家庭菜園物語

コンビニ

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4章

巡る思い

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★悠視点

 本物のメイドさんとは凄いと改めて感心してしまった。
 掃除の配慮や、洗濯の畳み方、料理の創意工夫、これがなんちゃって主夫との性能の違いってやつだろう。とても勉強になる。

「悠様はとても勉強熱心ですね。飲み込みも早いです」
「立派なメイドになれますかね」

 イライヤさんには苦笑いされてしまった。
 イールとライラちゃんも直ぐに友達になり、遊びながら動物のお世話だったり、果物園のお世話を手伝ってくれている。少し、果物園の収穫量が減っているのはご愛嬌だろうか。
 姉さんがいれば率先して釘を刺してくれるが、今はいないので俺が簡単に注意だけしておく。

「イール、目に見えて減るのは感心しないな」
「ごめんなさい」

 イールは素直な子だ。そもそも、果物を勝手に食べるなという話ではあるが、子供は勢いだけで生きる生物だ。こういったことを経験しながら大人になっていく。
 
 大きな問題はない、酒を飲むと最近は情緒不安定になるので控えるようにしているし、できるだけ体を動かしたり、売却用の料理を作ったり、できるだけ仕事をしている。
 不安だ。エリゼが話に行ってくれてるけど、姉さんが本当に愛想を尽かして帰ってこないってことになったらどうしよう。

「今日も空を見上げてるんですか?」

 ムースさんは俺を心配してよく話しかけてくれる。
 優しくていい人だ。ライラちゃんもよく懐いてるようで、厳しいお母さんよりはパパっ子って印象を受ける。

「ええ、手紙来ないかなって、ついつい考えちゃって」
「自分はお姉さんのことや、悠様が想いを寄せる方のことは存知上げません。ただたまにイールさんが寂しそうにしているのは心配です」
「イールが?」
「自分の気のせいかもしれませんが、見ていてあげてください」

 イールが寂しそうに……いつもと変わらず元気そうである。
 朝食も昼食も夕食もおやつもモリモリと食べて、家の仕事に勤しんで、課題をこなして、大福と訓練をして余った時間はライラちゃんと遊んで、お風呂に入って寝る。充実してそうな感じはするけど、不安なんてなさそうだ。

 ただ見ていると確かに寂しいそうにしていることがあることに気がついた。
 イライヤさんとムースさん、ライラちゃんの家族3人で楽しそうにしているところをどこか羨ましそうにして見ていた。

「イール、今日はさ、パパと一緒にお風呂入って、寝ようか」
「大丈夫。イールはお姉さんだから」
「お姉さんだって甘えることはあるさ。モモだって久しぶりに帰ってくればパパに甘えるだろ?」
「大丈夫だもん!」

 ここで姉さんがいれば何らかのフォローをしてくれるんだろうが。
 ああ、こうやって姉さんを頼ってばかりだから、俺はダメなのかもしれない。
 
 イールにも振られてしまったので、縁側に座って、星空を眺める。
 寒くなってきた。そろそろこっちの地域では雪も降り始めるかもしれない。

「寒くなってきましたね。どうぞ」

 イライヤさんが膝掛けと、暖かい緑茶を差し出してくれ、横に座る。
 
「悩んでいらっしゃいますか?」
「少し、イールのことで」
「イールさんは優しい子ですね。ライラの面倒まで見てくださっています。ただその反面、今は寂しそうにしていますね」

 やっぱりイライヤさんから見ても、そう見えてしまうか。

「問題は悠様にあると思いますが」
「俺ですか? 一緒に過ごそうかって誘ったりもしてみたんですけど……」
「心がここにないからですよ。イールさんは優しい子で感情にも敏感に反応してると思います。まだ立ち直れていない悠様のことを思いやって、迷惑をかけないようにしてるのかと」
「迷惑だなんて、そんなこと俺は思いませんよ。もう一度、イールと話してみます」
「それが良いと思います。ただ今の状態で話してもイールさんを結果的に傷つけてしまいますよ。一緒に遊んでも、一緒に居てもそんな上の空の状態では、自分ではお父さんのことを元気付けてあげられないと、
先日までのお父さんが悲しんでいる時に力になれなかったことに対して、後悔が彼女の心を締め上げてしまうでしょうね」

 俺はイールのためを思って声をかけているつもりが、イールをちゃんと見ていなかったかもしれない。
 結局は自己満足だったり、自分のためだったのかも。

「ライラだけでなく、教師として沢山の子供見ていましたが、合理的ではなく、子供独自の考えを持ったりしているので難しいですよね。私は鞭役ですから、ライラには怖がられてるので、ムースがその辺は上手くやってくれてますが、お一人だと大変かもしれません」
「姉さんがいた時は助けてくれてたんですけど、自分の力不足を実感してます。改めて目の前にいるイールと向き合えるように努力してみます」
「悠様も色々ありましたので大変だと思いますが頑張ってください。エリゼ様は目を覚ます意味では効果のある劇薬でしたが、効果も薄れてきてると思いますので、仕事をして忘れようとするのもいいですが、事故に繋がりますし、一度休んではいかがですか? そのための我々です」
「ありがとうございます」
「お任せください。それにイールさんは優しくて賢い子です。話せばきっとわかってくれます」

 流石は先生でメイドでお母さんだ。
 話してくれたことが、重く心に響く。


 翌朝の朝食を食べた後に、仕事に出ようとするイールを引き止める。

「大福、イール、今日は少し散歩に行こうか」
「お仕事は?」
「イライヤさん達に任せることになってる。お弁当を持って釣りにでも行こう」
「わん」

 大福も空気を読んでくれているのか、鼻でイールを押す。
 3人で川で釣り糸を垂らす。正確には大福はイールの椅子役で釣竿を持ったりということはないけど。
 
「イール、最近ごめんな。酒飲みまくったり、ぼーっとしてりさ。姉さんやヴィがいなくなって、ショックでさ」
「ハルは?」
「いや、寂しいけど、ハルはどうでもいいかな」

 イールがクスクスと笑う。ずっと笑顔だったはずなのに久しぶりに見た気がする。

「えーねが大丈夫って言ってたし、大丈夫。お姉ちゃんもヴィも!」
「そうだな。ヴィも来てくれるかな」
「ヴィのこと好きなの?」

 こんな話を娘にして良いものだろうか。

「そうだね、す、好きかな。ヴィがママだったらどうだ?」

 イールが考え込む。嫌いなのかな? いや、そんな雰囲気ではない、きっとイールの母親と合致しない点が多いのだろう。筋肉量の違いとか。

「悪くない」

 ちょっと特殊な感想に2人で笑ってしまった。
 大福も笑顔で尻尾を振っている。ああ、幸せかも。
 イールの頭を撫でていると、胸の中に潜り込んできた。

「父、辛い時に力になれなくて、ごめんなさい」
「イールは力になってくれてるよ。散々迷惑かけて、こっちこそごめん。父親失格だ」
「少し寂しかった」
「ああ、寂しい思いをさせてごめん」

 2人で少し泣いてしまった。
 子供にこんな思いをさせてしまうとは、姉さんが帰ってきたら猫パンチでもしてもらおう。自分に。

「わん」

 大福、背中に乗るな。重いぞ。
 重いけど背中も胸の中も暖かくて、少し元気が出た。


 
 

 


 
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