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3章
変わる日常
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「雪が溶けたねー」
「ねー」
イールと手を繋いで早朝の畑の周りを散歩する。溶けたばかりでグシャグシャしているので長靴は必須だ。そんな長靴でイールが水たまりでバシャバシャと遊んでいる。
大福もついてきたがっていたが、あん団子になるのは目に見えていたので家で待機をしてもらった。姉さんは俺の方から首にかけてバランス良くのっかている。
「エリゼも数日中には旅立つそうです」
「にゃーん」
「はい、旅の準備も万全で、さくらさんからマジックバック? っていう容量が多く入る鞄ももらいましたし、思ったよりも旅支度は楽になったみたいです」
俺からもマンとか防寒具、この世界に合致したものを加工小屋の妖精さんを再び雇い入れて作ってもらった。財布とか小物なんかも色々とプレゼントをしてみたが、作りすぎと苦笑いをされてしまった。
だって、皮関連は余りがちなんだよね。そんなに作らないし、売ってもそこまでの値段にもならないから、こんな機会にと思ったけど鞄があるとはいえ、必要最低限にしておきたいらしい。
旅の工程を聞いたが、最終目標はビクドの最北端、帝国との国境近くある街を目指すとのことだ。
内戦もあって荒れ始めているので、魔物の駆除も含めて依頼が多いだろうと睨んでいるらしいけど、俺としてはいきなりそんな危険なとこに行かなくてものと話したが、本人ができるだけ人の役に立つことをしたいとのことだ。
「大丈夫ですかね」
「にゃーん」
「そこら辺のやつには負けないって、そこら辺のやつではない存在に会ったらと思うと」
「にゃーん」
そうですね、そんな心配してたら動けないのは確かですね。
あ、イールが転けてせっかくの白くて綺麗な髪が泥だらけになってしまった。大福と変わらんではないか。
「イール、大丈夫か?」
ケタケタと笑っているので大丈夫そうだ。
井戸の水は冷たいだろうが、軽く汚れを落として、裏口からお風呂場に直行する。
朝風呂が終わる頃にはエリゼが気を効かせて朝食を作ってくれていた。
「騒いでるのが聞こえたから、イール、あんた転んで泥だらけになったんだって? 気をつけないさいよ」
「あーい」
叱られているのにも関わらず、エリゼの懐に入り込むと腰に抱きついて、髪を乾かしてーと甘えている。
その仕草に怒る気力がなくなったエリゼがドライヤーを持ち出して、膝の上に乗せて乾かしてやる。羨ましいなぁ。
パンに卵焼き、ベーコンにサラダに牛乳、うんうん、こういうのでいいんだよ。
俺が朝食を食べていると、髪にを乾かし終わったエリゼがイールの髪に櫛を入れてやっている。
「イール、これからは私もいなくなるから、自分のことはできるだけ自分でするのよ」
「えーね、いなくなるの?」
「何度か話してるでしょ、旅に出るの」
「わかんない!」
イールがエリゼにギューとしていかないで、甘えている。
すっかりお姉ちゃんと妹だな。これは別れの時には泣きじゃくりそうだな。
朝食を食べ終わるといつも通りに動物のお世話をして、その時には1頭1頭にエリゼが別れを告げているようだった。
「納得できない!」
動物達から聞きつけたのか、納得できないマンが現れた。若葉である。
「この繊細じゃない男に、花を育てられると思えない!」
「世話をするときのメモは渡しているから大丈夫よ。若葉も元気でね」
「いかないでよ、エリゼー」
「妖精仲間見つけたら、連れてくるからさ」
どうも繊細ではない男です。
俺にだって花の世話くらい……へ、へぇー思ったよりも手間暇かけてたんだなぁ。畑は水さえやってれば育つけど、花壇て雑草とかこんな世話しなきゃいけないの?
「イールも手伝う!」
「だって、イールもいるし大丈夫だよ」
「白その2はまだ子供じゃない」
その1は大福のことか?
不安そうにイールを眺めた若葉が私がいっちょ鍛えてやるか! みたいな話をしている。俺にも少しは期待してくれてもいいんだよ?
