づく。

 オオカミも警戒してか、わたしに近づいてこない。

「大丈夫ですか、おじさん!?」

「誰か救援を呼んできてくれ。もしくは討伐隊を。こんな化物が街へ入ったら、どれだけ被害が出るか」

「まずはあなた治療が先です。待ってて!」

 わたしは、商人の側にしゃがみこむ。痛めている彼の足に、治癒魔法を施す。

 それを黙って見ている、オオカミではない。太い爪が、わたしの腕を切り誘うとした。

 瞬時にわたしは反応し、一瞬でシールドを構える。数一〇キロもあるヒーターシールドを、片手で。

 バイン、という音を立て、爪が弾かれる。

「えーいうるせーです! 黙って見てろですよ!」

 オオカミをどなりつけ、わたしは治療を再開した。
 商人の足に、治癒術式を込めた包帯を巻く。

「もう大丈夫です。とはいえ、毒が回っているかも知れません、念のため、ちゃんと治療院へ」

 わたしは傷やケガ、骨折などは魔法で直せる。しかし、毒までは治療できない。
 毒や薬品の知識がない人間がへたに解毒魔法を覚えると、対象を悪化させる危険があるからだ。

「ありがとう、リッコちゃん。でも任務は失敗だな」

「なぜです?」

 商人は、アイテム袋から小包みを取り出す。

「あのオオカミが塞いでいる道の先が、魔女の屋敷なんだ。オレは、そこへ荷物を届けようとしいたんだが」

「オオカミが邪魔で通れないんですね?」

 商人の装備は、オオカミによって破壊されてしまっていた。普段はこんな軽装でも、登れる森なのか。

「妙なんだ。あのモンスターは、魔女の使いだったはず。いつもおとなしいんだ。どうして暴れ出したりなんか」

 何か、事情があるようだ。

「おじさん。この荷物を、魔女に届ければいいんですね?」

 しかも、魔女が暴れさせているなら大ごとだ。

「なんだって、あのオオカミとやり合うってのか?」

「だって、他にできる人はいないでしょうから」

 呆れた様子で、商人は頭を下げてくる。

「頼む。オレは山を下りて、討伐隊を派遣してくる!」

「必要ないと思います。自分の足を治しに行ってください」

 冒険者は身体が資本だ。ヘタに治療を怠ると、後の依頼に響く。

「見殺しにするようで、すまない」

「平気です。では」

 再びわたしは、オオカミと向き合う。

 白いオオカミはヨダレを垂らし、クビを何度も振り回す。なにか、のたうち回っているようにも見えた。

 この現象には、見覚えがある。

「故郷の家畜が、同様の症状になりましたっけ」

 田舎の牛が、同じように暴れ出し、結局死んでしまった。そのときの原因は。

「寄生虫です!」

 オオカミの攻撃をかわしながら、わたしはオオカミの腹の表面を窺う。やはり、黒い斑点があった。寄生虫を飲み込んでしまった証拠である。
 病気をもたらす雑草を動物が食べてしまうと、このような症状が出る。誤って口にしてしまった可能性が高い。

「今、治してあげます!」

 盾を構えながら、わたしは腰を落とす。

 わたしが観念したと思ってか、オオカミが覆い被さってきた。

 すかさずわたしは、さらにしゃがみ込む。倒立の体勢に入った。逆さまになって、シールドを土台代わりにして背を伸ばす。

「行きます! シールド……キーック!」

 オオカミの土手っ腹に、わたしは蹴りを入れた。盾は関係ない。

 蹴りを放ちつつ、オオカミの腹部に雷の魔力を流し込んだ。

 大きな口を開けて、オオカミは黒いドロッとした物質を吐き出す。これが寄生虫の正体だ。

「これが悪さをしていた元凶ですね。お覚悟を!」

 足で、わたしは黒い物体を踏み潰す。

「コレで安心。さて、飼い主さんのところにお帰りください……おや?」

 わたしの頬を、オオカミが舐めてきた。懐いてくれたのだろうか?

「一緒に行きましょうか」

 オオカミを伴って、わたしは魔女の館へ向かう。

 道がひらけてきた。小さい小屋が、見える。

 壁じゅうに、見たこともない植物のツタが絡まっていた。いかにも、何か得体の知れない存在がいそうな家である。

「イグルーッ! ようやっと寄生虫を始末する薬草ができて……おや、イグルー?」

 赤いガウンをまとった豊満な女性が、館の入り口から出てきた。指に、白い液体の入った小瓶を摘んでいる。

「キミがイグルを治してくれたようだね。ありがとう」

 女性はわたしの存在に気づくと、瓶を大きな胸の間にしまった。わたしとオオカミが並ぶ様を見て、自分の出番はなくなったと悟ったらしい。

「あなたが、朱砂の魔女ソーマタージ・オブ・シナバー、でしょうか?」

「そうだ。私はソランジュという」

 朱砂の魔女と、エンカウントしてしまうとは。
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