家庭菜園物語

コンビニ

文字の大きさ
上 下
164 / 180
4章

闘魂

しおりを挟む
★悠視点

 扉が凄い音をたてて開く。エリゼ? 帰ってたのか。そうか。
 ただ言葉が見つからないし、出てこない。何も考えたくない。

「酒だけなく、単純に臭い」

 風呂に入ったのは最後、いつだったかな。
 エリゼが近づき、俺の服の首元を掴むと持ち上げられた。苦しいのでやめてほしいんだが、暴れる元気も出ない。

「だらしゃあああああ!」

 痛い。首が繋がってるので手加減をしてくれたとは思うが、非常に痛いビンタだ。
 
「痛いぃ」
「貴方は何をやってるの。さくらさんが珍しく真面目に働いてて、イールまで空気を読んで自分でご飯を用意したりしてる。大福様だってブラッシングが十分じゃなくてゴワゴワでだった。フラれるのかってでだけど、家族を蔑ろにする人だとは思いませんでした」

 エリゼの言う通りだ。俺なんて人の親になる資格はない。

「きっと杏姉さんも父を見限ったわけではないよ。姉さんなりにレイヴィさんに話をしようとしてるんじゃないかな」
「そうかな。わからないじゃないか」
「わからないのだったら、尚更です。姉さんともう一度話をしましょう。それにレイヴィとも、話してみたらどう? 大丈夫、私もできることは力を貸すし」

 エリゼに励まされる日が来るとはな。

「まずはお風呂と髭を剃って、お客も来てるんだから」
「えーね、喧嘩?」

 イールが様子を伺いに来ていたようだ。

「喧嘩ではないよ。励ましてたの」
「イールもやる!」

 え? 待ってイールさん!
 
「ぐえええ! 首がもげる!」
「ちち、元気になった!」
「素晴らしいぞ、イール」

 手加減って物を教えてやる必要がある。殺人者になるぞ。

「また父が引きこもった時には出てくるまで、元気づけてやってくれ」
「わかった!」

 何かあっても引きこもることだけはやめよう。

「イール、ごめんな。それとありがとう」
「ちち、臭い」

 エリゼ以上に獣人だし、鼻が良いもんな。とりあえず風呂に入るか。

「今日はちちと一緒に入ってあげる」
「ありがとさん」

 
 久しぶりにイールとお風呂に入って背中を流してもらった。
 理由は明確にわかってないけど、イールなりに俺が落ち込んでるのはわかってくれているんだろう。
 イールと風呂上がりにリビングに行くと、エリゼが先ほど行っていた、お客さんがいた。

「えっと、来て早々、なんだが情けないとこを見せてしまいました。悠と言います。ゆっくりして行ってください」
「こちらはイライヤさん、私のメイド兼相談役で、過去に失礼なこともしてしまったけど、また私の元で働いてくれてる。あとは旦那さんのムースに娘のライラちゃん」

 皆んなと握手をするが、1人紹介されていない子がいるんだけど。
 見覚えのある法衣だし、聖国の子かな。

「お初にお目にかかります、お父様」

 いつの間にか子供が増えていた!

「私はエリゼ様とモモ様の妹でパスルと申します!」

 エリゼを見てみると、もう手遅れだと言わんばかりの顔をしていた。
 まぁ、握手だけはしておいた。

「シャァー!」
「イール、気持ちはわかるけど失礼だからやめなさい。あ、さくらさんもご迷惑をおかけしまたし。忙しいのに残っていただき、ありがとうございます」
「気にするな。面白かったしな」

 一言は余計だが、なんだかんだ、イールや家のことを見ていてくれたんだ。我慢しよう。
 
「先にお風呂入っちゃいましたけど、皆さんもお風呂どうぞ。露天風呂もありますんで」
「見た、見た、私も入ってみたい。ライラちゃんとイライヤさん、一緒に入りましょうか」
「お姉様、パスルをお忘れですよ」

 女子組はキャッキャとお風呂に向かってしまう。
 ムースさんは女子組が上がった後ということになった。
 イールは疲れが溜まっていたのか、寝落ち寸前だったので部屋まで運び、戻ってきた時にはさくらさんが既に酒を飲み始めていた。

「このワインは絶品ですな」
「そうだろうとも」

 なんでさくらさんが偉そうにしているのか。
 さくらさんからも晩酌をどうだと勧められたが流石に、また飲む気にはなれない。
 風呂を上がってくる前に皆んなの寝床を用意する。イライアさん達は家族ワンセットでいいか。
 エリゼはイールとの方がいいかな、パスルさんは……1人部屋の方がいいだろう。
 
 部屋の準備が整ったのと入れ違いに、お風呂上がりのイライヤさんと、抱き抱えられたライラちゃんと会ったので、部屋まで案内した。ライラちゃんも体力切れのようで、ノックダウンだ。

