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3章
もちもち
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雪が降り始めると、イールはあまり外に出たがらず夜泣くことが多くなった。
冬に良いイメージがないのだろう。村での扱いを考えれば冬なんて1番、命の危険を感じる季節だし、徐々に慣れてもらうしかないだろう。
「だったら餅つきじゃない!」
「エリゼがしたいだけだろ」
今年はモモもいないし、エリゼだけなら餅つきをしなくてもいいかな、なんて考えていたが、イールに楽しい思い出を作るためには、イベントごとは大事か。
去年使用した杵と臼を引っ張り出して、縁側前の庭先にいつものセットを展開する。今年は俺も動かんといけないのか。
「なにー?」
縁側をイールが覗き込んでくる。日々、言葉を流暢になってきており、仕草と相まって可愛らしさが倍増している。
「餅つきだよ。美味しくて楽しいイベントだよ」
「もちー?」
「もっち、もっちで美味しいんだよ! イール、お姉ちゃんを応援しててね」
応援必要かな? パチパチと手を叩いて、いーね、ちちーと応援してくれている姿が可愛いのでこれは必要なものだな。うん。
「いいかいエリゼ、モモじゃないんだからゆっくり突いてくれよ?」
「わかってる!」
「わかってない! 早いって! 早い!」
手が挟まる! イールがキャッキャと手を叩いて喜んでいくれているからいいのか? いや、イールが勘違いしたり、マネでもしたらと思うと。エリゼが悪といわ言わないが、イールにはもう少しお淑やかに育ってほしい。
出来立ての餅をイールの皿に乗せる。喉に詰まらせたら大変なのでできるだけ小さい玉のような形状の餅を出す。
真っ白な小さい物体に首を傾げるイール。隣では姉さんと大福が大きな白い物体にあんこや砂糖醤油をつけて美味しそうに食べている。
それに習って、イールも真っ白の餅を口運が、首を捻って咀嚼する。味しないもんね。
「これがお餅だよ。他にもあんこや砂糖醤油、きな粉もあるから、つけて食べてみようか」
味変をして出すと、今度は満面の笑顔で食べすすめてくれる。
ただ途中で不満顔をして、エリゼが餅をにゅーんと伸ばしている姿を指差している。あれをしたいのか?
「エリゼもにゅーんてふざけるのはやめなさい。イール、あれはお行儀悪いしからダメだよ」
うーとは言うものの、なんとか納得してくれた。
そこまではよかったが、夜になっても朝になってもイールがもちもちと小躍りをして、餅を所望してくるのにはまいった。
「もっち、もっち、もちもち」
「父、4日間もお餅は流石に……」
「この可愛いダンスを見てお餅を出すなって言うのか!」
「うん」
「にゃーん」
だって、だって、あのダンスを見れるなら出したくなっちゃうでしょ?
「にゃーん」
姉さんだって結構甘やかしてないですか? 違いますか、そうですか。
確かに姉さんは厳しいとこは、しっかりしてますもんね。
「ごめんね、イール。今日は餅は出ないんだ、あれは冬、お正月期間のひと時の幻想のようなものなんだ」
全ては理解できないようだが、出てこないということはわかったようで悲しそうな顔をしている。
俺の表現も少し詩的だったかな。うふふ。
「もちもち……」
悲しそうにはしているけど、冬の楽しみができたと考えれば悪いイメージの払拭にはなっただろうか。
炬燵に餅つき、冬って楽しいでしょ? それ以外の楽しみ。ゴロゴロするくらいか。
正月ってこともあって休みたいのは山々だけど畑仕事に動物のお世話もあるので完全な休みっていうのは難しい。畑は新しい種を植えるのはお休みで、動物のお世話のみ行う。
イールも今日は外に出て動物のお世話を一緒にしてくれたので一歩前進といってもいいだろう。
チラチラと顔を出していた雪が本格的に降り始めると、イールにはフカフカのコートや手袋をプレゼントしてみたら、案外簡単に外で遊ぶようになった。
一緒にかまくらや雪だるまを作ったり、雪合戦をしてはみたが、エリゼの手加減していると言い張る豪速球を笑いながら避けるイールの姿を見て少し遠い目になってしまった。
普段、畑仕事とかしている間には姉さんと大福はイールにどんな教育を施していたのだろうか。
なんでこうも俺の娘達は人離れした子に育ってしまうのだろうか。まぁ、この厳しい世界で力なんてあるだけいいんだろうけど。
「姉さんはどんな教育施したんですか」
「にゃーん」
「普通ですか。それにしても、もう少ししたらエリゼも出て行っちゃうんですよね」
「にゃーん」
「そうですね。モモ同様に旅支度を整えてやらないとですね」
生涯の別れというわけではないし、過ごした時間こそ、長くはないけど寂しいは寂しい。
エリゼは自分の過去の過ちを飲み込んだ上で、次に進もうとしている。精一杯応援をしてやりたい。