いつもと変わらない日常ってのは案外幸せなことで、モモがいなくなる時にも実感したけど、誰かがいなくなるときは物悲しくなる。
朝食を食べて、万全の旅支度をしたエリゼを見送るために、外に出る。
この短期間で成長もしたし顔立ちが変わったとはいえ知っている人と会うかもしれないと、少年かと思えるくらい髪を短く切り、目の色を変える魔道具もさくらさんから用意してもらって、ソード家の人間だとわからないようにカモフラージュもした。
イールは泣きじゃくるかと思ったら、大福の毛を握って泣かないように我慢していた。大福、毛とか痛くないか? 大丈夫かな。
「イール、泣かないで偉いね。モモも私も頻繁には来れないから、父のことを助けてあげるんだよ」
喋ってしまうと涙がこぼれ落ちてしまうからか、声を出さず何度も頷いている。
そんな姿を見ていると俺が泣きたくなってくるよ。
「にゃーん」
「だって姉さん。うぅぅ」
「父が泣いてどうするの。短い間でしたが、貴方は私の2人目の父でしたありがとうございました」
「これからもここはエリゼの家だからな。俺も変わらず父親のつもりでいるよ」
エリゼを抱きしめて、軽く背中を叩いてやる。その後にはしゃがんでイールともハグをしている。
「エリゼ、お前の帰りを待ってる人はいるんだ。自分の命は粗末にするな。過去は過去だ、今のお前は人を思いやれる立派な子だよ」
「にゃーん」
「わん」
「はい」
最後にエリゼと握手をすると、森に向けて歩を進める。
森に消える前に振り返り、大きく手を振ってくれたので振り返す。この時点でイールは泣き声は上げないものの鼻水と涙で顔がグシャグシャになっていた。
完全にエリゼの姿が消えると、大声で泣き始めて、大福の背中に顔を埋めている。
大福の毛が鼻水と涙でカピカピになりそう。そこを気にせず背中をかせる大福は太っ腹だな。後で一緒に風呂にでも入ろう。
「イール、中に入ろうか」
「あい」
イールの手を握って家に戻る。
エリゼがいなくなって寂しいけど、個人的には俺はイールがいて救われている。
また変わらない日常を頑張ろう。
「ねー」
イールと手を繋いで早朝の畑の周りを散歩する。溶けたばかりでグシャグシャしているので長靴は必須だ。そんな長靴でイールが水たまりでバシャバシャと遊んでいる。
大福もついてきたがっていたが、あん団子になるのは目に見えていたので家で待機をしてもらった。姉さんは俺の方から首にかけてバランス良くのっかている。
「エリゼも数日中には旅立つそうです」
「にゃーん」
「はい、旅の準備も万全で、さくらさんからマジックバック? っていう容量が多く入る鞄ももらいましたし、思ったよりも旅支度は楽になったみたいです」
俺からもマンとか防寒具、この世界に合致したものを加工小屋の妖精さんを再び雇い入れて作ってもらった。財布とか小物なんかも色々とプレゼントをしてみたが、作りすぎと苦笑いをされてしまった。
だって、皮関連は余りがちなんだよね。そんなに作らないし、売ってもそこまでの値段にもならないから、こんな機会にと思ったけど鞄があるとはいえ、必要最低限にしておきたいらしい。
旅の工程を聞いたが、最終目標はビクドの最北端、帝国との国境近くある街を目指すとのことだ。
内戦もあって荒れ始めているので、魔物の駆除も含めて依頼が多いだろうと睨んでいるらしいけど、俺としてはいきなりそんな危険なとこに行かなくてものと話したが、本人ができるだけ人の役に立つことをしたいとのことだ。
「大丈夫ですかね」
「にゃーん」
「そこら辺のやつには負けないって、そこら辺のやつではない存在に会ったらと思うと」
「にゃーん」
そうですね、そんな心配してたら動けないのは確かですね。
あ、イールが転けてせっかくの白くて綺麗な髪が泥だらけになってしまった。大福と変わらんではないか。
「イール、大丈夫か?」
ケタケタと笑っているので大丈夫そうだ。
井戸の水は冷たいだろうが、軽く汚れを落として、裏口からお風呂場に直行する。
朝風呂が終わる頃にはエリゼが気を効かせて朝食を作ってくれていた。
