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3章
白猫③
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いやいやと泣くイールをエリゼが抱えてなんとか引き離す。
「モモ、今のうちに早く!」
「イール、また帰ってくるから、お父さんとエリゼの言うことをちゃんと聞いてね」
モモとカイラちゃんは学校にまた行ってしまった。寂しくはなるが、静かにはならない。
イールは夕方になるまで、ご飯を食べずにモモを探し回っていた。勿論、結界の外に出ないように大福と姉さんもついてってくれた。子供のこととなると姉さんは本当に面倒見がいいな。
夕食の時間になると、歩き、泣き疲れたイールを大福が背に乗せて帰ってきた。
今日のご飯は焼肉丼とガッツリとしたメニューにした。
さっきまで泣いていた子猫が丼に顔を埋めてがっつく姿を見ると元気になったようで安心する。
モモがきた時よりもずっと年下だし、前にいた環境のせいで言葉を喋れない訳ではなく、精神的な問題で言葉を発することができないらしい。その辺も時間が解決をしてくれるといいんだけど。
イールは畑を駆け回り、動物達と遊び、川で魚を取ったり、とにかく子供のうちは遊ぶことが仕事だと姉さん達に任せて見守ることに徹していた。
1ヶ月も経過すれば自分からエリゼの手伝いをすると動物達のご飯を運んだり、ブラッシングの手伝いをするようになっていた。大福や姉さんの英才教育もあったのか、俺にブラッシングされている時よりも全員が嬉しそうにしている。いいんだけどさ。
そんな中でエリゼはイールのお世話に非常に協力的だ。どこか思い詰めている風にも見える。
「うん? いや、貴族ってなんなんだろうなって。昔の自分だったら感じなかった感情に押しつぶされそうになる。モモのお母さんの件もイールのこともそのお母さんの話もさ。なんで誰も何もしようとしないんだって苛立つ。この間まで私だって変わらないことをしていたのにさ」
本や勉強では知らなかった現実を知って自分自身に憤りを感じている。
気軽に気にするなとは声をかけることはできない。彼女が考えて飲み込む問題だろう。
当然押し潰されないようにフォローはするつもりだけど。
「早く一人前になりたい」
「ごめんな、色々手伝ってもらちゃって。時間も……ほら訓練とかしたいこともあるんだろ?」
「嫌味とかで言った訳じゃないから。大丈夫、ちゃんとやれることはやってるから」
頼もしいお姉ちゃんになったよ本当に。
モモもお姉ちゃんじゃないとか言っているけど、なんだかんだで、エリゼのことは認めている気がする。
そんなこんなで、イールが来て2ヶ月経過する頃には、俺が触っても怖がらなくなってきた。
そこは猫の気質なのか、縁側で茶を啜っていると、甘えモードの時に膝に乗ってくるようになった。可愛過ぎる。
まだ野生味は残っているが文化的な生活にも慣れてきて、箸はもちろん、スプーンの使い方も慣れ始めてきている。
田植えや麦の収穫を手伝ってもらったり、自然な笑顔が増えてきたタイミングでその時は訪れる。
「あーね」
「にゃーん」
え? イール喋らなかったか? 姉さんと額と額を合わせて擦りつけている。
エリゼも呼んでこないと!
「まだ髪を乾かしてないんだけど」
「いいから!」
お風呂上がりのエリゼを連れて、リビングに戻ると、イールは大福と姉さんと戯れている。
黙って見てるように、丸見えではあるが姿勢を低くしてテーブルの影に隠れる。
「わん!」
「だい!」
うぉー! 喋ってる! 笑ってる! エリゼと顔を合わせて、音が鳴らないように手をタッチする。
おっと、見つかったぞ? 先に飛び出したエリゼがイールを抱き上げてグルグルと振り回す。危ないせいかつーの!
「イール! 喋れてたじゃん! お姉ちゃんは? 私にも!」
「えーね?」
「おお! そうだよお!」
あーねが杏お姉ちゃん、えーねがエリゼお姉ちゃんってことか。大福がだい。俺は? パパは?