 リビングに戻ると、ムースさんはお風呂に行ったようでいなかったが、さくらさん、エリゼ、パスルさんでワインを片手に乾杯をしようとしていた。

「エリゼ、我が家のルールは?」
「覚えています……乾杯まで! 乾杯までしようとしただけ!」
「パスルさんも同い年くらいだよね。お酒はダメ」

 さくらさんがつまらんと1人で飲み始めたのを、2人が羨ましそうにみている。
 ワインの代わりにブドウジュースを出してあげた。

「ブドウの味が濃くて美味しい。少し離れた間に色々と増えたんだなぁ。ワインも飲んでみたいなぁー」
「お酒ってね、体がしっかり受け入れるようになってから飲んだ方がいいんだから。勿論、飲み過ぎはいけないけどね」
 
 エリゼは少し不貞腐れていたが、これも体を考えてのことだから仕方ない。
 
「それでさくらさんは、いつ頃出発するんですか?」
「ああ、お前も復帰できたなら、明日には行くよ」
「俺も行ったらダメですよね?」
「今回はやめておけ、気持ちはわかるが、ハルがメインとなる話なのに、お前が来てレイヴィとの話をしようものなら混乱が生じる」
「それなら、ルークの代わりに私が行ってはダメですか? ルークが忙しいというのもありますけど、杏姉さんや、レイヴィとも改めて話したいんです」
「それは構わんが、連れてきた連中はどする」
「私の我儘で申し訳ないんだけど、戻ってくるまでの間、ここに置いてもらえる?」

 エリゼが行くと言い始めたのも俺のことを考えてくれたからなのだろう。断る理由はない。

「戻るとすれば、雪が本格的に降る前にはなると思うが、状況によっては春先になる可能性もあるぞ」
「俺としては、最近は人手がないと手に余るし、イライヤさん達が問題ないなら大丈夫」
「それじゃ、明日改め話してみるね。気を取り直して乾杯しますか!」
「エリゼ、ワインのグラスは触らないこと」

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る(旧題|剣は光より速い-社畜異世界転生)

丁鹿イノ
ファンタジー
【ファンタジア文庫にて1巻発売中!】 深夜の職場で人生を終えた青桐 恒(25)は、気づいたらファンタジーな異世界に転生していた。 前世の社畜人生のお陰で圧倒的な精神力を持ち、生後から持ち前の社畜精神で頑張りすぎて魔力と気力を異常に成長させてしまう。 そのうち元Sクラス冒険者である両親も自重しなくなり、魔術と剣術もとんでもないことに…… 異世界に転生しても働くのをやめられない! 剣と魔術が存在するファンタジーな異世界で持ち前の社畜精神で努力を積み重ね成り上がっていく、成長物語。 ■カクヨムでも連載中です■ 本作品をお読みいただき、また多く感想をいただき、誠にありがとうございます。 中々お返しできておりませんが、お寄せいただいたコメントは全て拝見し、執筆の糧にしています。 いつもありがとうございます。 ◆ 書籍化に伴いタイトルが変更となりました。 剣は光より速い - 社畜異世界転生 ~社畜は異世界でも無休で最強へ至る~ ↓ 転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る

俺とシロ

マネキネコ
ファンタジー
【完結済】(全面改稿いたしました) 俺とシロの異世界物語 『大好きなご主人様、最後まで守ってあげたかった』 ゲンが飼っていた犬のシロ。生涯を終えてからはゲンの守護霊の一位(いちい)として彼をずっと傍で見守っていた。そんなある日、ゲンは交通事故に遭い亡くなってしまう。そうして、悔いを残したまま役目を終えてしまったシロ。その無垢(むく)で穢(けが)れのない魂を異世界の女神はそっと見つめていた。『聖獣フェンリル』として申し分のない魂。ぜひ、スカウトしようとシロの魂を自分の世界へ呼び寄せた。そして、女神からフェンリルへと転生するようにお願いされたシロであったが。それならば、転生に応じる条件として元の飼い主であったゲンも一緒に転生させて欲しいと女神に願い出たのだった。この世界でなら、また会える、また共に生きていける。そして、『今度こそは、ぜったい最後まで守り抜くんだ!』 シロは決意を固めるのであった。  シロは大好きなご主人様と一緒に、異世界でどんな活躍をしていくのか?

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。 見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。 最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!? しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!? 剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

ブロック作成スキルで、もふもふスローライフを目指すことにした

うみ
ファンタジー
 もふもふ犬と悪魔少女と共に異世界ジャングルでオートキャンプする!  俺こと日野良介は、異世界のジャングルに転移してしまった。道具も何も持たずに放り出された俺だったが、特殊能力ブロック作成でジャングルの中に安心して住める家を作る。  うっかり拾ってしまった現地人の悪魔っ娘、俺と同時に転移してきたと思われるポチ、喋るの大好き食いしん坊カラスと一緒に、少しずつ手探りで、異世界での生活を充実させていく。  サバイバル生活から楽々スローライフを目指す!   衣食住を充実させるのだ。

処理中です...