「騒いでるのが聞こえたから、イール、あんた転んで泥だらけになったんだって? 気をつけないさいよ」
「あーい」
叱られているのにも関わらず、エリゼの懐に入り込むと腰に抱きついて、髪を乾かしてーと甘えている。
その仕草に怒る気力がなくなったエリゼがドライヤーを持ち出して、膝の上に乗せて乾かしてやる。羨ましいなぁ。
パンに卵焼き、ベーコンにサラダに牛乳、うんうん、こういうのでいいんだよ。
俺が朝食を食べていると、髪にを乾かし終わったエリゼがイールの髪に櫛を入れてやっている。
「イール、これからは私もいなくなるから、自分のことはできるだけ自分でするのよ」
「えーね、いなくなるの?」
「何度か話してるでしょ、旅に出るの」
「わかんない!」
イールがエリゼにギューとしていかないで、甘えている。
すっかりお姉ちゃんと妹だな。これは別れの時には泣きじゃくりそうだな。
朝食を食べ終わるといつも通りに動物のお世話をして、その時には1頭1頭にエリゼが別れを告げているようだった。
「納得できない!」
動物達から聞きつけたのか、納得できないマンが現れた。若葉である。
「この繊細じゃない男に、花を育てられると思えない!」
「世話をするときのメモは渡しているから大丈夫よ。若葉も元気でね」
「いかないでよ、エリゼー」
「妖精仲間見つけたら、連れてくるからさ」
どうも繊細ではない男です。
俺にだって花の世話くらい……へ、へぇー思ったよりも手間暇かけてたんだなぁ。畑は水さえやってれば育つけど、花壇て雑草とかこんな世話しなきゃいけないの?
「イールも手伝う!」
「だって、イールもいるし大丈夫だよ」
「白その2はまだ子供じゃない」
その1は大福のことか?
不安そうにイールを眺めた若葉が私がいっちょ鍛えてやるか! みたいな話をしている。俺にも少しは期待してくれてもいいんだよ?
いつもと変わらない日常ってのは案外幸せなことで、モモがいなくなる時にも実感したけど、誰かがいなくなるときは物悲しくなる。
朝食を食べて、万全の旅支度をしたエリゼを見送るために、外に出る。
この短期間で成長もしたし顔立ちが変わったとはいえ知っている人と会うかもしれないと、少年かと思えるくらい髪を短く切り、目の色を変える魔道具もさくらさんから用意してもらって、ソード家の人間だとわからないようにカモフラージュもした。
イールは泣きじゃくるかと思ったら、大福の毛を握って泣かないように我慢していた。大福、毛とか痛くないか? 大丈夫かな。
「イール、泣かないで偉いね。モモも私も頻繁には来れないから、父のことを助けてあげるんだよ」
喋ってしまうと涙がこぼれ落ちてしまうからか、声を出さず何度も頷いている。
そんな姿を見ていると俺が泣きたくなってくるよ。
「にゃーん」
「だって姉さん。うぅぅ」
「父が泣いてどうするの。短い間でしたが、貴方は私の2人目の父でしたありがとうございました」
「これからもここはエリゼの家だからな。俺も変わらず父親のつもりでいるよ」
エリゼを抱きしめて、軽く背中を叩いてやる。その後にはしゃがんでイールともハグをしている。
「エリゼ、お前の帰りを待ってる人はいるんだ。自分の命は粗末にするな。過去は過去だ、今のお前は人を思いやれる立派な子だよ」
「にゃーん」
「わん」
「はい」
最後にエリゼと握手をすると、森に向けて歩を進める。
森に消える前に振り返り、大きく手を振ってくれたので振り返す。この時点でイールは泣き声は上げないものの鼻水と涙で顔がグシャグシャになっていた。
完全にエリゼの姿が消えると、大声で泣き始めて、大福の背中に顔を埋めている。
大福の毛が鼻水と涙でカピカピになりそう。そこを気にせず背中をかせる大福は太っ腹だな。後で一緒に風呂にでも入ろう。
「イール、中に入ろうか」
「あい」
イールの手を握って家に戻る。
エリゼがいなくなって寂しいけど、個人的には俺はイールがいて救われている。
また変わらない日常を頑張ろう。
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