「さぁ、エリゼさんや、抱き上げるのを変わろうか」
「シャー!」
パパ泣いてもいいかな? 大福、今日は一緒に寝ようよ。
エリゼちゃんの腕からにゅるんとすり抜けて、降りると、俺の裾を掴んで引っ張る。
「ゆ!」
「なんだ? お風呂か?」
最近、タオルで作るクラゲを見せてから俺とお風呂には入ってくれるようになって、気分がノってる時はエリゼではなく、俺とお風呂に入りたがる。
4歳児なら本来はもうちょっと喋れるはずだが、イールのいた環境を考えれば話せるようになっただけでも大進歩である。
イールが豪快に服を脱ぎながらお風呂に向かうと、エリゼに怒られて追いかけられる。
その後を追って、脱衣所に行くと捕まって怒られている子猫。しゅんとしているのも可愛い。
大人の男ってのもあり、最初のハードルが高いので怒る担当はエリゼに任せっきりに現状はなっている。申し訳ないね。
「見事に怒られたな! さぁ、パパとお風呂に入ろうか!」
エリゼからイールを預かって、お風呂に入る。イールはハーフとはいえ、毛の部分が多いので頭皮を洗うようにして体を洗う。ガンジュさんとか獣人ってこう考えると洗うの大変そうだよなぁ。
猫は風呂嫌いというイメージはあるが、イールは湯船が好きなようで、目を細めて気持ちええと肩まで浸かる。
ひとしきり、タオルのクラゲで遊んだ後には上がって、牛乳を一杯飲み干し、乾かす作業に入る。
ドライヤーも嫌いではないようで、お風呂の時と同様に、暖かい温風に包まれて目を細めている。この気持ちがいい時に目を細める顔が最高に可愛い。親バカ? 上等じゃないか。
さてさて、いつになったらパパと呼んでくれるのかね。ゆっくりとイールの心の雪解けを待とうと思う。
「モモ、今のうちに早く!」
「イール、また帰ってくるから、お父さんとエリゼの言うことをちゃんと聞いてね」
モモとカイラちゃんは学校にまた行ってしまった。寂しくはなるが、静かにはならない。
イールは夕方になるまで、ご飯を食べずにモモを探し回っていた。勿論、結界の外に出ないように大福と姉さんもついてってくれた。子供のこととなると姉さんは本当に面倒見がいいな。
夕食の時間になると、歩き、泣き疲れたイールを大福が背に乗せて帰ってきた。
今日のご飯は焼肉丼とガッツリとしたメニューにした。
さっきまで泣いていた子猫が丼に顔を埋めてがっつく姿を見ると元気になったようで安心する。
モモがきた時よりもずっと年下だし、前にいた環境のせいで言葉を喋れない訳ではなく、精神的な問題で言葉を発することができないらしい。その辺も時間が解決をしてくれるといいんだけど。
イールは畑を駆け回り、動物達と遊び、川で魚を取ったり、とにかく子供のうちは遊ぶことが仕事だと姉さん達に任せて見守ることに徹していた。
1ヶ月も経過すれば自分からエリゼの手伝いをすると動物達のご飯を運んだり、ブラッシングの手伝いをするようになっていた。大福や姉さんの英才教育もあったのか、俺にブラッシングされている時よりも全員が嬉しそうにしている。いいんだけどさ。
そんな中でエリゼはイールのお世話に非常に協力的だ。どこか思い詰めている風にも見える。
「うん? いや、貴族ってなんなんだろうなって。昔の自分だったら感じなかった感情に押しつぶされそうになる。モモのお母さんの件もイールのこともそのお母さんの話もさ。なんで誰も何もしようとしないんだって苛立つ。この間まで私だって変わらないことをしていたのにさ」
本や勉強では知らなかった現実を知って自分自身に憤りを感じている。
気軽に気にするなとは声をかけることはできない。彼女が考えて飲み込む問題だろう。