さくらさんに中古の便利な冒険者道具とか譲ってくれないか相談してみよう。
冬に良いイメージがないのだろう。村での扱いを考えれば冬なんて1番、命の危険を感じる季節だし、徐々に慣れてもらうしかないだろう。
「だったら餅つきじゃない!」
「エリゼがしたいだけだろ」
今年はモモもいないし、エリゼだけなら餅つきをしなくてもいいかな、なんて考えていたが、イールに楽しい思い出を作るためには、イベントごとは大事か。
去年使用した杵と臼を引っ張り出して、縁側前の庭先にいつものセットを展開する。今年は俺も動かんといけないのか。
「なにー?」
縁側をイールが覗き込んでくる。日々、言葉を流暢になってきており、仕草と相まって可愛らしさが倍増している。
「餅つきだよ。美味しくて楽しいイベントだよ」
「もちー?」
「もっち、もっちで美味しいんだよ! イール、お姉ちゃんを応援しててね」
応援必要かな? パチパチと手を叩いて、いーね、ちちーと応援してくれている姿が可愛いのでこれは必要なものだな。うん。
「いいかいエリゼ、モモじゃないんだからゆっくり突いてくれよ?」
「わかってる!」
「わかってない! 早いって! 早い!」
手が挟まる! イールがキャッキャと手を叩いて喜んでいくれているからいいのか? いや、イールが勘違いしたり、マネでもしたらと思うと。エリゼが悪といわ言わないが、イールにはもう少しお淑やかに育ってほしい。
出来立ての餅をイールの皿に乗せる。喉に詰まらせたら大変なのでできるだけ小さい玉のような形状の餅を出す。
真っ白な小さい物体に首を傾げるイール。隣では姉さんと大福が大きな白い物体にあんこや砂糖醤油をつけて美味しそうに食べている。
それに習って、イールも真っ白の餅を口運が、首を捻って咀嚼する。味しないもんね。
「これがお餅だよ。他にもあんこや砂糖醤油、きな粉もあるから、つけて食べてみようか」
味変をして出すと、今度は満面の笑顔で食べすすめてくれる。
ただ途中で不満顔をして、エリゼが餅をにゅーんと伸ばしている姿を指差している。あれをしたいのか?
「エリゼもにゅーんてふざけるのはやめなさい。イール、あれはお行儀悪いしからダメだよ」
うーとは言うものの、なんとか納得してくれた。
そこまではよかったが、夜になっても朝になってもイールがもちもちと小躍りをして、餅を所望してくるのにはまいった。
「もっち、もっち、もちもち」
「父、4日間もお餅は流石に……」
「この可愛いダンスを見てお餅を出すなって言うのか!」
「うん」
「にゃーん」
だって、だって、あのダンスを見れるなら出したくなっちゃうでしょ?
「にゃーん」
姉さんだって結構甘やかしてないですか? 違いますか、そうですか。
確かに姉さんは厳しいとこは、しっかりしてますもんね。
「ごめんね、イール。今日は餅は出ないんだ、あれは冬、お正月期間のひと時の幻想のようなものなんだ」
全ては理解できないようだが、出てこないということはわかったようで悲しそうな顔をしている。
俺の表現も少し詩的だったかな。うふふ。
「もちもち……」
悲しそうにはしているけど、冬の楽しみができたと考えれば悪いイメージの払拭にはなっただろうか。
炬燵に餅つき、冬って楽しいでしょ? それ以外の楽しみ。ゴロゴロするくらいか。
正月ってこともあって休みたいのは山々だけど畑仕事に動物のお世話もあるので完全な休みっていうのは難しい。畑は新しい種を植えるのはお休みで、動物のお世話のみ行う。
イールも今日は外に出て動物のお世話を一緒にしてくれたので一歩前進といってもいいだろう。
チラチラと顔を出していた雪が本格的に降り始めると、イールにはフカフカのコートや手袋をプレゼントしてみたら、案外簡単に外で遊ぶようになった。
一緒にかまくらや雪だるまを作ったり、雪合戦をしてはみたが、エリゼの手加減していると言い張る豪速球を笑いながら避けるイールの姿を見て少し遠い目になってしまった。
普段、畑仕事とかしている間には姉さんと大福はイールにどんな教育を施していたのだろうか。
なんでこうも俺の娘達は人離れした子に育ってしまうのだろうか。まぁ、この厳しい世界で力なんてあるだけいいんだろうけど。
「姉さんはどんな教育施したんですか」
「にゃーん」
「普通ですか。それにしても、もう少ししたらエリゼも出て行っちゃうんですよね」
「にゃーん」
「そうですね。モモ同様に旅支度を整えてやらないとですね」
生涯の別れというわけではないし、過ごした時間こそ、長くはないけど寂しいは寂しい。
エリゼは自分の過去の過ちを飲み込んだ上で、次に進もうとしている。精一杯応援をしてやりたい。
さくらさんに中古の便利な冒険者道具とか譲ってくれないか相談してみよう。
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