当然押し潰されないようにフォローはするつもりだけど。
「早く一人前になりたい」
「ごめんな、色々手伝ってもらちゃって。時間も……ほら訓練とかしたいこともあるんだろ?」
「嫌味とかで言った訳じゃないから。大丈夫、ちゃんとやれることはやってるから」
頼もしいお姉ちゃんになったよ本当に。
モモもお姉ちゃんじゃないとか言っているけど、なんだかんだで、エリゼのことは認めている気がする。
そんなこんなで、イールが来て2ヶ月経過する頃には、俺が触っても怖がらなくなってきた。
そこは猫の気質なのか、縁側で茶を啜っていると、甘えモードの時に膝に乗ってくるようになった。可愛過ぎる。
まだ野生味は残っているが文化的な生活にも慣れてきて、箸はもちろん、スプーンの使い方も慣れ始めてきている。
田植えや麦の収穫を手伝ってもらったり、自然な笑顔が増えてきたタイミングでその時は訪れる。
「あーね」
「にゃーん」
え? イール喋らなかったか? 姉さんと額と額を合わせて擦りつけている。
エリゼも呼んでこないと!
「まだ髪を乾かしてないんだけど」
「いいから!」
お風呂上がりのエリゼを連れて、リビングに戻ると、イールは大福と姉さんと戯れている。
黙って見てるように、丸見えではあるが姿勢を低くしてテーブルの影に隠れる。
「わん!」
「だい!」
うぉー! 喋ってる! 笑ってる! エリゼと顔を合わせて、音が鳴らないように手をタッチする。
おっと、見つかったぞ? 先に飛び出したエリゼがイールを抱き上げてグルグルと振り回す。危ないせいかつーの!
「イール! 喋れてたじゃん! お姉ちゃんは? 私にも!」
「えーね?」
「おお! そうだよお!」
あーねが杏お姉ちゃん、えーねがエリゼお姉ちゃんってことか。大福がだい。俺は? パパは?
「さぁ、エリゼさんや、抱き上げるのを変わろうか」
「シャー!」
パパ泣いてもいいかな? 大福、今日は一緒に寝ようよ。
エリゼちゃんの腕からにゅるんとすり抜けて、降りると、俺の裾を掴んで引っ張る。
「ゆ!」
「なんだ? お風呂か?」
最近、タオルで作るクラゲを見せてから俺とお風呂には入ってくれるようになって、気分がノってる時はエリゼではなく、俺とお風呂に入りたがる。
4歳児なら本来はもうちょっと喋れるはずだが、イールのいた環境を考えれば話せるようになっただけでも大進歩である。
イールが豪快に服を脱ぎながらお風呂に向かうと、エリゼに怒られて追いかけられる。
その後を追って、脱衣所に行くと捕まって怒られている子猫。しゅんとしているのも可愛い。
大人の男ってのもあり、最初のハードルが高いので怒る担当はエリゼに任せっきりに現状はなっている。申し訳ないね。
「見事に怒られたな! さぁ、パパとお風呂に入ろうか!」
エリゼからイールを預かって、お風呂に入る。イールはハーフとはいえ、毛の部分が多いので頭皮を洗うようにして体を洗う。ガンジュさんとか獣人ってこう考えると洗うの大変そうだよなぁ。
猫は風呂嫌いというイメージはあるが、イールは湯船が好きなようで、目を細めて気持ちええと肩まで浸かる。
ひとしきり、タオルのクラゲで遊んだ後には上がって、牛乳を一杯飲み干し、乾かす作業に入る。
ドライヤーも嫌いではないようで、お風呂の時と同様に、暖かい温風に包まれて目を細めている。この気持ちがいい時に目を細める顔が最高に可愛い。親バカ? 上等じゃないか。
さてさて、いつになったらパパと呼んでくれるのかね。ゆっくりとイールの心の雪解けを待とうと思う。
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